若者に人気の合コン。
この日も、晃が企画した会が新宿の洒落たレストランで開かれた。
女子は参加費半額。気軽な参加者も多く、会場はほどよく華やいでいる。
男子5名、女子5名──だが、男子のひとり・本郷武だけがまだ来ていなかった。
自己紹介が終わり、グラスが軽く触れ合う。
4人の男たちは女子の気を引こうと、必死にジョークを連発している。
女子たちは愛想笑いを浮かべつつも、内心では「早く帰りたい」と思っているのが手に取るように分かる。
そんな空気の中、30分ほど遅れて本郷武が現れた。
「遅れてすみません。本郷です」
低く落ち着いた声で一礼。
間接照明が彼の輪郭を浮かび上がらせた瞬間、女子たちは息をのんだ。
席に着いた本郷は、すすめられた酒にも手をつけず、静かに水を飲んでいる。
他の男たちは相変わらず空回り気味のトークを続けているが、女子たちの視線は完全に本郷に集中していた。
顔立ちはアラン・ドロンのように整い、物腰は高倉健のように静か。
時折、ふと見せる微笑みが、女子たちの心を一瞬で支配してしまう。
「本郷さんは、どうして今日来たんですか?」
「人が足りないと頼まれまして」
「彼、飾りだから」と晃が茶化す。
「彼女、いるんですか?」
「いえ、いません」
女子たちの胸が高鳴る。
しかし次の瞬間、本郷は静かに言った。
「彼女はいませんが、妻はいます」
一瞬の沈黙。
そして怒号。
「なにそれ、ふざけないで!」
女子たちは一斉に席を立ち、怒りながら去っていった。
直後、本郷の携帯が鳴る。
「あなた今どこ? レナちゃん迎えに行って。私、遅くなるから」
淡々とした声。まるで台本のようなやり取り。
晃がにやりと笑った。
「実験成功だな」
他の男たちが手を叩いて喜ぶ。
「見たか、あの反応!」
「もういいだろ」と言いながら、本郷はゆっくりと覆面を外した。
そこに現れたのは、どこにでもいる冴えない中年男の顔だった。
「やっぱりキツいな……表情、少ししか動かせないし、しゃべるのも不自然だ」
「でも効果は抜群だよ。ハンサムマスクの第2試作品、完璧じゃないか」
彼ら5人は、ハンサムマスクと美女マスクをオーダーメイドで開発・販売するベンチャー企業のメンバーだった。
その実験が、今夜の合コンだったのだ。
レストランの外には、黒の大型ワンボックスが停まっていた。
スライドドアが開くと、先ほどの女子5人が無言で乗り込む。
彼女たちは表情を変えず、ただ前を見つめている。
助手席の女性がノートパソコンを操作しながら言った。
「映像、ちゃんと撮れてるわ。消耗が激しい……バッテリー残り10%」
「危なかったな。切れる寸前だった」
運転席の男が、後部座席の一人に手を伸ばし、首元を軽く押す。
「はい、スリープモードに」
女子たちは同時に目を閉じた。
「彼ら、まったく疑わなかったですね」
「美人にしすぎず、普通のOL設定にしたのが正解だったわ」
「でも美人も必要ですよ。いずれ“本物の人間”と見分けがつかなくなる」
「ええ、ヒューマノイドの時代です。人間とAIが結婚する日も近い」
黒いワンボックスは静かに発進し、夜の街に溶けていった。
──その車体には小さく「Humanoid Lab.」のロゴが光っていた。


