「TVCMを読み・説く」。第12回は日清食品「カップヌードル FREEDOM PROJECT 」です。

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宇多田ヒカルさんの曲『This Is Love』に合わせて「AKIRA」で有名な大友克洋氏のアニメをTVCM、ネット動画、DVDとクロスメディア戦略を取り入れて、大友氏の世界観を展開するCMです。


CMは今まで3篇に分かれており、カップヌードルはおのおののドラマの一場面にだけ登場します。カップヌードルのCMなのに、カップヌードル自体は大友氏の描いた世界の一部に登場してくるだけなのです。これはドラマなどで使用されているプロダクトプレイスメント(※)という手法であり、商品をドラマの中に登場させることで、商品を認知してもらう方法です。
このCMは若者にターゲットを絞り、若者に絶大な人気のある大友氏と宇多田氏による世界観の創出と「フリーター」に代表される若者を象徴する言葉「自由」をモチーフに掲げることで、商品のかっこよさを創造しています。


日清食品宣伝部長の佐々木氏は次のようにおっしゃっています。
『「FREEDOM PROJECT」は、まさにこの『若者』に向けてのメッセージであり表現でもあります。・・・(中略)・・・近年、飽和状態の市場の中で商品ブランド数は多岐にわたり、特に「若者」にとってカップヌードルが「希薄な存在」となることを懸念しています。見ていて楽しく、期待感のある展開を目指します』(宣伝会議 2006/8/1号より)


もともとプロダクトプレイスメントは、ビデオデッキやHDDレコーダのCMスキップ対策として、米国で取り入れられたものです。
このCMの面白く新しいところは、もともとCM飛ばし対策で広告効果を発揮するプロダクトプレイスメントを、CMの中に魅力ある世界観を創造することで、逆にCMでプロダクトプレイスメントを実践してしまうところにあります。


※プロダクトプレイスメント:映画やテレビ番組の中で企業の商品をさりげなく露出することによって、広告効果を上げようとする表現手法のこと。映画『E.T.』のなかで、E.T.がリース社のキャンデーを食べたところ、キャンデーの売上が公開前の65%も伸びたことに由来すると言われる。

(宣伝会議マーケティング・コミュニケーション大辞典 より)

「TVCMを読み・説く」。第11回は第一三共ヘルスケアの「カロヤン ジェルローション1 」です。


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このCMは佐藤浩市氏が出演しており、冒頭「あなたは30代ですか?」と問いかけ、さらに「気になるのは生え際ですか?」と問いかけてきます。そして「良かった!間に合いました!」と佐藤氏は安堵し、「カロヤン ジェルローション1」の紹介をするという構成です。


「カロヤン ジェルローション1」は医薬品発毛促進薬(育毛剤)で、液ダレしにくいジェルローションタイプであるのが特徴です。(カロヤンWebサイトQ&A より)

「カロヤン」は、1973年に第一製薬(現第一三共ヘルスケア)から発売された医薬品の毛髪の成長を促す「育毛剤」であり、ヘアケア産業を牽引した存在でした。
しかし、1999年に大正製薬が国内唯一の医薬品の「発毛剤」として「リアップ」を発売しました。
「リアップ」は、毛髪が抜け落ちた後に新しい毛髪が生えてくる手助けをする「発毛剤」として、「育毛剤」とは機能を差別化されている商品です。
最近では大正製薬が29%でシェアトップとなり、第一三共は7.6%と第五位で(「日経ナビ2008:シェア調査 」より)、「カロヤン」のシェアは「リアップ」に奪われた形となってしまいました。


第一三共の調査 によると、男性の育毛剤使用者は、20~30代で4割を占め、この世代の7割が抜け毛を気にしているそうです。第一三共は、「カロヤン ジェルローション1」を発売する以前は40代や50代をターゲットとしていましたが、抜け毛を気にする割合は40代が19%、50代が9%とそれほど多くなく、本当に攻めるべきターゲット20~30代を落としていました。

よって、第一三共は「生え際が気になる20~30代」にターゲットを絞り、生え際などピンポイントでの活用ができる液だれしにくいジェルタイプにし、価格を従来品の半額程度にして購入しやすることで、ニッチャーのセオリーである市場細分化(※)を図ったと推測できます。



※市場細分化:消費者をニーズ、特性、行動に基づいてグループに分けし、それぞれに異なる製品またはマーケティングミックスを必要とする消費者グループとして市場を分割するプロセス(フィリップ コトラー, ゲイリー アームストロング, Philip Kotler, Gary Armstrong, 月谷 真紀, 恩蔵 直人コトラーのマーケティング入門 より)

「TVCMを読み・説く」。第10回はリクルートのホットペッパー「SMAP×Hot Pepper 」です。

(過去の記事(第1回~第9回)はこちら 。)


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このCMは全部で8種類(統合版含む)あり、SMAPの少年期の映像を使用して吹き替えをおこなうCMです。リクルートでは「SMAPアテレコCM」とWebサイト上で紹介しています。

「アテレコ」とは「アフレコ(after recording)」から派生した言葉で、画面の映像に合わせて音を「あて」るところから由来します。Wikipediaによると「アテレコ」という言葉は認知度が低い言葉であり、死語となりつつあるらしく、「アフレコ」が一般的とのことです。
過去リクルート以外「アテレコ」を活用したCMは見あたらず(注)、この「アテレコCM」というのは新しいCMジャンルと言えます。
注:Google「"アテレコcm" -smap -hot -pepper -リクルート -ホットペッパー -hotpepper」にて検索

リクルートではSMAPが登場するパターンの前にも外国人が出演する「アテレコCM」をいくつか展開 しており、2006年度TCC(東京コピーライターズクラブ)賞ではグランプリ を受賞しています。

また、今回出演しているSMAPは「2006年 年間キーワードランキング (infoseek)」の男女有名人部門で1位であり、TCC賞グランプリの「アテレコCM」と組み合わせることで広告効果は相当高くなると考えられます。
さらに本CMでは、SMAPの顔が埋め込まれているQRコードを活用し、Webサイトへの誘導もおこなっていました。

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複数のメディアの活用をクロスメディア(※)といいますが、人気度が高いSMAPの起用を軸としたこのクロスメディア展開は、最大限の広告効果を果たしているといえそうです。


※ クロスメディア:ある情報について、文字や音、あるいは手紙や電子文書などの、様々な表現媒体(メディア)を用いて表現することである(IT用語辞典バイナリー より)