今年の発表会では、18人の生徒が自分の演奏を披露しました。
学習1年目が最初に弾き、一番長くやっている生徒がトリを務めます。
今年は学習1年目の生徒が4人ほどいましたが全員が発表会に参加することになりました。トップバッターを誰にするかは毎年ちょっと悩むところですが、今年はルンちゃんが「ぜひとも最初に弾きたい」と言ったので助けられました。
ルンちゃんはおしゃべりで人前でも物おじしないタイプですが、最後の最後まで2曲目は何にするか考えあぐねていました。
今回の発表会は例年とは少し違う雰囲気で始まりました。
音楽学校は数年前から財政難に陥っており、抜本的な改革を迫られた校長は今年、これまでの個人レッスンを来年度からすべてグループレッスン(2人組か3人組)に移行するという案を打ち出しました。
私の指導は個人レッスンであればこそうまくいってきましたので、これはかなりの痛手です。来年以降、この学校でレッスンを続けるべきか否か、その岐路に私は立たされました。
この春から、学校側にいろいろな働きかけをして個人レッスンの重要性についてを訴えながら迎えた発表会の日、私は初めに親御さんたちに向かって「本日の生徒さんたちの成果は、個人レッスンのおかげ」という点をやんわりと強調してその重要性を訴えることになりました。
個人的な意見を言うのは普段は避けるのですが、今年はその必要性に駆られたわけです。
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さて、観客席へのご挨拶がそんなこんなで終わった後、私はトップバッターのルンちゃんを呼びました。
ルンちゃんはさっと舞台の前方に置かれているピアノとそのそばで話をしていた私のところにやってくると、「うらら、2曲のうち1曲だけにしていい? 自信がないんだ」と耳元でささやきました。
「ああ、全然大丈夫。そうしていいよ」。
ルンちゃんは、そうして1曲目を弾き始めました。
私との連弾曲だったので彼女の横に座って私はルンちゃんのスタートを待ちました。
ピアノの発表会そのものが初めての学習一年目の彼女。にもかかわらず、落ち着いてとてもうまく弾けました。
観客から祝福の拍手をもらったルンちゃんは、その後、私の方を向いて「やっぱ、2曲目も弾く」という仕草をしたので私は「OK」と言ってやはり連弾曲の2曲目も伴走しました。
ルンちゃん、満足そうでした。
3人目は変顔君でした。
La Quêteという曲を一生懸命やって来た、やはり学習1年目の男の子です。
私は発表会ではもう一つ、曲を弾いてと変顔君にお願いしていました。
ルンちゃんとは違ってどちらもソロの曲でした。
発表会で彼の番が来て、ピアノの前にやってきた変顔君は、やはりこそこそと私に尋ねました。
「うらら、La Quêteだけにする。2曲目は練習したけどうまくいかない」。わかった、もちろんだよ。
彼は見事にLa Quête の最初の部分をやり抜きました。
彼もピアノを習い始めたばかり。しかも糖尿病の病院通いでレッスン欠席も多かったですからね。よく頑張りました。
私は変顔君が弾き終わって自分の席に戻る前、彼のそばに立って改めて彼の努力を観客の前でたたえることにしました。
「皆さん、オレールサン(OrelSan)が歌うLa Quête という曲はご存じですか。変顔君が今弾いた曲です」
観客の中にはうんうんとうなずく人たちが。
発表会のプログラムは親御さんにはちゃんと前もって送っていましたが、この国では親御さんが前もってその内容をきっちり見ているわけでもありません。
そのことは経験からよくわかっているので、ちょっと追加説明をしたわけです。
私は変顔君が今しがた弾いたばかりの楽譜を見せて、「変顔君は今年ピアノを習い始めたばかりで、3ページある楽譜の1ページ目を頑張って弾いてくれました。来年は、3ページ全部弾いてくれると思いますよ」
観客から笑顔がもれました。変顔君はとても嬉しそうでした。
やったね、変顔君。これでピアノの最初の関門は突破だ!
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