(再録)安岡章太郎「雁行集」(世界文化社・2000円+税)、「でこぼこの名月」(世界文化社・21 | 野球少年のひとりごと

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(再録・2013.8.7既出)

民生委員・児童委員の主要な仕事のひとつに「赤ちゃん訪問事業」があり、女性の主任児童委員とともに生後1~2カ月の赤ちゃんのいるお宅を毎月訪問する。当地ではニュータウンであることにもより、毎月6~10人赤ちゃんが生まれる。一戸建てであるためか二人目三人目のお宅も多く、少子化の今日においてわが国にとってもよきことである。安否確認の意味もあって、必ず赤ちゃんの健康状態も見せて貰っている。学校協議会委員として小学校と関わり始めたのと、この赤ちゃん訪問がまあ楽しいことには違いない。当地が、街開きして5年ほど(只今1000軒、完成時1500軒)ですべてが新築の一戸建てであることから、民生委員のもうひとつの重要な仕事である生活保護者との対応から免れていることは、他の地区の委員と比べて責任も遥かに軽い。夏休みで、街の其処かしこから子供や幼児の声が聞こえてきて、何となく微笑ましく幸せな気分を味わっている。帰宅してしばらくすると、高校大学を通じての友人夫妻がクルマでやって来て取れたての胡瓜とトマトとインゲンを届けてくれる。午前中一緒に活動した主任児童委員の方も、同様に胡瓜とミニトマトを持ってきてくれたこともあり、サラダや漬物として活用の女房も大変ご機嫌。郊外に引っ越すとこういう望外の喜びが得られる。

 

 本の話である。昨日で読了の、安岡章太郎「雁行集」(世界文化社・2000円+税)に引き続き、「でこぼこの名月」(世界文化社・2100円+税)を読み始める。ともにエッセイ集であり、「雁行集」は1953年~2002年に書かれたもののうち単行本未収録を集めたものであるが、中々面白かった。「でこぼこの名月」は、美術・文学随想の集大成したものであり、こちらも楽しみである。落第を重ねた青春時代を持つ安岡のエッセイには、優等生では叶えられないような独特の滋味もあり、特に加齢とともにその魅力は増すように思う。また、その本当の魅力を分かるのに読者の側にも十分な加齢が必要かも知れない。

 

「雁行集」 躍る、沁む、響く“心”の名随想41篇。 “いのち”響き合う、すぐれた人間がいる光景。

 両親、師、友、仲間…。絵画、音楽、映画…。いま、その大半は失われたけれど、折節に積み重なった「出会い」と「交流」の憶い出は、天高く隊列をなして飛びゆく“雁行”にも似て、それぞれは独自の「点」でありながら、巧まざる“縁”の「線」となって、気高く、いとおしく、いい知れず美しい。

 河上 もう死のう、井伏。

 井伏 うん、死ぬか(笑)。しかしもうちょっと待て。

 この井伏さんの<もうちょっと待て>には滑稽な諧調の中に万感の想いがある。(「井伏さん」より)

 

「でこぼこ名月」 じんわりと沁みる、等身大の芸術随想。 おのが身の闇より吼えて夜半の秋 丸山応挙が描いた黒い犬の絵に蕪村がいう「おのが身の闇」とはなんであろう。黒い犬のなかに見た「闇」とはなんであろう。その「犬」がいったいどんなものか、私は一度見てみたいものである。 “手間ひま”惜しまず、足を使い“眼”を信じて、ものの見方・考え方の「道すじ」にこだわった、美術・文学随想の集大成。

 いい仕事をしているから妙に気になる“もの創り”の人々…。 ゴヤ 丸山応挙 富岡鉄斎 岩佐又兵衛 伊藤若冲 グレコ ✲ 蕪村 藤田嗣治 小出楢重 熊谷守一 地主悌助 ✲ シャガール カルロ・ザウリ W・アーヴィング 谷崎潤一郎 ✲ 森鴎外 夏目漱石 寺田寅彦 志賀直哉 永井荷風 太宰治 井伏鱒二 梶井基次郎 菊池寛 大佛次郎 小林秀雄(登場順)

 熊谷守一の書『心月孤○』に私が深い感銘を受けたのも、そこに直截の自我を貫きとおす熊谷氏の強さと澄明さがあるからだが、同時にそれが「でこぼこの名月」としての輝きを覚えさせるのは、その書に何か複雑なシタタカさがあって、それが私の心に強く訴えかけてくるからではあるまいか。安岡章太郎

 

 

「洋画家 仲村一男」のホームページ
 
http://www.nakamura-kazuo.jp