ブライアン・デ・パルマ

アメリカの映画監督


スティーヴン・キング原作のホラー映画『キャリー』を初めて観たのは12歳の頃。この青春残酷物語に胸を痛めながらも、めくるめく映像、編集、そしてピノ・ドナッジオの音楽に心酔。抑えようのない高揚感を味わった。これがボクのブライアン・デ・パルマ初体験であり洗礼でした。


14歳の頃、テレビ放映で『殺しのドレス』を鑑賞。サスペンス映画に目覚める前の少年期であった為、ながら見チラ見をする程度でしたが、アンジー・ディキンソンがゆきずりの男とタクシー後部座席で及んだセックスがどれほど際どく、どれほど官能的であったかは子供のボクにも理解出来ました。


19歳の時に『ファントム・オブ・パラダイス』を鑑賞。全編を駆け抜ける熱量に、頭を殴られたような衝撃の映像体験。これはもはや映画の暴力。夢中で繰り返し鑑賞をしていたある日、『キャリー』『殺しのドレス』そして『ファントム・オブ・パラダイス』のクレジットにある共通点を見つけました。

そこにはこう記されていました。


DIRECTED BY BRIAN DE PALMA


その日を境にボクはデ・パルマフリークとなり、まだ見知らぬデ・パルマ作品を夢中で追いかけ始めました。『フューリー』『スカーフェイス』『ボディダブル』でも驚愕の映像、重厚なドラマにデ・パンチ(「デ・パルマのパンチ力」から作ったボクのダサい造語)の猛打をくらい、改めて観直した『殺しのドレス』、そして『ミッドナイトクロス』でデパ締め(デ・パルマの締め技的演出力のこと。ボクのダサい造語2)をくらったボクは完全にKO。それ以降、ほとんどの映画鑑賞の時間をデ・パルマに捧げることになったのです。


デ・パルマは、自身が敬愛するサスペンス映画の神様アルフレッド・ヒッチコック監督を追いかけるように、続々とサスペンス映画の傑作を発表しており、ヒッチコックの後継者(またはヒッチコックフリーク)として既に知られた存在でした。

作品の評価が高まるにつれ、やがてデ・パルマは『アンタッチャブル』『ミッション : インポッシブル』などの超大作も手がけるようになり、ハリウッド娯楽映画の名匠として確固たる地位を築きました。


しかしそれ以降、規制の多いハリウッドでの映画制作に嫌気がさしたデ・パルマは、海外資本で自身の得意とするサスペンス映画制作に特化し、85歳の現在も新作を準備中と精力的に活動を続けています。


それを見れば誰もがデ・パルマと認識出来る独特の映像スタイル。それは誰にも真似の出来ない映像の芸術。

デ・パルマを映画の神と崇めるボクが、デ・パルマ作品の要である映像の魅力を分析・紹介してみたいと思います!

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デ・パルマの幾多にも及ぶ映像テクニック

それはファンの間でこう呼ばれた

デ・パルマカット


◾️スローモーション

デ・パルマより上手くスローモーションを撮れる監督は一人もいないと断言する!サイレント映像としての側面を持つ技巧である為、ストーリーテラーとしての力量は不可欠。


施設からの脱走、救世主の登場、そして職員の死までを一気に描いた『フューリー』


◾️スプリットスクリーン

画面を二分割し、あらゆる角度から撮影された多くの映像を映し出す手法。好きな場面を選び鑑賞出来る他、二つの映像を同時に観る事で生まれるサスペンス性が最大のウリ。


殺人現場の証拠隠滅を図る男女と、目撃者の隣人を同時に描いた『悪魔のシスター』


◾️360度回転ショット

カメラが360度回転しながら被写体を撮影する技法。当事者の目眩く気持ちを増幅させ、観るものの感情までも巻き込む。


愛憎劇の果てに待ち受ける運命は?スローモーションとの合わせ技で観客をヤキモキさせた『愛のメモリー』


◾️長回し

ワンシーンをワンカットで収める執念の技。映像派の監督が好む技法である為、デ・パルマにとっても追いつ追われつの歴史がある。


13分(※編集で繋いでいる為実際の尺は10分)にも及ぶ長回しにデ・パルマの意地を見た『スネーク・アイズ』


◾️トリプルジャンプカット

カメラが三段階(場合によりそれ以上)で被写体に寄り、最終的に大写しにする手法。特にショッキングな場面で採用されることが多い。


対象になるのは人間ばかりではない USBケーブルにカメラが寄った目下の最新作『ドミノ 復讐の咆哮』


◾️POV

カメラが人物の主観(Point Of View)となり撮影された映像。編集が無い為、長回し的側面も持つ。生々しい臨場感を増幅させる手法。


恋人の家を訪れたバッキーを歓迎する家族を主観撮影で描いた『ブラック・ダリア』


◾️スプリットフォーカス

手前と奥、両方の被写体に焦点を合わせて撮影される技法。ほとんどのデ・パルマ作品で採用されており、一作品で複数回披露することも珍しくない。


機密情報を盗まれアラスカ左遷となる職員の運命をシニカルに描いた『ミッション : インポッシブル』


◾️俯瞰ショット

被写体を真上から見下ろした映像。主に人物を弱々しく見せる場面で使われる。


ヒッチコック監督作品『海外特派員』へのオマージュとして撮られた『虚栄のかがり火』の俯瞰ショット


◾️フラッシュバック合成

まだ三作品でしか披露していない技巧だが強烈な余韻を残した。人物背景にフラッシュバック映像を合成。スプリットスクリーンに似るがその効果はまるで非なるもの。


『フューリー』『ミッドナイトクロス』もいいが、カッコよさが異常レベルだった『ファム・ファタール』

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興奮!陶酔!持てる時間のすべてをデ・パルマに捧げ、繰り返し鑑賞した!

デ・パルマの名演出傑作選


◾️『キャリー』血のバケツ

ロープが引かれるまでの緊張をスローモーションで極限まで引き伸ばした。バケツの血をキャリーに浴びせる事でエクスタシーを味わうクリスの描写はデ・パルマならでは。

天国から地獄への容赦なきサディズム

デ・パルマの息遣いが聴こえて来そうな生々しさ


◾️『殺しのドレス』美術館

男女が織りなす求愛のドラマ。美術館で展開されるサイレント手法は匠の成せる技。追いつ追われつのもどかしさ、そして静かに押し寄せる期待と興奮に釘付け必至。

名画がまったく入ってこないケイト

足で男性に話しかけるカットが絶妙!


◾️『殺しのドレス』エレベーター①

やましさの象徴=ケイトと、無垢の象徴=少女が乗り合わせたエレベーター。後悔に駆られるケイトに少女の眼差しがグサグサ刺さる。デ・パルマのサディズムはここでも光る。

思わず後悔の涙する…

無遠慮にケイトを凝視する天使ちゃん


◾️『殺しのドレス』エレベーター②

デ・パルマ史上最も凄惨なシーン。首にあてたカミソリをゆっくりと引く描写は卒倒もの。犯人と鏡越しに目が合うスローモーションは、緊張と興奮が入り混じる極上カット。

これは80年代の『サイコ』のシャワールームだ!

鏡越しのスローモーションがスゴい!


◾️『殺しのドレス』浴室

犯人が忍び寄るバスルーム。逃げ場の無い密室且つ全裸という最悪のシチュエーション。怯えるリズを俯瞰で捉えたカットは20世紀最高のホラー演出。

モノトーンの色使いすばらし

このカットマジスゴい!水の滴る音までマジ怖い!


◾️『ミッドナイトクロス』絞殺

ローアングル映像の恐ろしさ。個室で宙吊りになる女性の脚がトイレ中に響く断末魔の轟音に戦慄。バタつく足と音響効果だけで凄惨な場面を想像させた高度テクニック。

この後のワイヤーに焦点が絞られるカットも最高

『ノーカントリー』の床につく無数の靴跡はこのシーンから着想を得た?


◾️ 『ミッドナイトクロス』消滅

事件の録音テープを消されたジャックが、パニック状態で部屋中のテープをかき集める場面。部屋の360度を捉えるカメラがジャックのパニック心理を見事に表現。

このシーンの音響効果もスゴい!

パニックのジャックが部屋中を駆け抜ける


◾️『スカーフェイス』チェーンソー

直接的描写を避けつつも、トラウマレベルの凄惨な場面を観る者の脳に焼き付けるデ・パルマ演出の真骨頂。苦痛に歪む目のアップと叫び声に、劇場は悲鳴で溢れ返ったはず!

ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!

いやあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!


◾️『アンタッチャブル』階段

デ・パルマスローモーションの集大成。階段から落ちる乳母車を守る責務と、会計士を擁護する任務。銃弾の雨の中、アクション性を盛り込み究極のエンタメに仕上げた。

なんてことない銃撃戦が超劇的ドラマティックに!!

そしてこの男がすべてかっさらう!


◾️『カジュアリティーズ』報復

有罪判決を言い渡された四人の兵士が、エリクソンを睨みながら退廷して行く。エリクソンへの報復を予感させる軍曹の耳打ちは、恐怖感を増幅させるサイレント手法を採用。

『カジュアリティーズ』には傑出カットが山ほどある

死ぬほど怖いこのカット


◾️『レイジング・ケイン』目覚め

昏睡から目覚めた妻が見たものは、愛する夫と看護婦の抱擁。罪と罰をトラウマ級のレベルで観る者の心に焼き付ける。スローモーション、サイレント、ジャンプカットとあらゆるテクニックが詰め込まれた。

ピノ・ドナッジオのショック効果を高める音楽も強烈

デ・パルマジャンプカットの極めつけ!!

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本当はどの作品も平等に愛したいけど…

デ・パルマの薦めTOP10 !!


10位 カリートの道

1993年 主演アル・パチーノ


当時のデ・パルマに「これ以上うまく映画を撮れない」と言わしめた傑作ノワール。一見、毒を抑えた作風だが、デ・パルマワールドの住人がこぞって登場している。列車、駅で展開されるサスペンス・アクションは、『ミッション : インポッシブル』の監督を探していたトム・クルーズの心を揺らしたか。

9位 レイジング・ケイン

1992年 主演ジョン・リスゴー


ヒッチコックの『サイコ』をオマージュに、多重人格者の悲喜劇を描いたデ・パルマスリラーの集大成であり、デ・パルマフリークの為の映画である。『アンタッチャブル』以降大作続きだったデ・パルマは、このサイコスリラーで水を得た魚の如く、サスペンスシークエンスを山程作りファンを狂喜せた。



8位 ボディ・ダブル

1984年 主演クレイグ・ワッソン


ヒッチコックの超プラトニックラブストーリー『めまい』をベースに制作されたが、着地点はセックスとバイオレンスに満ちたデ・パルマワールド。挿入歌『リラックス』を歌うフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドが登場する世界観は、『ファントム・オブ・パラダイス』のアンデッズやビーフを彷彿とさせるし、作品そのものが『ファントム・オブ・パラダイス』以来のハジケぶりでオールドファンには感慨深い。



7位 スカーフェイス

1983年 主演アル・パチーノ


アル・パチーノが演じたトニー・モンタナはサブカルチャーのポップアイコンとして多くの信者を生み、作品と共に崇められている。チェーンソー拷問を始めとする過度な暴力描写、放送禁止用語が飛び交うアンモラルな作品として有名だが、実はデ・パルマの博愛ぶりが垣間見える作品でもある。例えば爆弾を仕掛けた車に子供が乗り合わせた時の狼狽や、守り続けた妹の存在。それは自滅して行くトニーが見た最後の希望か。



6位 アンタッチャブル

1987年 主演ケヴィン・コスナー


もはや映画史に残る名作だが、アル・カポネが部下の頭めがけてバットを振り下ろすシーンを筆頭に、デ・パルマならではのバイオレンス演出や映像ギミックが随所に盛り込まれている。予算の都合で実現しなかったクライマックスの列車追跡をデ・パルマは『戦艦ポチョムキン』をヒントに階段での銃撃戦を生み出した。エンニオ・モリコーネの音楽、ジョルジオ・アルマーニの衣装により、『アンタッチャブル』は更なる高みに到達した。

第30回ブルーリボン賞外国作品賞受賞作品。

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5位 カジュアリティーズ

1989年 主演マイケル・J・フォックス


ベトナム戦争で実際に米兵が起こした少女誘拐・監禁・強姦・殺人を描いた重厚な作品。重すぎるテーマに食指が伸びないのは百も承知だが、「観ずにやり過ごすのは戦争の犠牲となった兵士や民間人を無碍にするに等しい」とデ・パルマが訴えている気がする。

一方で、本作の映像テクニックは名匠の域に到達しており、長いキャリアの頂点に位置付けたい。反戦映画の金字塔にして、まだ評価が追いついていないデ・パルマ魂の傑作。



4位 殺しのドレス

1980年 主演ナンシー・アレン


デ・パルマの最高傑作に挙げるファン、評論家も多いデ・パルマ黄金時代のサイコサスペンス。百花繚乱の傑作シークエンスで埋め尽くされており、最後の最後まで気が抜けない。ヒッチコックの傑作『サイコ』をベースにセックスとバイオレンス満載で描き、ヒッチコック亡き後の映画界においてデ・パルマはサスペンス映画の名匠としてその名を世に知らしめた。

またデ・パルマ作品で多数の音楽を手がけたピノ・ドナッジオのスコアも傑作揃いで、『キャリー』以来の凄みを見せている。



3位 キャリー

1976年 主演シシー・セペイセック


原作のほとんどが映画化されている小説家スティーヴン・キングの第一回映画化作品にして、キング映画の最高傑作(もちろん『シャイニング』『スタンド・バイ・ミー』も素晴らしいけど)。デ・パルマの名前を世に知らしめた最初の作品であり、持てる情熱の全てがフィルムに焼き付けられた。宗教やイジメなど現代にも蔓延る社会的問題を描いたホラー映画の傑作。

1977年アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞作品。

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2位

ファントム・オブ・パラダイス

1974年 主演ウィリアム・フィンレイ


本作の魅力を文字で伝える事は不可能!本作をデ・パルマの最高傑作に挙げるファンも多い『オペラ座の怪人』のロック版。歌と恋、成功と挫折、悪魔との取引、裏切り、復讐。音楽業界の光と闇をポール・ウィリアムスの疾走感溢れるナンバーで駆け抜ける。熱い生き様死に様が凝縮された熱量世界一の物語。これを92分にまとめた手腕にも驚く。当然ながらサントラも傑作。

1975年アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞作品。

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1位 ミッドナイトクロス

1981年 主演ジョン・トラヴォルタ

デ・パルマ作品の多くの登場人物は、やましさを背負って生きている。ジョン・トラヴォルタ演じる本作のジャックがその最たる例。同じ失敗を繰り返し、愛する女性までも失い最悪の結果を招く。しかし、二人のほのかな恋物語は『シザーハンズ』同様に悲恋劇の傑作として心に焼き付く。

デ・パルマの演出、映像処理の完成度は高く、『殺しのドレス』と併せて"デ・パルマサスペンスの二大傑作"として記憶されるべき。

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デ・パルマが他の作家と決定的に違うのは、スタイルを変えないことです。人気作家についてよく聞こえてくるのが「初期作品は好きだったけど、後期作品は作風が変わりすぎて好きになれない」という評価です。


しかし、デ・パルマは変わらず、ファンも変化を求めない。そして、デ・パルマはファンを裏切らない。


ボクの少年時代の将来の夢は特殊メイクアップアーティストになることでしたが、デ・パルマ作品に出合ったことで、将来の夢が"映画監督になること"に変わりました。それほどの魅力と魔力がデ・パルマの映画には潜んでいるのです。出合ったら最後!腹を括るしかありません!逃れる方法があれば教えてくださいってもんです!


今回、デ・パルマの映像テクニックに特化した記事を書きましたが、デ・パルマの魅力はそれだけではありません。例えばそれは登場人物やストーリーテリングの魅力であったり、デ・パルマが描き続けている多種多様なテーマやシチュエーションであったりとまだまだディープな魅力が詰まっています。

しかし、今回の記事が予想を超えるボリュームになった為、ひとまずこの記事を前編とし、いつか中編、後編へ繋げてみたいと思います。その時には更なるデ・パルマの魅力を伝えられるよう、日々デ・パルマ作品を繰り返し楽しんでおきますね!




映画人こちらも

映画人②ロブ・ボッティン

映画人①ジョン・バリー