レイモンド・チャンドラー「さよなら、愛しい人」(早川書房・952円+税) | 野球少年のひとりごと

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また、父・洋画家「仲村一男」の作品を毎日紹介しています。

(再録・2015.12.9既出)

レイモンド・チャンドラー「ロング・グッドバイ」(早川書房・1905円+税)を皮切りに、同じくレイモンド・チャンドラー「さよなら、愛しい人」(早川書房・952円+税)、マイケル・ギルモア「心臓を貫かれて」(文藝春秋・2816円+税)と、立て続けに村上春樹の翻訳によるものを読んでいる。村上の翻訳は、今日的でありながらも意を尽くしている気がしてとても読みやすい。それと、選択した著作が彼にとって特別であったに違いなく、その思い込みも大きく作用しているように思われる。その翻訳に、彼のセンスのよさが其処かしこに感じられて読んでいて大変に気持ちがいい。もうしばらく彼の翻訳物を追いかけようと考えている。

 

レイモンド・チャンドラー「さよなら、愛しい人」  刑務所から出所したばかりの大男へら鹿(ムース)マロイは、8年前に別れた恋人ヴェルマを探して黒人街にやってきた。しかし女は見つからず激情に駆られたマロイは酒場で殺人を犯してしまう。現場に偶然居合わせた私立探偵フィリップ・マーロウは、行方をくらました大男を追って、ロサンジェルスの街を彷徨うが…。マロイの一途な愛は成就するのか?村上春樹の新訳で贈る、チャンドラーの傑作長編。『さらば愛しき女よ』改題。

 

マイケル・ギルモア「心臓を貫かれて」  生きてここを出ていくことはできない。ゲーリーは物心ついたときから激しく愛を求め、常に激しい暴力で報いられた。家族の悪霊は歴史の闇の奥から、執拗に彼の魂を追い求め続けた。その恐怖の世界を抜け出すための手だては、たったひとつしか残されてなかった。血は流されねばならない。 全米批評家協会賞受賞ノンフィクション作品

 ひとつの物語を語りたい。殺人の物語である。肉体の殺人であり、精神の殺人の物語である。僕はこの物語に出てくる死者たちのことを知っている。彼らがなぜ他人の死を作りだしたか、なぜ自らの死を求めたかを知っている。ここから立ち去りたいと望むのなら、僕は自分の知っていることを語らなくてはならないのだ。だから、さあ、話を始めよう。/僕の兄は罪もない人々を殺した。名前をゲイリー・ギルモアという(「プロローグ」より)

 『心臓を貫かれて』を訳したことによって、僕が一人の人間として学ぶことのできたものは数多くあった。予想を超えて数多くあった。同時に、事実の-少なくともある種の事実の-巨大さと強烈さというものを、一人のフィクション・メイカーとしてしみじみ身にしみて感じることになった。この本には何かしら心に深く染みつくものがある。

あえて一言でいってしまうなら、本書は殺人事件を題材にしたノンフィクションである。しかしただそれだけではない。そこには身の毛もよだつ、ゴシック・ホラー的な因縁話がある。幽霊も登場する。死霊(「らしきもの)が、人々の運命を次々に狂わせていく。でも、本当に怖いのは、むしろ生きている人間である。)「訳者あとがき」より)

 

 

 

作品は、「カニュ・スメール」

油彩 318×410センチ(1977)
「洋画家 仲村一男」のホームページ

  http://www.nakamura-kazuo.jp