卒論発表会も終わって一区切りつきましたので、このブログでゼミの活動を紹介し、新ゼミ生を迎える準備をはじめていきたいと思います。

 昨年、「ゼミ3年生の学び方」1〜5という一連の記事でこのゼミの3年生がどのように学び、どのような能力・スキルを身に付けていくかについて紹介しました。↓↓↓

 

 

  グループでの学習でどのように成長できるのか?なぜ成長できるのか?

 

 今回は「ゼミ3年生の学び方」の第6弾ということで、今の3年生がSport Policy for Japanという政策提言イベントに参加することでどのように成長できたか、SPJ後の振り返りの声に耳を傾けつつ、なぜそのような成長が可能になったかについてゼミ担当者🐻の考えを示していきたいと思います。ここではSport Policy for Japanの説明はあまりしませんが、「ゼミ3年生の学び方1:Sport Policy for Japanで何を目指すか」をあらかじめ読んでいただけると以下の内容が理解しやすいかもしれません。まぁ、読んでなくても、どんなところがこのゼミでは成長できるのか、それがどうしてなのかについては理解できるとは思いますが。

 

  ↓SPJ 後のゼミでは「振り返り」を行いました↓

◇SPJに取り組む中で何ができるように

 なったのだろうか?

Mさん

抽象的な概念をしっかりと突き詰めて考えグループの中で認識をそろえたり論理的な主張・展開ができているかにこだわったりすることができるようになった。

現場で働く人々の意見や想いを聞くことの重要性を理解できた。研究の中で、フリースクールのスタッフの方から直接意見をもらう中で、自分たちだけでは到底思い至らなかったであろう考えを知ることができ意義深い時間を得られた。

③ネット記事だけではなく、図書館に行って多くの書籍や新聞記事を探ってみることで得られる知識があると分かった。新聞記事を読み漁るのは慣れていなかったが、SPJを通してその作業にも慣れ、関連するテーマや情報に沢山出会え、とても役立った。書籍に関しても、その分野の本棚にある書籍のタイトルを見るだけでも、知らなかった関連単語などを知ることができ、有効的だった。

④見やすいパワポ資料の作り方を学べた。先輩や同じグループのメンバーの作り方を真似てみることで、少しでも見やすい資料作りを心がけた。

今何をすることが必要で、どのような優先順位で取り組めばいいのか、それらにはどのような目的で取り組むのか、といったことを意識するようになった。限られた時間の中で順調に進めていくには、最終目標を見失わないように意識することが必要だと分かった。「今日決めること、終わらせることって何だろう?」と毎回声をかけ続けてくれた同じグループのメンバーたちに感謝したい。

 まずはMさんが言っている①について見ていきましょう。新3年生はすでに導入ゼミ、前期ゼミなどを経験して、大学では理論を学ぶということを理解していると思います。専門書や論文の中には「抽象的な概念」や研究分野ごとの専門用語がたくさん出てきます。導入ゼミや前期ゼミの中ではそれらの抽象的概念をうまく使って現実社会の現象を分析できるようにするため、ゼミの中で「議論」したり、レポートをまとめたりしますよね。これは抽象的概念を「自分のもの」、「使える知識」にするためには、とても重要なプロセスなんです。ただ、1・2年生のゼミと岡本ゼミでは、それを使って「議論」する時間が圧倒的に違います。半年以上の期間、正規のゼミの時間中はもちろん、ゼミの時間外にも長い時間をかけて同じチームのメンバー、また、サポートしてくれる4年生とイヤになるほどディスカッションを繰り返します。何について議論するかというと、抽象的概念で具体的現象を分析してその適合度合いやどのようにそれを実証していくかの方法などです。そのプロセスに膨大な時間を割くことで、抽象的概念を使うことが「身体化」されていくことになるのだと担当者🐻は考えます。

 次に②「現場の声を聞く」ということについて。提言案策定の過程においては、さまざまな「現場」で働いている方々からお話をうかがう機会があります。主に、前半のプロセスでは調査として、後半には自分たちの考える提言施策の有効性について確認するためにゼミ生は「現場」を訪れることになります。そのような場面では、「現場」でどのようなことが行われているかということを予め学習し、ゼミの外にいる「実務者」や「専門家」と議論することになります。そこからはMさんが書いているように、「自分たちでは思いいたらない」ようなアイディアを得ることができるのですが、そのためには①に書いた「長時間の議論」や前もって自分たちが取り組む社会課題に関する知識をしっかりと理解しておくことが重要になるわけです。

 そこで③に書かれている「図書館を利用する」ということがとても大切な作業になってくるわけです。Mさんは「新聞記事を読み漁る」ことに触れていますが、新聞記事(およびそのデータベース)は特定の社会課題を理解するために、1)時系列的な変化と2)空間的な広がり、3)専門家の見解、4)解決の方向性などを教えてくれます。とにかく多くの記事を体系的に読んでいくことがここでは重要なのですが、そんな作業もチームでやればそんなに苦ではなくなります。

 Mさんは「書籍」に関しても言及していますが、図書館の「本棚」に直接向き合うことの重要性について指摘していますね。そこでは、専門知の蓄積を「物量」として確認できたり、それまで繋がっていなかった知識と知識が結びつくといった経験ができます。自分たちの作業を飛躍させるような新しいアイディアとの出会いの場として、図書館は重要な空間なのです。こうした「知」の生産をするための図書館の「リアル空間」の機能ネットには流れていない情報を入手する場としての機能をうまく使いこなせるようになると、卒業論文のための研究だけでなく、卒業後の人生を充実させることができるようになると🐻は考えています。手のひらで何でも検索できてしまうことによって、われわれは「知の集積装置」としての図書館の機能やアイディアを整理したり新しいアイディアを生み出す空間としての図書館の機能を軽く捉えがちで、「汗をかいて」「図書館の建物を上り下りしながら」時には「他大学の図書館に足を運ぶ」といった、知の生産に必要な「体力」が弱ってしまっています。SPJへの取り組みは、そのような「知を生み出す体力」のトレーニングの場にもなるので、卒業するまでには、周囲の者を圧倒するような「知的体力」の保持者になっているということが期待できるのです。トレーニングは日々の継続が大切ですよね。3年のSPJの取り組み→4年の卒論への取り組みという連続的プログラムの中で、うちのゼミでは卒業までトレーニングが持続されるのです。(もちろん、ここで使っている「体力」はあくまでも比喩です。入手したい情報収集に時間と労力を割くことを厭わない感覚=知的体力とお考え下さい)

 続いて④効果的な「資料の作成」について。これは、ゼミの活動の中でリモートでのミーティングが増えるようになって格段に飛躍した教育効果ですね。PCの画面をつないで一緒に作業をしていけるようになって、ノウハウの共有がしやすくなりました。うちのゼミでは4年生が3年生のSPJの取り組みをサポートしますので、4年生の経験値をすぐに3年生に共有できます。そして、卒業していった過去の先輩たちの資料もすぐに参照できますので、「効果的な資料づくり」のノウハウの蓄積はゼミ全体の資産として活用できるのです。SPJの取り組みの中で資料づくりの技術が身に付くのは、こういった背景があると考えます。

 ちなみに、SPJの報告内容を一橋祭で開催された「ゼミ対抗プレゼンコンテスト」で発表したチームMは優勝することができ、中野学長から表彰されました。→HIT MAGAZINEへ

 

 次にMさんが指摘している⑤はプロジェクトとして「計画的に動く」能力が向上したということですね。高校までの学習の中では(大学に入ってからも)半年以上もの期間を使って時間軸を意識した学習をする機会は少ないと思います。さらには、特定の知識を覚え込むことや公式で与えられた問題を解く能力を身に付けるような「蓄積」型のゴールを目指すのではなく、新しいアイディアを創り出して、その表現方法も工夫しなくてはならないという「不定型」なゴールを目指す。これは初めて取り組む者にとっては、とても難しいことですね。ここもサポート役の4年生が、自分たちの経験をもとにおおよそのタイムスケジュールをアドバイスしてくれます。そのことによって、未来への想像力を働かせる能力自分たちで設定した区切りに向けて計画的に作業を進めていく能力が身に付いていくのだと考えられます。

 

 

 以上、長くなりましたが、3年生がゼミの中で身に付けられる能力、スキルはどのようなものであるか、また、それはゼミの中のどのような「仕組み」で身に付くのかについて説明してきました。うちのゼミは自由度が高く、「何を学習できるのか」が不明瞭な(理解しづらい)ところがあります。しかしながら、ゼミ生それぞれが知的生産をしていくための総合的な能力を身に付け、2年間で大きく成長できるよう、常に意識しながら工夫をしています。まぁ、そのような工夫もゼミ生からの提案が元になっていたりします。

 一緒に教育効果・学習効果を高めるゼミづくりに参加してくれる方を歓迎いたします。