こんにちは、税理士の柿白です
本日は、相続時精算課税制度のご案内です。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母または祖父母などから、18歳(注1)以上の子または孫などに対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の特例制度です。
(注1)「18歳」とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。
通常の「暦年贈与」の場合は、1月から12月までの贈与について非課税枠110万円があり、それを超える贈与をした場合は贈与税が課税されます。
一方、この特例を利用すると、2,500万円までは無税で贈与ができます(確定申告が必須です)。
めちゃめちゃいい制度じゃん
っというわけには残念ながらいきません
読んで字のごとく、その時は無税で贈与できますが、贈与者の相続が発生したときに、贈与した財産が相続財産として加算、課税されます。1,000万円の現金を父から長男へ精算課税を利用して贈与をします。死亡時には当然そのお金は長男が持っていますが(もしくは使用済みで0円でも)、相続税の計算上は、父の財産に贈与した1,000万円を加算して計算します。
したがって、根本的な相続税の節税にはなりません…
また、この相続時精算課税制度には重大な欠点がありましたそれは、いったん、相続時精算課税制度を利用すると「暦年贈与」が利用できないということです。「暦年贈与」の110万円の基礎控除が適用できなくなることは、相続税対策の王道が使えないということです
相続税対策が必要な人にとっては、これは非常に厳しい選択になります。
このような状況のなか、相続時精算課税制度を利用する場合としては、
①生前に贈与をしたい特段の理由がある。
②値上がりが予想される財産(不動産や金融資産)を贈与する
③賃料収入が発生する不動産等(賃貸不動産や株式)を贈与する。
①については、相続で揉めそうだから生前に名義変更をしておきたい場合などがあります。祖父や父の所有の土地に、長男や孫が家を建てたが、相続で揉めるのが不安なので、生前のうちに自分の名義にしておきたい。この場合は、精算課税を利用すれば、一般の贈与と比較しはるかにローコストで名義変更が可能です。ただし、実際にもめてしまった場合は特別受益としてもち戻しの対象になる可能性があります。
②についてですが、相続時に加算される評価額は贈与時の価額となります。したがって、土地2,000万円(贈与時の評価)を精算課税による贈与をした場合において、相続発生時の評価は2,500万円だったとしても、加算される金額は2,000万円となります。したがって、値上がりが予想される財産の場合は、相続税の節税ができることになります。逆に値下がりがされた財産の場合は、悲しいことになってしまいます(増税)
③について、相続税の納税者の場合、賃貸不動産を所有している方が多くいらっしゃいます。賃貸不動産を贈与すれば、その後の賃料は受贈者が受け取ることができます。父(贈与者)の金融資産の増加をおさえることができ、長男(受贈者)は、賃料収入を納税資金として確保していくことが可能です。これは、「相続税対策」および「納税資金対策」になりますただし、所得税の負担を考えると、現役世代である長男さん等の場合だと給与所得があり、そこに不動産所得が上乗せされますので、所得税負担は父のときよりも増加する可能性があります
また、②との合わせ技もあります。事業用の定期借地権により店舗などへの土地を賃貸している場合(20年の契約の場合)は、設定時の評価額は20%の減額ができます。1億円の土地は、8,000万円の評価となります(2,000万円の財産圧縮効果)。一方、残りの契約期間が減ってくると評価減は減少します(5年以下は5%の減額)。例えば、契約してから15年後に相続が発生した場合の評価額は(値上がりが無かった場合)9,500万円となります。したがって、設定時に精算課税贈与をすれば、賃料収入は長男等へ移転することができ、相続時に加算される土地は20%減額された評価額(上記事例の場合は、8,000万円)にすることが可能です。
過去に実際に私が担当したお客様は上記のケースにより精算課税を利用した方はいらっしゃいますが、やはりそこまで一般的ではありませんでした。
それはやはり、「暦年贈与」を一切利用できなくなるというデメリットが非常に大きかったからです。
しかし、今後、「相続時精算課税制度」の利用が増えてくる可能性があります
それは、新たに「基礎控除」が創設され、年間110万円までの精算課税贈与は、相続財産に加算されません。また、贈与税の申告も不要です。令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税または贈与税について適用されます(令和5年度税制改正大綱)。
この改正には正直驚きました
最初さらっと読んだときは「暦年贈与」の利用が今後併用可能になるくらいかなと思いました。
それだけでも大きな改正です。前述したデメリットが無くなりますから。
全く違いました年間110万円までの精算課税贈与については、相続財産に一切加算がされません
これは、前々回のブログでご案内した暦年贈与の7年内贈与加算の改正(増税)と真逆のイメージ(減税)です。
税務通信での宮沢洋一氏(自民党税調会長)の記事を読むと、過去のブログでもご案内しております、一部の富裕層が利用可能な相続税率と贈与税率との差を利用した「暦年贈与」をとにかく封じ込めたかった印象で、精算課税の基礎控除については、少額不追及の考え方から創設されたようです(飴と鞭ですね)。
まだ詳細がでておりませんが、基礎控除以下については申告不要となると相続税申告において把握するのが大変そうだな…という不安が実務家としてよぎりましたが、納税者にとっては、相続時精算課税の利用がしやすくなり選択肢が広がったことは大きなメリットといえます
ご高齢で7年間のもち戻しを考慮すると節税効果は期待できない、毎年110万円の贈与を行っているような方の場合は、相続時精算課税を利用した方が暦年贈与と比べて有利になるケースが今後想定されます。
相続税申告・相続税対策は
岡崎市・西三河の税理士法人クレサスへぜひご相談ください