立川市への科学館設立を実現するためには ~課題を明確にし、解決を目指す~
立川市立小学校科学教育センターのOGである高校2年生が、高校の授業で、素晴らしい論文を作成しました。立川にも科学館があったらいいなという純粋な気持ちから研究した労作です。私としては、正に、教師冥利につきました。立川の科学センターのような活動を広げれば、未来は明るいと思いました。○〇さん、ありがとう!(匿名希望のため、お名前は伏せました)↓ ↓ ↓ 立川市への科学館設立を実現するためには ~課題を明確にし、解決を目指す~ 都立八王子東高校 所属ゼミ名 社会科学 〇〇 〇〇・第1章 序論(Introduction)第1節 問題提起・リサーチクエスチョン私は、「立川市への科学館設立を実現するためには~課題を明確にし、解決を目指す~」というテーマで探究活動を進めていく。立川市への科学館設立を実現するには、どのような課題がありどのように解決していけばよいかを考える。「科学館建設・運営計画」をテーマに地域に、貢献できるような研究にしたい。第 2 節 本論の目的・意義背景私がなぜこのリサーチクエスチョンを設定したかというと、多摩地域への科学館の必要性を強く感じていたからだ。私は小さいころから「科学」や「理科」が大好きだが、私の住む立川市周辺には総合的な科学館があまりないのでなかなか行けず、残念に思っていた。幼児や小学生は親の負担が大きくなるため、なかなか遠くへは行けない。また、小学生の時に参加した立川市科学教育センターの開会式で「将来立川市に科学館をつくりたい」というお話を受けたことが心に残っていたことも今回このテーマで探究をしようと思ったきっかけの一つだ。若者の理系離れが進んでいるといわれているが、科学に関する子供の好奇心を育てることは、科学技術の発展が目覚ましいこの現代でさらに重要になってくるだろう。このテーマを研究することで、「科学」と「地域」のつながりを明確にし、多摩地域への科学館建設を実現する手助けとなり、科学教育を発展させていきたいという思いでこの研究を進めていく。先行研究まず、科学館を建設する目的をさらに具体化するために、科学館があることのメリットを調べた。私が先程述べたような好奇心についての資料もみられた。科学館では普段目にすることがない実験器具やサイエンスショーを楽しめるので、好奇心が生まれる。また、子供たちの経験にもなる。もちろん科学に関する知識も増やすことが出来る。次に、東京都内の科学館存在状況について調べた。東京都には9つの科学館があり、そのうち2つが多摩地域に(西東京市、八王子市)に存在することがわかった。〈科学館建設対象地区の選定理由〉いろいろな市を調べたが、総合的な大きな科学館を建設するには立川市が一番適しているという結論に至った。立川市は、JR 線と多摩モノレールが乗り入れる多摩地域最大の駅(多摩地域の中で乗降者数第 1 位)があり交通の便が良く、多くの大型商業施設やオフィスビルが立ち並ぶ多摩地域の中心都市である。国立極地研究所や統計数理研究所等の研究所が立ち並ぶ上、市内の小学生向けに学校の授業とは別に観察や実験を行う「立川市科学教育センター」を市が行っており、科学教育に力を入れている市であることから立川市を研究の対象とすることにした。問題点多摩地域には科学館が 23 区と比べて少ない。科学館があることのメリットをみても、身近な場所に科学館があるのとないのでは子供の好奇心の発達や、科学に関する知識の量に差が生まれてしまうのではないか。そのような意味で、地域によって科学館がないのは問題である。先行研究を踏まえ、今回は立川市を舞台として、科学館建設の課題について探究する。仮説主な課題としては、「財源・土地確保が厳しい」「展示品を無事確保できるのか」「運営はどのように行うのか」の3点が挙げられるのではないか。それらの課題の改善案として、他市と共同で運営すれば金銭面や運営面での負担が分散され、解決につながるのではないかと考えた。また、市内の企業や団体に協力してもらい、財源や土地、展示品の確保を一緒に行い、地域が一体となって科学館建設に向けて動けば、スムーズに進むのではないか。・第2章 研究手法(Methods)私がこの研究に用いる手法は「文献調査」「統計データの活用」「専門家アプローチ」「アンケート調査」である。文献調査、統計データの活用では、公共施設の建設手順や運営方法に関する本や記事、データを調べ、分析・考察を行う。専門家アプローチでは、「立川に科学館を!」委員会代表の岡村幸保先生に情報やご意見を伺いながら探究する。また、中高生を対象にアンケートを行った。・第3章 探究結果(Results & Discussion)第1節 専門家アプローチこの節で調査する事柄・目的この節では、立川市立小学校科学教育センター指導企画主任でもあり、「立川に科学館を!設立準備委員会」の代表でもある岡村幸保先生に、メールにて質問形式でお話を伺う。実際に携わっている方にご協力いただくことで、科学館建設実現の課題点を明確にし、問題解決につながるような情報を知りたいと考えた。調査した結果私は、岡村先生に主に4つの質問をし、以下の通りそれぞれご回答くださった。(「科学センター」については先行研究にて説明した通りである。)① 科学館建設計画の進み具合について2015 年に立川市立科学センターの仕事を始めたときに、独自の建物もなく、立川八小の教室で講座を開いていました。50年以上の伝統と、約150人ものセンター員児童が在籍している科学センターですから、独立した施設があったらいいと、思っていました。そこへ、大きな企業から、水族館やプラネタリウムを作りたいというお話があり、私は科学館にしたらいいと考え構想図を描き発信しました。すると、市内の、たくさんの方々から、賛意と期待の声が集まってきました。強く賛同してくれた方が、「立川に科学館を!建設準備委員会」という、団体を作って、賛同者を集める活動を始めました。市内の有力な教育団体であるNPO法人立川教育振興会でも取り上げられ、広く市内の教育関係者や有力者にも広まりました。そして、市議会議員選挙で公約に掲げる方も現れました。市議会本会議でも取り上げられました。② 計画を進めるにあたり、どこでつまずいてしまっているか。公的な施設としては、市の考えは、市議会の答弁では、科学教育振興は賛成であるが、財政が厳しいという考え。民間では、儲かる施設ではないので、なかなか踏み切れない。③ 他の県や市の科学館建設計画書を読んだのですが、科学館の運営スタッフの他に大学や NPO、企業などさまざまな機関と連携していく必要があると感じた。立川市もそのような仕組みをとっているのか、またはとろうとしているのか。立川市として、建設したいという方針には至っていないので、そのような発想での議論はまだ無い。が、私も、その通りの考えで、官、産、学とさらに市民が共同して、建設を模索する方向に持っていきたいと考えている。④ 現時点での今後の見通しと最終的目標について市の方針を変えるために、市長選挙で公約にしていただくことにより、その方が当選したならば、大きく動く可能性があると考えている。科学センターも今年度は、300人を超えていることから、運営上も限界にあり、打開するために、科学学習施設を求めていく。廃校になった学校や既存の市の施設等の活用にも提案していく。当面の中規模の科学学習施設である。同時に、科学館を求める発信と運動は、継続していく。複数の市が共同するとか、歴史や文化・芸術の分野と共に文化施設とするとかして、基地跡の広大な土地がある立川に建てることが、方向として考えられる。科学だけ、立川市だけ、という「狭さ」を乗り越ええることも考えている。データに関する分析まず、立川市の小学生の科学教育センターへの参加状況や市議会本会議で取り上げられたことから、立川市への科学館建設は多くの人が望んでいることであり、科学教育振興をさらに充実していくべきなのではないかと考える。展示に関しては、多くの協力を得ることが出来そうな雰囲気であるが、科学館設立を実現させるための一番の課題は「財政」ということが明らかになった。財政に余裕が生まれなければ、その先の運営面の議論をするのは難しいだろう。しかし、財政は限りあるので、「科学館建設・運営の費用を抑える」又は「科学館の利益を上げる」ことができるような工夫が必要であると思われる。また、実際に市の方針を決め、それらを実行していく行政の方々への働きかけも重要となってくるのだろう。第 2 節からは主に「財政面」における課題解決に向けて探究する。第2節 立川市の財政 ~立川市の資料から読み取る~この節で調査する事柄・目的第1節より、科学館建設に関する課題として一番重大だと考えた「財政面」について着目し、立川市の財政の現状を知ると同時に、科学館建設の財源確保について考える第3節につなげる。調査した結果令和元年度の立川市の歳入と、東京都で財政力指数が一番高い武蔵野市の歳入を比較した。また、立川市には収益事業収入という収入があり、『立川市やさしい財政白書』(2021)には以下の通り記されていた。立川市には競技用自転車でレースをする競輪事業があります。昭和 26 年度の たちかわ競輪開設以来、一般会計などは競輪事業から平成 31 年度までに 1,328 億円を越える収益を繰り入れました。ピークの平成元年度には 78 億円もの繰り 入れがありました。その収入は、柴崎市民体育館や総合福祉センター、中央図書 館の建設、また、ごみ処理施設や立川駅南北駅前の整備など、立川のまちづくり のために使われてきました。18 年度において、一般会計には 1 年間で 1 千万円 の繰り入れがありましたが、31 年度は 1 億円の繰り入れとなっています。図:1 立川市 令和元年度の歳入 図:2 武蔵野市 令和元年度の歳入出典 立川市財務部財政課『立川市やさしい財政白書(2021)』より引用出典 武蔵野市『市報むさしの No.2151』より引用図:3 収益事業収入の推移出典 立川市財務部財政課『立川市やさしい財政白書(2021)』より引用データに関する分析立川市の財政は、市税が全体の半分を占めており、健全性を表す指数値を調べても、健全であると言える。しかし、国庫支出金や都支出金などある程度多くの補助を受けているという問題も否定できない。東京都の中で一番財政力がある武蔵野市と比べると、市税が武蔵野市の方が多く、支出金が占める割合を見ても、武蔵野市の方が自主財源の割合が大きい。「自主財源を増やす」ことが立川市にとって必要となってくるのではないだろうか。また、立川市には競輪事業があることが分かったが、一般会計歳入額において競輪事業の収入が占める割合は、近年多い年で 0.3 パーセントだ。競輪事業をさらに盛り上げて収益事業収入を増やし、科学館建設費用にも回すというのが理想ではないか。第3節 工夫で資金を確保するこの節で調査する事柄・目的この節では第 2 節で明らかになった財政の現状を踏まえて、財源を確保する「工夫」を見つけるため、文献調査をする。調査した結果どうすれば自主財源を増やせるかについて、前高知県知事の橋本大二郎(2014)はインタビューのなかで次のように述べている。人を呼びこみ、地方消費税を増やすしかありません。…これからは、国依存から脱却して地域の個性と独自性を伸ばし、人を呼びこむ力を身につけて自主財源を増やす。そうした取り組みが自治体には求められるのです。他市との共同での施設運営について、一般財団法人日本経済研究所調査局副主任研究員の霜中良明は『公共施設マネジメントにおける共同設置の効果と課題』(2018)の中で共同設置の効果について、「共同設置という手法が、規模の大きな施設の整備を実現したといえる。…玄関やトイレなどが県・市で共有でき、スペース と費用が削減できている。」と述べている。また、「共同設置、すなわち「施設を単独自治体で持たない」という選択の背景には、大きく分けて①コスト負担、②サービス向上の2つの問題への対応の必要性があると考えらる。」とも述べている。データに関する分析自主財源を増やすには、地域の魅力を発信し、地方消費税を増やすことが必要であることが明らかになった。立川をさらに盛り上げ魅力を引き上げていくのだ。そこから科学館建設へつなげていくために、私は立川を学問に特化した街にしたいと考えた。まずは、今現在ある南極北極科学館や防災館等の学習施設のさらなる充実化やそれらに関する広報の活発化に取り組む。そして、学習のために他の地域から多く人が来るようになれば、自主財源も多少は増えるのではないだろうか。また「学習の都市立川」となることで、科学館建設計画に賛同し、資金を援助してくれる企業が出てくるかもしれない。そのような意味で、今ある施設のサービス向上に力を注ぐのは1つの手法となるのではないか。また、私が仮説で述べた上、岡村先生もおっしゃっていた「科学館の共同運営」について様々なメリットがあることが明らかとなった。実際、西東京市にある多摩六都科学館は5つの市で運営している。仮説でも立てた通り、共同で運営することは、負担を分散し、負担を軽減する。また、それぞれの市の得意な分野での力が多く合わさるので、施設の利便性や展示内容の充実度が向上するのだと考える。共同で運営している市を含む広範囲の人々が利用しやすくなる他、運営を通して市同士のつながりが深まることも良い点だろう。ただ、立地や利用者によって負担額を変えなくては不平等である点についても考えなくてはならない。第 4 節 運営資金が底をつきない魅力的な科学館をつくるためにはこの節で調査する事項・目的この節では、資金確保について「何度も訪れたくなる魅力的な科学館をつくる」という視点から考えていく。私は、入館料で運営費をある程度まかなうことができれば、市の施設として財政の厳しさが軽減されることはもちろん、民間企業も市の意向に協力し建設に踏み切ってくれるのではないかと考えた。そのためには、市民にとどまらず遠方からも来る価値があるような科学館をつくることや何度も科学館を訪れる「リピーター」を増やすことが重要だと考える。調査した結果中高生を対象にアンケートをとった結果、43 の回答が得られ、結果は下記のようになった。Q7 魅力的な科学館にするために他にどのような工夫があればよいとおもいますか?(記述式)(任意)・身近に起こる現象の原理を物で再現する展示(例:ニュートンのゆりかご)・入場料を無料にする・難しい理論ではなく、身近な「なぜ?どうして?」というようなことをメインにする。注)アンケートの選定について、Q6 の質問は以下の論文を参考に作成した。データに関する分析Q1 から、科学館で体験型のプログラムや展示の見学をしたいという人が大半であることが読み取れる。実際、私が西東京市の多摩六都科学館に行った際には、月の重量を体感できる乗り物だけ驚くほどの行列をつくっていた。Q2、Q3、Q4 では、主に中高生やそれ以上の年齢をターゲットに来館者数を増やそうと考え、私の友達との見聞をもとに、アンケートを作成してみた。学校ではアニメやキラクターの話を皆よくしていることから、それらとコラボすれば科学館に来館するきっかけとなるのではないかと考えたが、意外にも興味ある人とない人が半々と分かれる結果となった。その一方で、他分野(アートや音楽等)と科学の融合を見てみたいと答えた人は 8 割を超え、需要があるのではないかと考えられる。Q5では、人が多く集まる場所に科学館を設置すれば、買い物ついでなど気軽に多くの人が科学館に訪れることができるのではないかと考えたが、グラフより約 7 割の人が行きたいと考えており、それなりの集客が見込まれる。このことが判明したことで、少なからず科学館建設計画に取り掛かるハードルが下がるのではないだろうか。Q6では、あまり取り扱われていないテーマを扱うことで、他の科学館と差別化し、来館者数を増やせば良いのではと考え、アンケートをとった。「生活に使用されている科学技術」に興味を示した人は半数を超えており、Q7 と合わせて考えてみても、普段の生活で身近に感じられる科学に関するテーマが求められていることが分かる。出典 文部科学省 科学技術政策研究所 第 2 調査研究グループ 『科学館・博物館の特色ある取組みに関する調査 -大人の興味や地元意識に訴える展示及びプログラム- (2007 年7月)』より引用・第4章 結論(Conclusions)以上より、立川市への科学館建設は需要が高く、「財源確保の難しさ」が科学館建設を妨げている大きな原因だということが分かった。それを解決するためには、「財政」「地域の活性化」「科学館運営・展示の工夫」の 3つの視点から考えるべきであることが明らかになった。私の提案としては、具体的には本論に記述している通りだが、最初の科学館建設へのステップとして、商業施設等のイベントスペースに「生活に関する科学」をテーマとして、期間限定で小さな科学館(展示会)をつくってみるのはどうだろうか。テーマが度々変わる科学館にしてもおもしろいと考える。身近な場所に科学館を設置し、来館者のみなさんに楽しんで学んでもらった上で、来館者の方々にアンケートをとり、来館者数や利益等のデータを集め、小さな科学館を運営した経験をもとに話を進めていけば、よりスムーズに計画を進められるのではないか。第5章 課題科学館を建設するための、科学館建設を妨げる課題の解決に向けた探究はできたが、どのように市や企業に再度科学館建設の話題を取り上げてもらい、実現に向けて動いてもらえばよいのかは、今回の探究では明らかにすることが出来なかったので、今後の課題としたい。・謝辞貴重な情報やご意見をいただきました岡村幸保先生、岡村幸保先生にご助言をいただくためご協力くださった「立川に科学館を!準備委員会」メンバーの青谷典子先生、この度は本当にありがとうございました。心より感謝申し上げます。・参考文献(References/Bibliography)・立川市立科学教育センター(2021)「立川市立科学教育センターの歴史と現状」https://www.tachikawa.ed.jp/es08/?action=common_download_main&upload_id=7541・帝国書院編集部(2012),『中学校社会科地図』,帝国書院・立川市財務部財政課(2021),『立川市やさしい財政白書(2021)』・武蔵野市(2020),『市報むさしの No.2151』・立川サイエンスひとネット/ダ・ヴィンチサイエンス教室『「立川に科学館を!」設立準備委員会発足!』https://ameblo.jp/bunka-kagaku/entry-12289501193.html・『平成 2 年度以降の科学館建設に関する立川市議会議事録(抜粋)』(2019)・霜中良明『公共施設マネジメントにおける共同設置の効果と課題』(2018)・自治体通信 Vol.1(経営者通信 31 号自治体特集)(2014 年 4 月号)・文部科学省 科学技術政策研究所 第 2 調査研究グループ 『科学館・博物館の特色ある取組みに関する調査 -大人の興味や地元意識に訴える展示及びプログラム- 』(2007 年7月)・JR 東日本(2021),「各駅の乗車人員 2021」