むかしの田舎の小川には大人の小指の半分くらいの太さの細くて小さいドジョウしかいなかったが、田んぼの中には大人の親指ほどの太さで長さが12,3cmもある太くて大きいドジョウがいた。
田植えからしばらくした頃の夜中に 兄貴はよくドジョウ捕りに出掛けていた。
当時のわが家には懐中電灯などなかったのでカンテラで田んぼを照らして、水の中で眠ってじっとしているドジョウをヤスで刺して捕るのだ。
子供の私も道具を借りてドジョウ捕りをやりたかったが、何故かやらせてもらった記憶がない。
その代わり(でもないが)私は冬に田んぼでドジョウ捕りをした。
冬の田んぼは水を落としているので干上がっていたが、あぜ道に沿って幅2,30cmのくぼんだ排水の跡があり そこは多少湿っていて土が柔らかかった。
それをずうっとたどって行くと 直径1cmくらいの穴が見つかることがあった。
この穴から10cmほど離れたところにスコップを深く突き刺して穴の下をめがけてごそっと掘り上げた。
すると 灰色の泥土の塊の中から太いドジョウがニョロ~っと出てきて ばたばたと跳ねた。
ドジョウが冬眠していたのだ。
これを称してドジョウ捕りならぬ「ドジョウ掘り」と言った。
捕ったドジョウは小さな腰籠に入れて家に持ち帰った。
1,2時間で10数匹しか捕れなかったと思うが 結構楽しかった。
私はドジョウを煮て食べるのは好きでない。ヌルヌルして気持ちが悪いうえに においがして美味しくない。
よって、柳川鍋は嫌い。
私はドジョウを囲炉裏の火のそばの熱い灰の中に放り込んで焼いた。
焼けたドジョウを囲炉裏から取り出して灰を手で払って醤油を付けて食べると、ヌルヌル感は全くなく香ばしい香りがして結構食べごたえもあり美味しかった。
もうひとつ田んぼで捕れた食べ物で美味しかったのは、季節は異なるが「タニシ」だ。
田舎では「ツブ」と呼んでいた。
初夏の頃だったろうか、田んぼの水の中には結構タニシがいた。
それを拾ってきて茹でて食べるのだ。
サザエのつぼ焼きと同じように蓋を取って中身を箸で取り出して醤油をつけて食べた。
これが本当に美味しかった。エスカルゴと同じだ。
実は、現在 私が住んでいるここ千葉は、わが家の周りにたくさん田んぼがある。
子供が小さい頃、田んぼで大きな「タニシ」を見つけたので捕って来て茹でて食べてみた。
ところが、口の中が ひどくジャリジャリした。
たくさんの小さなタニシの子供が一緒に入っていたのだ。
味も不味くて食べられるシロモノではなかった。
つまり、このタニシは、むかしの日本のタニシではなくて、外来種の西洋タニシだったらしい。
今はもうむかしの経験はできない。
だいいち 今でも田舎の田んぼには ドジョウやタニシがいるのだろうか?