イラついたってしょうがない。
期待したって意味がない。
トメは認知症なんだから。
頭では感情をセーブしているし、そういう脳内変換をするのも慣れてきた。
とはいっても、深層心理ってやつはどうにもならない。
先週の定期通院で、トメは不穏のちハイテンションだった。
まず不穏。
理由もキッカケも不明だけれど、その日は検査が多かったので
超音波だのレントゲンだので疲れたせいかもしれないと推測。
もしくは、検査室の中で技師さんとなにか揉めたのかも?
ニンチさん対応の上手な技師さんもいれば、そうでない人もいるしね。
どっちにしても、トメの不穏&不機嫌は珍しいことではないので
私も夫もスルーしたかった。しようとした。
スルーしよう、心穏やかに、冷静に・・。
だけど、コッチの気持ちなんてトメが察するはずもなく
いろいろやらかしてくれる。
例えば、検査後の診察では、患者用イスをクルリと180度反転して
あろうことか先生に背を向けてしまった。
いわゆる「そっぽを向く」という状態だ。
それどころか、「どうしました?」と優しい言葉をかける先生を無視し、
カバンをガサゴソし始めたではないか。
「お義母さん? なにしてるの? 先生がお話したいってよ」
と私もなだめすかしてご機嫌をとろうとしたのだが、なんと
トメはティッシュを取り出し、あふれる涙をぬぐい始めたのだった。
なにが悲しいのか、なんの涙なのかまったくわからないし
先生も私も尋ねてみたが、その後はすっかり貝の口。
もう何も喋るものか、とあからさまに頑固な態度を貫いた。
これも一種の認知症の進行なのだろう。
ものの5分で、貴重な診察時間は終わってしまった。
「誰のために時間つくって、家と病院を二往復してると思ってんだヨ!!!」
と怒鳴りたかったが、そりゃ抑えるしかないんだよね。
ところがだ。
帰路の車中のトメの、にぎやかなことといったら ┐(´д`)┌ヤレヤレ
病院でだまりこくっていた反動なのか?
「あら、ずいぶん大きいクルマだなや!」 ← ただの路線バス
「ウチの3倍ぐらいあるな! ハハハハハ」← 何が可笑しいのやら
「〇〇〇って書がったわ。こっちは△△△だど」 ← やたら看板を読む
ひとりごとなのか、話しかけられているのかわからないので、時々
「ん? なに? どこ?」
と運転席から声を張り上げてみるのだが、案の定、返事ナッシング。
だったら逆に話しかけてみっか、と
ホラあそこの並木、見て。紅葉しててキレイだよ~なんて教えたらば
「赤いな!」と同調してくれたのち
「赤い靴~、は~いてた~、お~ん~な~の~こ~~」
と歌い始めて、そこからもう止まらない。
紅葉をみて赤いといえば、普通は
「まっかだな~、まっかだな~」と歌いそうなものだけれど
トメの脳内は紅葉と異人さんがくっついたらしい。
なんどでも、「赤い靴~、は~いてた~」を繰り返し歌う。
ただし、歌うのは
「赤い靴はいてた女の子、異人さんに連れられていっちゃった」
このフレーズのみ。あとはリピートオンリー。
勘弁してくれえええええ。
といっても、運転中は逃げられない。
これが美声だとか、そこそこ上手なら、まだ聞けるんだろうけど
トメ宅までの30分、苦行であった。
そんな一日を過ごした晩、トメをぶん殴る夢をみた。
夢の中でも私は運転席にいて、トメは後部座席にいて、
リプレイよろしく喋る、歌う、喋る、歌うを繰り返していた。
夢の中の私は、全然ガマンしなかった。
「うるさいっ!! いい加減にヤメロっ!!!」
やめて、ではなく、ヤメロと命令形なのが象徴的。
そして、ヤメロといってもやめないトメに対し、
私は運転中にもかかわらず後ろをふりむき、身体を乗り出してまで
トメのほっぺたを「グー」でぶん殴ったのだった。
その後の展開がどうだったのかは覚えていない。
現実世界なら、シートベルトが邪魔しただろうけど
夢の世界はすばらしい。なんの抵抗もなくトメの頬を殴れた。
ああ、こわいこわい、自分がこわい。
だけど、夢の中とはいえ、ぶん殴った私はスカッとしていた。
いや、ぶん殴ったのが夢の中だからよかったのか。
なんとなく、介護経験者なら似たような夢をみている気がするけど
どうなんだろう?
ちなみに、まだ夫をぶん殴る夢はみたことがないですw
事務手続きが残っているので、またまた里帰り。
ほんの一週間で峠の色合いもだいぶ変わった。
実家の裏庭では食用菊「もってのほか」が花盛り。せっせと食うべし。