深田祐介「歩調を取れ、前へ!(フカダ少年の戦争と恋)」(小学館・1600円+税) | 野球少年のひとりごと

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午前中、近所の歯医者さんまで出かける。先々週に虫歯の治療で被せものをすべく型通りをしたものが不具合で、もう一度同じ作業を行うことになる。帰宅後は昼食をすませ朝刊を読み、池澤夏樹「科学する心」(集英社インターナショナル・1800円+税)に取りかかる。池澤夏樹で未読のものが本箱に十数冊ある、エッセイを集成した「風神帖」(みすず書房・2500円+税)、「雷神帖」(みすず書房・2500円+税)や読書録「嵐の夜の読書」(みすず書房・3000円+税)などはいつも気になっていてまだ読めていない。新刊のすべてを追いかけているという意味では、男性作家では小林信彦と村上春樹、池澤夏樹くらいになってしまっている。わたしと同世代という意味では中上健次も立松和平もいまはなく、村上、池澤のふたりくらいしかまともに仕事をしていると思えない。団塊の世代(広義での)、ベビーブーマーたちに意外と文学的な厚みを感じさせないのはなぜだろうか。

 

久しぶりにJBLを鳴らしているが、聴いているのも大変久しぶりの(ひと頃よく聴いたものであるが)アイルランドを代表する女声シンガー、メアリー・ブラックの「暗くなる前に」と「ノー・フロンティアーズ」の2枚のアルバム。それぞれ1990年、1989年の発売である。わたしの40歳はじめのころのロックやこのような音楽をよく聴いていた時代のものである。1955年生まれのメアリー・ブラックよりひと世代若い、1966年生まれのシンニード・オコナーもアイルランドの生まれだったし、同時代ではアメリカのスザンヌ・ヴェガ(1959年生まれ)などもよく聴いたものである。それぞれ「スザンヌ・ヴェガ/孤独(ひとり)」と「シンニード・オコナー/蒼い囁き」などの代表作も手元に持って来ていて、続けて聴く予定。

 

今日紹介する本は、深田祐介「歩調を取れ、前へ!(フカダ少年の戦争と恋)」(小学館・1600円+税)である。深田祐介というと、日本航空に勤めながら執筆活動を続け「新西洋事情」で第7回大宅壮一ノンフィクションや「炎熱商人」で第87回直木賞を受賞しているが、晩年に発表された自伝小説である「歩調を取れ、前へ!(フカダ少年の戦争と恋)」が、わたしの自伝や回想録好きを別にしてもベストのように思う。戦争末期の、こちらは東京から地方への疎開を描いた小林信彦の「東京少年」など一連のものと並ぶ傑作であると思う。

 

深田祐介「歩調を取れ、前へ!(フカダ少年の戦争と恋)」 著者初の自伝小説 B29の空襲が迫る東京・麹町、軍事教練に励む中学生、女学生の青春があった

(目次)玉砕教練/昭和十九年正月、赤倉観光ホテル/セントバーナードの流浪/実弾射撃と夕立/東京大空襲/「ドイツ復員神父」/キスと発熱/B29馬乗り事件/燃えるアスファルト/石野少年、明治座に死す/再疎開そして敗戦/焼け跡/桜吹雪く一番町…ほか

本書は文春文庫でも読めるが、現在絶版中のようである。

 

池澤夏樹「科学する心」 人間にとって科学とは何かを広範囲のテーマから探る。
 「あまりに面白くて一晩に一気に読み終えました。この広大なテーマでエッセイを書ける人は他にいません」吉川浩満(『理不尽な進化』著者)
 大学で物理学科に籍を置いたこともある著者は、これまでも折に触れ、自らの作品に科学的題材を織り込んできた。いわば「科学する心」とでも呼ぶべきものを持ち続けた作家が、最先端の人工知能から進化論、永遠と無限、失われつつある日常の科学などを、「文学的まなざし」を保ちつつ考察する科学エッセイ。
(目次)第一章 ウミウシの失敗
    第二章 日時計と冪とプランク時代
    第三章 無限と永遠
    第四章 進化と絶滅と愛惜  
    第五章 原子力、あるいは事象の一回性 
    第六章 体験の物理、日常の科学
    第七章 知力による制覇と得失『サピエンス全史』を巡って
    第八章 『昆虫記』と科学の文学性
    第九章 「考える」と「思う」の違い、三本のSF映画によるAI論
    第十章 主観の叛逆、あるいは我が作品の中の反科学
   第十一章 パタゴニア紀行
   第十二章 光の世界の動物たち 桑島からカンブリアへ

 

 

「闘牛」
油彩380×455センチ(1969)
「洋画家 仲村一男」のホームページ
 http://www.nakamura-kazuo.jp