20年くらい前のこと。

 

結婚後、欧州のとある国で暮らしていた私は、言語の違い、文化の違いと格闘しながら、なかなかつらい日々を送っていました。

 

ピアニストのリヒテルが弾くバッハの平均律を聴いて心を癒されていたある日、私は無性にピアノが弾きたくなりました。私は子供のころ9年ピアノを習っていました。当時は嫌いでしたが、その時は心から、自己表現の手段としてピアノが弾きたいと思ったのです。日々、外国語と格闘しながらも、その言葉の世界に疲れを感じていたのかもしれません。

 

 

「住んでいる町で弾けるところを探そう」(当時、自宅にはピアノがありませんでした)

 

運転免許を取ったばかりの私は、車で市役所に行って尋ねてみました。音楽学校に行ってみればと案内され、そのまま学校に向かいました。

 

学校に行ってみると、ディレクターらしき男性から、なんてことない様子で「いいですよ」と言われました。3000円程度の年会費を払うだけ。「学校の部屋が空いている時間(平日の場合は、夕方になる前)に好きなだけ弾きに来てください」

 

私の冒険はその時、始まりました。

 

 

 

バッハ『平均律クラヴィーア曲集』第1巻第1番

(演奏:うらら)