連載「毎日がアーユルヴェーダ——糸島の台所から」第6回
14人分のキチュリを作った日、参加者のみなさんの中には自分のドーシャを知らない人もいらっしゃいました。
アーユルヴェーダを知らなければ、ドーシャという概念自体がないので当然ですが。
連載前回記事の試食会レポートはこちらから↓
ドーシャは、見た目でなんとなくわかります。骨格、肌の質感、目の大きさ、身長や体形。
ヴァータの人は軽くて動きが速い。ピッタの人は鋭くて熱い。カパの人は穏やかで、どっしりしている。
血液型は見た目ではわからないのと対照的です。
昔、自分をずっとB型だと思って生きてきた人が実はA型だったと知って、その後ちょっと性格が変わりました。
これ、基本的にはその人の性格なんだと思いますが、とても示唆的でもあって。
血液型判断は、からだではなく自己認識を変えます。
「私はB型だから大雑把でいい(細かいB型もいます)」という物語が行動を作っていて、物語が書き換わった時にその人の行動も変わる。
ドーシャ診断でも、似たようなことは起きます。
「私はヴァータだったんだ」と知った瞬間に、何かいつも慌ただしく動いている自分を自覚したり、乾燥肌に納得して潤いのある食事を摂ろうかなという気になったり。
自分のからだや性質への理解が変わって食習慣にも影響を及ぼします。
違うのは、対象、見ているものが違います。
血液型は「自分はこういう人間だ」という認識を変える。対してドーシャは「自分のからだはこういう性質だ」という認識を変える。
習慣への気づきということも言えるかもしれません。動物行動学的な参考書か、からだのトリセツか。
もうひとつ、ドーシャが面白いのは、固定していないこと。
基本のドーシャは変わらずも、朝と夜、今行っている行動によってもバランスは動く。季節の変化でも違い、そして場所でも変わる。
今、夏の沖縄里帰り中です。
数日前に、ラジャスを連れてきた台風が来て、去った
外には出られなかったけれど、窓から見える空と海がみるみる変わっていくのを感じる。台風の前、気圧が下がって空気がざわざわと騒ぎ始めました。
島が、まずはヴァータで満たされる。
風の質が変わってヴァータが高まる。そしてピッタ——台風の中心に向かっていく熱と圧力。通過した後の雨と湿気は、カパ。
沖縄という土地は、トリドーシャ。
風が強く(ヴァータ)、日差しが鋭く(ピッタ)、湿気と雨が多い(カパ)。
三つ全部が揃っていてバランスが取れているとも言えるけど、台風という形で時々爆発する。あれはラジャスの極み——激性が一気に放出される瞬間。
そして台風は破壊だけではなく、沖縄に必要なものでもあります。海をかき混ぜて水温を下げたり、沖縄の生態系バランスを整えます。
必要な暴力、合法的に暴れる(笑)と言いますか。アーユルヴェーダでも、ラジャスは悪いものではなく、動かす力。停滞したカパを動かすのはラジャスの役割でもあります。
台風が去った後の沖縄は、穏やかです。
今回は海の濁りもあまりなくて、空気が澄んでいる
浄化されたあとの静けさ
サットヴァが戻ってきた感じ
台風が外で暴れている間に、糸島リトリートの食卓設計をしていました。
少し不思議な時間だったけれど、ある意味ぴったりだったかもしれません。嵐の中で、静けさを作る仕事をする。
言うまでもなく、糸島は沖縄とは空気が違う、湿度が違う、風の質も違います。よって食べるものが変わる。
マクロビと同じく、アーユルヴェーダもここに重要性を置いています。
土地のエネルギー、季節、気候——全部がからだのドーシャバランスに影響する。だから、その土地・その季節に合わせて食べることが、自己ケアの基本です。
糸島の8月は、暑い。ピッタを鎮めるのが重要。
8月のリトリートの食事メニューを作りながら、ずっとそのことを考えています。
3日間のテーマは、「ほどく→満ちる→寿ぐ」。
DAY1「ほどく」——到着した身体と神経を、まず休ませる。ヴァータを鎮め、ピッタの熱を和らげる。旅の疲れと日常の緊張をほどく一夜。
DAY2「満ちる」——海と畑の恵みを受け取る日。朝はイドゥリと糸島トマトのラッサム。昼はスリランカプレートを予定してます。
DAY3「寿ぐ」——最終日は祝福のミールス。生命力と祝祭性を、食卓に表現します。
8月の糸島における主テーマは「夏の熱を鎮め、感覚を澄ませる」こと。
胡瓜、コリアンダー、ミント、トマト、ゴーヤ、パイナップル、柑橘、青梅——涼やかで、からだの内側から冷ます食材たちが主役になります。
ドーシャの捉え方は、難しいものではありません。元々の性質はあるけれど、流動性もある。例えば目的地に急いでいる時、脈は速くなりヴァータが高まります。
季節が変わるように、土地が変わるように、からだも常に動いているのです。
からだの今の状態を知って、その日の食事を添えてみる。それは自分の命と親密になるということ。
自分の命の営みの立ち合い人になることです。
(次回につづく)
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