女優大国 スターダストプロモーションのアイドルユニット戦略
【概論】
スターダストプロモーションといえば、大量にタレントをかかえる事務所であり、特に女優の質・量だけをいえば、大手芸能事務所という呼称さえ控えめに感じる。敢えていうならメガ芸能事務所ということになるであろう。芸能事務所ごとに特徴があるのは以前にも述べたが、大別して、①映画・ドラマ・舞台に強い、②歌に強い、③モデル・グラビアに強い、④バラエティ・お笑いに強い、⑤スポーツ・文化人に強いという傾向があったりする。零細系では①~⑤のどれか一つに特化したり、中規模以上になると、二つ乃至三つの得意分野があったりする。大規模な事務所でも、敢えて不得意分野には進出しないという戦略もある。例えば研音は明らかに①の俳優・女優の育成・出演にフォーカスをあてており、アップフロントは②の歌、特にハロプロなどはアイドル歌手の総本山というべき力の入れようである。業界の盟主でもあるホリプロなどは、①~⑤をほぼ網羅していわばタレントの総合商社の様相を呈している。
【スターダストのポジショニング】
では、スターダストプロモーション(以下、SD)はどうかというと、基本的には、俳優・女優・モデル中心の事務所といえるであろう。
さて、主題はアイドルユニットの研究であるが、近年までSDは音楽系アイドル、特にアイドルユニットに関してはあまり熱心な事務所でなかったように記憶している。過去にアイドルユニットとしてブレークしたので思いつくのはMIKEぐらいである。これもまあ、言い方は失礼であるが偶然の産物と言ってよいかもしれない。
しかし、最近の『ももいろクローバー』の活躍に見られるように、アップフロントやホリプロ(AKB48、アイドリング!!!)、エイベックスが強い市場に本格的に進出しようとしている。昨今のAKB48の社会現象ともいえる活躍によりこぞって二匹目の泥鰌を狙う芸能事務所が後を絶たないが、小職の個人的な感想であることを前置きして言うのだが、SDの場合は少々事情が異なるような気がする。
かつて、ピンクレディーやキャンディーズのようなアイドルユニットの大成功により、少女隊やセイント・フォーというような芸能事務所が文字通り社運を賭けて売り出したアイドルユニットがあった。プロデュースに数億円を使い話題にはなったのだが、最終的には事務所が破綻ないし傾き、可愛い子を集めて、プロモーションに金をかけても、そうやすやすと売れるとは限らないといことを多くの芸能事務所は学んだ。
SDの場合は、むしろ多く抱える若手の女優・モデルをどう活かすかということに主眼が置かれているような気がする。ももクロが成功していると言えるの、自前のタレントを金を賭けずに人気銘柄にしたということに集約できるのではないか。金を使って、アイドル歌手を集めるホリプロやエイベックスとは根本的に異なるのではなかろうか。
【スターダストのアイドルユニット】
概論はこのくらいにして、SDのアイドルユニットとメンバーをみていくことにする。
まずは、週末ヒロインの『ももいろクローバー』。『ももいろクローバー』は、ポストAKB48やリアルアイドルなどの特集で筆頭でとりあげられることが多いアイドルユニットである。今でこそ、アイドルユニット界の第三勢力とも言うべき地位をとらえようとしているが、発足当初は、かなり地味なものであった。エイベックスがプロデュースする『東京女子流』や、マスを使って大々的にオーデョション開催を告知した『SUPER☆GiRLS』、TBS、日テレなどのキー局も積極的に出演をさせた『bump.y』とは決定的に異なる。ドラマには滅法強いスターダストも、音楽番組やバラエティに関しては勝手が違うようだ。そもそも、未知数のアイドルユニットである『ももいろクローバー』を大金を投じてプロモーションする気はもともと薄かったのかもしれない。メジャーな媒体でとりあげられたのは、『UTB』(隔月刊)の2008年8月号であろうか。このアイドル誌は、スターダスト関係が良好なためか、以降もスターダスト系のアイドルユニットをとりあげている。この頃の『ももいろクローバー』のメンバーは以下の通り
伊倉愛美 (1994/2/4) 埼玉県出身
和川美優 (1993/12/19)東京都出身
高井つき奈(1995/7/6) 愛知県出身
高城れに (1993/6/21) 神奈川県出身
百田夏菜子(1994/7/12) 静岡県出身
玉井詩織 (1995/6/4) 神奈川県出身
発足当初は、弓川留奈 (1994/2/4)がメンバーの一人であったが、脱退後に中学生作家としてデビュー。百田夏菜子と玉井詩織がこのときに加入した。
当時は、世間一般には無名な存在の女の子たちの集団であった。広報的には、将来が楽しみな期待の若手タレントということになる。比較的知名度があったのは、TBS『大好き!五つ子』に出演の和川美優であるが、それでも認知度は決して高くないメンバーであった。無論、最初から知名度があった『bump.y』のようなユニットがむしろ例外と言えるわけであるが、ハロプロやAKB48のように、アイドルユニットとしての募集・育成を行った集団とは根本的に異なるわけだ。さて、発足間もない『ももクロ』にもかかわらず、『Piecees』という『ももクロ』と一部メンバーが重複するダンスユニットも発表されていたのである。
【Pieceesというユニットが存在した】
『Piecees』のメンバーは以下の通り
伊倉愛美と玉井詩織は重複しており他に
奏音 (1997/2/7) 東京都出身
後にニコ☆プチ、ニコラの専属モデルになり、映画『告白』にも出演。一度、私立恵比寿中学に入ったが脱退。
矢野妃菜喜 (1997/3/5) 兵庫県出身 現在は私立恵比寿中学
宇野愛海 (1998/3/19)栃木県出身 現在は私立恵比寿中学
夏川桃菜 (1998/7/20)東京都出身 子役出身で現在は役者専念
というメンバーであった。いわば、年少組の面倒を伊倉と玉井が仰せつかった格好だ。
『ももクロ』のメンバーは、これからも加入・脱退を繰り返すことになる。まず、高井つき奈がSKE48に移籍し、代わりに藤白すみれが加入。
※後に高井つき奈はSKE48を脱退し、今月(2010年9月)に正式にスターダストに復活した。SKE48とももいろクローバーが出演したアイドルユニットサマーフェスティバルに出現しちょっとした話題になった。
藤白すみれ (1994/5/8) 千葉県出身 後にミスマガ2010のベスト16進出
高井つき奈が脱退して藤白すみれが加入した頃、早見あかりは女優兼モデルとしてUTBにフレッシュガールとして登場。
2008年12月に細胞分裂が起きる。まず、結成時のメンバーである和川美優と伊倉愛美が脱退し、加入したばかりの藤白すみれも脱退する。逆に加入したのは以下のメンバー
柏幸奈 (1994/8/12)神奈川県出身 2009年4月より何故かCM部に異動。
早見あかり (1995/3/17) 東京都出身
佐々木彩夏 (1996/6/11)神奈川県出身
【クリームー・パフェの結成】
このとき、クリィミー・パフェ(creamy parfait)というアイドルユニットを脱退した伊倉愛美と藤白すみれに加えて春日南歩の3人で結成する。
春日南歩 (1996/1/24) 埼玉県出身 後に映画『告白』出演。
この後、柏幸奈の脱退と芸能8部のPowerAgeにいた有安杏果の加入で現在の『ももクロ』が完成する。
【元Power・Ageの有安の合流】
有安杏果 (1995/3/15) 埼玉県(元・Power Age)
つまり、スターダスト芸能3部のユニットは、ももいろクローバーを核にして、別働隊のクリィミー・パフェも相乗効果?で売っていく戦略であったが、クリィミー・パフェは1年の活動で終了し、『Piecees』のメンバーは若年層主体の『私立恵比寿中学』に引き継がれることになる。ちなみに恵比寿はスターダストの本社所在地である。
話を『ももクロ』に戻すと、『UTB』2009年6月号にて、『ももいろクローバー』超ブレイク計画と題してアイドル評論家との討論(対談)企画があった。まだ、有安杏果が加入する前で、本格的ブレイク前夜で行われた企画である。このときの評論家どうしの議論で、『ももクロ』は流動型で行くのか、固定型で行くのかというのがあったが、こういった議論が起こることがユニットとしての『ももクロ』の性格があらわれている。ハロプロとの比較でいうと基本固定型であり、メンバーの脱退・卒業(引退)・加入は意図した流動化というより、解雇という表現を和らげるためのものであったり、年齢的な問題で矛盾が生じつつあること。加入は補充の意味合いが強い。
【武器と戦略】
『ももクロ』、恐らくスターダストのアイドルユニットの戦略は、これとは異なり、若手タレント(女優)でまだ名前が売れてない女優で歌・ダンスが上手い子(好きな子)を集めて(ユニット化して)お披露目し、女優・モデル活動をする上でのプラスにもなるであろう、と。とりわけ、大集団のスターダスト全員に仕事を与えるのは難しい。そこで、芸能3部の年長チームは、とりあえず、『ももクロ』に、年少チームは『私立恵比寿中学』で、まとめてプロデュースしようというのが私が考えるスターダストの若手タレント(女優)に対するプロモーション戦略とみている。
うれしい誤算としては、予想以上に『ももクロ』が売れたことだ。これは、アイドルが女優・グラビアからユニット(歌手)に変わる潮目を上手くとらえた結果かもしれないが、『ももクロ』が全国のヤマダ電機を地道にまわって、実力(歌・ダンス・MC)がつき、口コミによる効果も手伝い、AKB48が会えなくなったアイドルとなってしまったフアンの受け皿としても機能した面も否めない。
スターダストは、ハロプロやAKBとは異なる戦略でアイドルユニット界でも面白い存在になっている。『ももクロ』という貴重な橋頭堡を手に入れたいま、さらなる一手で第三勢力の地位を確立するのか、それともあくまで人材育成又は活用機関として考えるのか要注目である。