対決の中に見せる慈しみと尊敬、そして終焉へ向かう緊張

1974年 第28話 監督/ ハーヴェイ・ハート



本作のずっと後になりますが、1977年に製作された第41話『死者のメッセージ』で、コロンボが大衆に向けてスピーチをするシーンがあります。「あたしゃ人間が大好きです。今までにあった殺人犯の何人かさえ好きになったほどで、時には好意を持ち、尊敬さえしました」と、語ったコロンボの脳裏には、この時本作のラムフォード大佐が浮かんでいたに違いないと確信しています。


1968年から10年に渡りテレビ放映された『刑事コロンボ』シリーズの45エピソード中、ボクが最高傑作に位置付けているのが『祝砲の挽歌』です。本作を最高傑作とする最大の理由は、コロンボが特別な思いを抱いてしまう程の信念を持った犯人との対決で垣間見える(他作品では決して味わうことの出来ない)ドラマの酸いや甘さ、そして脚本・演出が織りなす美学にあります。


何が本作を名作の域にまで押し上げたのか?


本作の特色として第一に挙げたいのが、ほぼ学校敷地内だけで物語が進行する、ある種のワンシチュエーション劇であること。しかもコロンボが校内の寮に寝泊まりする事から、コロンボと犯人のやりとりが、実に密接で丁寧に描かれているのです。

コロンボが本作で尺を気にする事無く、じっくりと捜査を進められたのは、本作の脚本家ハワード・パークのおかげです。その意味でパークはシリーズに新風を吹き込んだ立役者であり、本作を成功に導いた最大の貢献者のひとりと言えます。


限定された空間で、画作りに苦労を強いられたのは監督のハーヴェイ・ハート…と思いきや、そんなハンディをものともせず、ハート監督は類い稀なるセンスで格調高いショットの数々を披露。テレビドラマでありながら、まるで劇場用本編を思わせる、いや劇場用本編にも引けを取らない見事な画作りで観るものを圧倒させました。引きのロングショットや長回しの映像、そして統一された色彩感覚が醸し出す重厚感と静けさは、ジャン=ピエール・メルヴィルの作品を彷彿とさせます(言い過ぎてる??)


そしてコロンボ同様、ボクの記憶からも離れようがない程に魅力的な犯人像を作り上げたのは俳優のパトリック・マクグーハン。シリーズには魅力的な犯人がたくさん登場しますが、本作のラムフォード大佐を超えるキャラクターはいないと思います。

その完璧な役作りに惚れ込んだ主演俳優のピーター・フォークは、その後もマクグーハンをシリーズに招き、(新シリーズ含め)計4度にわたる犯人役での出演と、5作品での監督を任せています。

そんなマクグーハンを評価したのはフォークだけではありませんでした。アメリカのエミー賞も本作でのマクグーハンの演技を高く評価し、1975年に最優秀助演男優賞を贈っています。


コロンボには独自の捜査スタイルがあります。犯人を苛立たせてボロを出させる、ここぞと言う時に凄みを効かせて追い込む、奇抜で大胆な罠を仕掛けるなどの戦術が定番となっていますが、本作ではそのどれもが封印されています。本作でのコロンボは、真っ向かつ真っ当な捜査で犯人逮捕に挑む、極めて珍しいエピソードでもあるのです。

時に名作は異色作扱いをされる事があります。なぜならそれは才能の結集だから。気軽に真似の出来るものではないし、やすやすと超えられるものでもないのです。



【この映画の好きなとこ】


◾︎ラムフォード大佐 (パトリック・マクグーハン)

シリーズ後期に見られた"共感型犯人"の最高峰。やや神経質な堅物だが、その信念と理想はコロンボすら敬服させる。

絶対好きになれないと思いつつ大好きになってしまった

爆破を見届ける冷ややかな目つきにシビレる!


◾︎スプリンガー候補生 (マーク・ホイーラー)

反抗的な問題児である上、密造酒を作っている事から、大佐と避けられない敵対関係の構図が出来ている。シリーズで最も光ったサブキャストの1人に数えられる。

ちょっと反抗的な感じが絶妙な化学反応を生んだ


◾︎オープニング

ラムフォード大佐が砲弾に細工をする様が、一切の台詞を排除して描かれる。額に光る汗、指紋の拭き取り、火薬の後始末。静かなドラムロールが緊張を増幅させる。

室内を移動するカメラワークが臨場感抜群
専門家の手つき
この人物が陸軍大佐である事が分かるのはこのあと


◾︎りんご酒

りんご酒密造犯を探すラムフォード大佐。それが後に自身の命取りとなる皮肉が痛烈。明け方に吊るされたボトルのビジュアルが妙に印象深い。

明け方を捉えたビジュアルの美しさ
なんだあれは…
りんご酒を見つけた事が終わりの始まりだった


◾︎ラムフォード大佐の性格描写

運んだコーヒーに、ラムフォード大佐が口をつけるまで、緊張の面持ちで待つ当番候補生。安堵の直後に汚れた靴を指摘するなど、気の抜けない人物である事を僅か1分で描写!

そ、そんなに見ないでください:(;゙゚'ω゚'):
汚れた靴を映さず、候補生の気まずい表情だけで描写する演出力も凄い


◾︎コロンボ登場シーン

その風貌から度々刑事と認識されないコロンボは、ラムフォード大佐から「その証拠品は警察に渡したまえ。そこは立ち入り禁止だ」と野次馬扱いされたり、「あの男は逮捕されないと出て行かないのか?」とボヤかれる。

証拠品を探すコロンボに…
それは警察に渡して出て行きなさい


◾︎ユーモア

シリーズには毎回ユーモア担当人物がいるが、今回の舞台は学校敷地内に限定される為、コロンボが担当者となる。テーブルからパンをくすねたり、敷地内で迷子になる様が見もの。

迷子の時はお巡りさんに道を聞こう
ポケットにパン入れちゃうの!?


◾︎擁護

過失致死罪の嫌疑が掛かったスプリンガー候補生に、「本校と私がお前の味方である事を信じておれ」というラムフォード大佐の言葉は、己の犯罪行為に相反するものだが、この言葉もまた本音のように思える。

きっとスプリンガー救助も画策していたはず!
しかし自滅の道を選んでしまい逃走を図るスプリンガー


◾︎コロンボの親切

本作の候補生は世話のやける子どもでありながら、コロンボにとっては捜査の強力なパートナーとなる。その為か、普段見せない面倒見の良さや、懐の広さが見られる。

なんすか?
オラにまかせろ
りんご酒どこ行ったのかな
オラが飲んじまうぞ(ウソ)



◾︎共鳴

コロンボに葉巻を勧め、「人間時には嫌われなければならん事もある。戦争がそうだ。国家間の争いが収まれば喜んで軍服を脱ごう。心静かに庭の手入れでもするさ。バラがあってね。白いバラだ。人間が互いに殺し合う事を止める世の中が来れば君も制服を脱ぐだろう」と切り出すラムフォード大佐。突然の言葉に呆気にとられるコロンボ。そして生まれる奇妙なシンパシー。そして終焉が近づいた事を悟る2人の神妙な面持ちは、シリーズ最高の名場面として永遠に記憶したい。

葉巻を勧める時にする照れ隠しのような咳払いがいい!
大佐の思想と人間性に完全に揺さぶられた瞬間
これはシリーズ最高の名場面だ!


◾︎抜き打ち検査

夜中の3時に密造酒を抑える為に行われた抜き打ち検査。厳しい校長の目を免れようと、目の届かぬところで奔走する候補生達の姿は、さながら学園コメディのようであり、本作においてはいい息抜きとなった。

夜中の3時にやる??


◾︎裁き ※ネタバレ

解散命令に踵を返す候補生達だが、スプリンガーとモーガンの2人が留まりラムフォード大佐に一瞥をくれる。これは大佐の犯罪に対しての軽蔑かもしれない。しかし、2人は軍人・校長として大佐を尊敬していたのではないか?そしてもしかしたら、大佐には罪を償い帰って来て欲しいというエールが込められていたのではないか?

しかし、このエンディングで裁かれるのは、実は大佐だけでなく、りんご酒を密造した候補生たちも含まれる。そうすると最後の訓練歌、"くたばる奴は仲間にゃいない。卑怯者も此処にはいない"は、互いに裁きを受け、更生して欲しいと願うコロンボのメッセージではないかとすら思えてくる。そんなダブルミーニングに気づいた時、改めて脚本と演出の妙に唸らされるのだ。

あれは必要だった。私は何度でもやるだろう
大佐の言葉を否定せず聴きいれるコロンボ
モーガンとスプリンガーがくれた大佐への一瞥
候補生への最後の命令も見事!最後の最後まで美しく完璧なショット!


人からどう思われているかは分かりませんが、ボクは用心深いタイプです。何か物事に取りかかる時、失敗や事故を想定し入念に準備をすることが多いと自分なりに感じています。そんな性格になったのは他でも無い、この『刑事コロンボ』のおかげです。緻密・明晰な頭脳で、犯人を追い詰めるコロンボを見ていると、人間簡単に嘘はつけない、悪いことは出来ないと、テレビを通じて教育されたのだと思っています。コロンボの罠にかかり落ちる犯人を見ては、毎回心から悔しがり、人間もっと用心しなくちゃならないと子供心に思ったものです(なぜか犯人目線で観ている)。

そんな訳でいつも追われる側の半参加型で『刑事コロンボ』を鑑賞してきたボクが、本作をベストに挙げる理由のひとつとして、犯人同様にいつもイライラさせられるコロンボの「すみません、もうひとつだけ…」や、しつこい付き纏いが無いからなのかも知れません。


『刑事コロンボ』は映画ではなく、テレビドラマです。本来ならば映画レビューとして投稿すべき作品ではありませんが、大好きなシリーズについて口を紡いだまま終わらせるなんてナンセンスと割り切り、映画レビューとして投稿させて頂きました。


本作を鑑賞済みの方には、懐かしんで頂ければ幸いです。本作をまだご覧になられていない方には、少しでも興味を持って頂けたら幸せです。そして何より、まだ『刑事コロンボ』を知らない方がいれば、これを機に第一話を手にして頂けますよう願いをこめて。



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