武者小路実陰 和歌 絹本
横49.0㎝×19.5㎝
江戸時代前期・中期の著名な公卿歌人である武者小路実陰(1661年-1738年)の和歌遺墨である。
和歌の題は「都の時雨(しぐれ)」とし、二首読んでいる。
一首目
晴るる間も 都は四方の 山めぐる
雲に行えを 見る時雨かな
(訳)
晩秋、都(京都)に雲の晴れ間があっても、刻々と山にめぐる
雲を見ていると、次に時雨(しぐれ)があるあたりが推測される
ことだ。
晩秋の京都の変わりやすい天候を、俯瞰的に眺めて詠んだ和歌と言えよう。
二首目
雲晴れば 雪をや見まし 時雨する
都の不二(比叡山のこと)の 寒き山の背
(訳)
都の町中では寒い時雨が降っているが、この時雨を降らす
雲が晴れたならば、町中よりより寒い比叡山の山の背には
雪が降り積もっていることであろう。
眼前の初秋の寒い時雨から、北部にある比叡山の雪を連想して詠んだ和歌である。
霊元上皇から古今伝授を受け、江戸時代初期から中期にかけて和歌の名手と言われた武者小路実陰だけあり、優れた和歌二首である。都の自然をよく観察し、感性豊かに表現されている。
また、書は「尊純流」の名手といわれるだけあって、流麗で力強く、気品のある書体となっている。
中御門・桜町両天皇の歌道師範を務めるなど、長年の歌道への貢献を評価され、最晩年には武者小路家の家格としては異例の「従一位」「準大臣」までに叙せられた。
長寿(78歳)であったため、遺墨も多く残っているようである。