サードキャリアと地域のかかわり
2024年8月22日 大圖健弘
セカンドキャリアの活動を終え、あるいはセカンドキャリアの活動と共に、新たにサードキャリアの活動を考えた場合、地域の果たす役割はかなり重要なものになるかもしれない。特に、その活動が、ビジネスではなく、趣味や社会活動といった活動であった場合には地域の果たす役割は大きなものになることは容易に想像される。
社会活動では、身近なところでは地域の自治会活動から、それを基にした、コミュニティー全体にかかる活動、趣味に関して考えると、絵画や写真など、芸術関係では絵画教室や写真サークルでの研鑽といった、初歩的なことから、それを基にした展示会、展覧会への出品など自分のキャリアを深める機会の獲得等、音楽関係では声楽、器楽に関する合唱、合奏における研鑽やそれを基にした演奏会活動、その他、学問や文学等においても、自分一人でキャリアを深めることももちろんあるが、その結果を発表する機会の獲得や、研鑽内容に関する仲間とのコミュニケーションの機会等キャリアを深める活動がサードキャリアの活動として考えられ、これらは結構地域の仲間を通して行われることが多く行われている。セカンドキャリアまではビジネス領域で活躍されてきた方にとって、今まで地域の方々と触れ合う機会が少ないことが多く、サードキャリアで地域の方々と付き合うことになるといってもピンとこないこともあるかと思う。かく言う筆者も、ある時期まで、地域との付き合いといっても見当がつかなかった。しかし、ある年齢になって、地域の合唱サークルに加入してこうした活動の在り方に気づかされた。ここで注意を要するのは、地域というのは、必ずしも隣近所という意味ではなく、もう少し広い幅で考える地域であるということだ、例えば居住している市域、あるいはもう少し広いエリアが地域として考えられる。いわばこれまでの職場という付き合いではないということを指していると考えてもいい。
こうした地域の仲間とサードキャリアを重ねていくために、重要な考え方の変化は何であろうか。特に、今までのキャリアの考え方の違いを考えておく必要があることは何かを考えてみたい。
① これまでの経験は役には立つが歓迎されない。
これまでのキャリアの中で個人個人が果たしてきた役割、その経験はもちろん個人 の活動に生かされるが、これを地域の活動の中でひけらかすことは全く歓迎されな
い。セカンドキャリアにおいて前職での経験を自慢げに語ることを「ではの守」と
いって避けるべきこととされていることはよく聞くが、このサードキャリアの世界
では、活動する分野も今までと異なり、また多様な経験を経たメンバーが集まって
いる世界であるので、セカンドキャリアの世界以上に今までの経験を自ら語って何
かを行うことには注意を要する。勿論、組織に課題があるというメンバーの共通の
認識があり、その解決のために自身の経験が生かされることが明確な場合は、歓迎
されるかもしれないが、それとても、同様の経験を持っているメンバーがいるかも
しれず、積極的に開示するのではなく、周囲を見渡しながら、控えめに開示するこ
とが望ましいのではないかと思う。
② 構成メンバーのゴールは必ずしも一致しない。
セカンドキャリアまでをビジネスの世界で過ごされている方々であれば、活動の
ゴールが利益貢献であったり、売り上げ極大化であったりという組織目標であるこ
とが多く、構成メンバーの目指すゴールなりベクトルが同一の方向であることが多
いと思うが、サードキャリアの世界では必ず下そうとは限らない。同じ趣味の世界
でもあっても、ただ、その団体に属して研鑽を積めばいいと思っているメンバーも
いれば、例えば展覧会で賞を受けることを目標にしているメンバーもいる。それぞ
れ、思惑が違うのでそうしたことを前提に考えて付き合っていく必要がある。それ
ぞれのメンバーが互いにほかのメンバーを認め合いリスペクトして活動することが
必要なのである。
③ 独りよがりな活動は法度
上記とよく似た話であるが、「自分がこう思う」ということだけでの行動はご法
度である。サードキャリアの世界ではメンバーの経験だけでなく年齢等も必ずしも
同一のグループではないことが多い。この為、自分ができることでも他のメンバー
には難しいこと、逆に自分には無理と思っても他のメンバーでは簡単にできること
等、自分の物差しで測れない事柄が多く存在する。こうしたことを考えると独りよ
がりな考え方、行動はサードキャリアの世界では全く用をなさない。
要は今まで以上にキャリアにかかわる人たちのことを大切に考え、行動することが重要なのである。こうしたことは、今までのキャリアの世界でも、よく注意を喚起された事項ではある。しかし今までのキャリアの世界では組織の目標やゴールといったものがとても大きく、重要で、メンバーの人間関係のようなものは、ともすれば矮小化される傾向が強かったのに対し、サードキャリアの世界では組織の目標等といったものが非常に相対化されることになり、それよりもメンバーそれぞれを重要視しなければならない環境になるという大きな変化があり、その世界に入っていく我々はその変化に気づき、対処していくことが重要な意味を持ってくる。今まで地域という異文化とかかわってこなかった者にとってこうした変化はなかなか対応しづらいものかもしれない、しかし、その世界に慣れてみると、自分を相対的に見ることができるようになったり、今まで考えてもみなかった発想を得ることができたり、なかなか自分の中に有益な経験をすることができる。是非、地域との交わりをうまくキャリアに生かしていきたいものである。
以 上