ラブストーリージャンル世界一!!

1987年 監督/ ジョン・グレン

007シリーズ第15作。60年に渡るシリーズ中、『女王陛下の007』に次いで最も好きな本作を現在上映中のBOND IS BACK IN THEATERS 2023にて鑑賞しました。


リビング・デイライツ』はシリーズで二番目に好きな作品ですが、元々ボクの個人的ランキングで2位の座を獲得していた作品は、本作に続くティモシー・ダルトン主演の第16作『消されたライセンス』でした。『リビング・デイライツ』でダルトンが確立した危険な魅力を更に押し広げたボンド像と、個人的復讐に奔走する型破りなストーリーが新たなシリーズの可能性を示唆した傑作です。


その傑作を抜き返した『リビング・デイライツ』の決定的な魅力は何だったのか?


もちろんダルトン本人が持つ危険な魅力や、ジョン・グレン監督が生み出す創意工夫に富んだアクションの数々は当然の如く超一流ですが、『消されたライセンス』に無かった決定的なもの、それはボンドガールとの純愛劇、そしてジョン・バリーの音楽です。


マリアム・ダボが演じたボンドガールのカーラ・ミロヴィは、ボンドガール史において大変稀有な存在です。いつのどの時代もボンドガールはセクシーな大人の女性でしたが、本作のカーラは純真純朴なお嬢様で、ボンドと真逆の人生を歩む女性です。決して交わることの無い世界の住人同士が、決して結ばれることはないと知りつつも、加速する恋に身をやつす様はさながら『ローマの休日』を彷彿とさせ、純愛ドラマ特有のときめきと切なさを覚えるのです。


音楽を担当したジョン・バリーは、本作までにシリーズの10作品を担当していますが、本作を最後にシリーズから勇退しています。

第2作『ロシアより愛をこめて』から第6作『女王陛下の007』までは、そのメロディを聴けば明確に作品の場面が浮かぶ鮮烈な個性がありました。しかし、第7作『ダイヤモンドは永遠に』以降第14作『美しき獲物たち』までの楽曲は、既聴感を覚えるものばかりでオリジナリティに欠けていたように思えます。

しかし、バリーは本作でマンネリズムからの脱却に見事成功しています。重低音が効いたインダストリアルサウンドとオーケストラの融合は『リビング・デイライツ』だけのものです。

そして、数々のアクションシーンと明確に差別化を図ったロマンスパートの楽曲もまた出色です。ボンドとカーラの恋を描くシーンでは、傑作エンディングテーマ"If There Was A Man"の様々なインストゥルメンタルバージョンが使用され、ロマンティックな世界観を完璧なものにしていました。


ボンドとカーラのロマンスは、ハードなアクション描写の息抜きとして絶妙な効果を担っているとこれまで思っていましたが、その程度ではないと今回の劇場鑑賞で気づきました。『リビング・デイライツ』は、これまでに観たどのラブロマンスよりも甘く切ない世界一のラブストーリー劇であると確信したのです!

だから今回はアクション映画の大傑作である本作を、ラブストーリー映画の大傑作『リビング・デイライツ』として紹介してみたいと思います!





【この映画の好きなとこ】


◼︎タイトル

原題『THE LIVING DAYLIGHTS』は、"死ぬほどの驚き"という意味。劇中でカーラが何度もその場面に直面する事を考えると、本作はカーラ視点の物語であるとも言える。

本作の主人公はカーラなのかもしれない
本編で何度も驚くカーラ。かわいいね



◼︎ロマンティックスコア

ジョン・バリーが作曲したラブソングが、フルートやピアノで奏でるインストゥルメンタルバージョンとして劇中で使用され、カーラの乙女心を見事に表現している。

揺れるカーラの心情を奏でた"Kara Meets Bond"

縮む二人の距離を軽妙に奏でた"Approaching Kara"



◼︎美術と劇中音楽

チェロ奏者がボンドガールである為、クラシックコンサート会場やオペラ劇場が頻繁に登場する。優雅な音楽と格式高い美術が本作を一層優雅にしている。

クラシック音楽の魅力と
贅を尽くした美術



◼︎むくれるカーラ

ボンドと出会ったばかりのカーラはよく怒る。何かと対立する2人の様はロマンティックコメディのようであり、『カジノ・ロワイヤル』のタッチに先駆けている。

「次はバイオリンを習え」「プンスカ!」
撃ち抜かれたチェロ!カーラの顔( ;∀;)
チェロを乱暴に置くボンドに「シバくわよマジで」


◼︎遊園地

ボンドさえ非情な世界から抜け出させたデートシークエンスは第6作『女王陛下の007』以来。歴代で最も遊園地が似合わなさそうなダルトンだが、ダボの純真さがハマらせた。

遊園地で正装デート!最高!
観覧車というスイートルーム



◼︎感情を露わにするカーラ

戦地に戻ろうとするボンドを止めるべく泣きじゃくりあたり散らすカーラ。シリーズとしては非常に珍しい場面だが、ダルトンとダボの相性が良く違和感なく演じられている。

マクラ攻撃!かわいい!
あなたなんか馬のお尻よ!(どんな例えよ)



◼︎女戦士

軍用基地に単身乗り込むボンドを救うべく、銃を手に馬を走らせるカーラ。ジープにしがみつく敵を殴り飛ばすなど、ボンドを思う愛の強さで変わる姿に感動。

ひとりボンドを追うカーラ
この直後ついにカーラの鉄拳が!



◼︎エンディング

ハッピーエンドのようで、決して結ばれない二人である事をエンディングテーマ"If There Was A Man"が示唆している。だからこそ、このひと時にかける熱量が違うのだ。

ワールドツアーを成功させるもそこにボンドはいない
楽屋にあったのは2人分のマティーニ!
映画史に残るエンディング!このひと時よ永遠に!



◼︎If There Was A Man

2人のロマンスとその後を歌ったセンチメンタル感抜群のエンディングテーマ。2人の物語の続きをザ・プリテンダーズが思い入れたっぷりに歌い上げた。作品の本質を捉えて頂く為に以下の和訳も是非お読みください。


If There Was A Man 和訳


もし夢に見るような人がいれば

私は夢が現実になることを夢見るわ

もし私が愛せる人がいれば

あなたのような人を100万年でも待つわ


今まで私はずっと待って来たの

リスクを前に踏み出せずためらって来た

祈りはどこ?栄光はどこ?

求めて来た人はどこ?

いつ彼はそのドアから入って来るの?

あなたが出て行ったそのドアから

もしその人があなたでなければ


もし夢に見るような人がいれば

私は夢が現実になることを夢見るわ

もし私が愛せる人がいれば

あなたのような人を100万年でも待つわ


ハッピーエンドは私を見つけてくれない

愛への想いや希望なんて置いて来てしまった

絶望的な私の運命を見たの

もしそこに運命の人がいれば

そうあって欲しいけど

誰か私を愛してくれる人が

もしその誰かがあなただったら




本作が製作された1980年代は世界的なエイズの流行があり、複数の女性と気軽にベッドインするボンドの姿は時代に即していないと製作陣が判断しました。

その為、本編にはカーラ以外のボンドガールが登場しません。しかし、その分2人のロマンスにたっぷり時間をかけて描く事が出来たおかげで、本作は思いがけずラブロマンスの傑作へと転じる事が出来たのです。


ボンドは以前、第6作『女王陛下の007』にてひとりの女性を真剣に愛した過去があります。ボンドが本作のカーラと人生を共にする決断をしなかったのは、本気の恋ではなかったからではありません。

ダルトンが創造したボンドは、まさに原作者イアン・フレミングが描いたボンドです。ダルトンは恐らく、"もう二度と結婚はしない"と決めた諜報員のその後を演じたのではないかと思うのです。

(意図せずとも結果的に)そのアンサームービーとなったのが、次回作『消されたライセンス』です。友人フィリックス・ライターの新妻が贈るガータートスを一度は拒みつつも、神妙な面持ちでキャッチするボンドこそが『女王陛下の007』のその後のボンドなのです。

そんなシリーズの歴史を重んじて演じられたボンドだからこそ、本作の決して結ばれることのないロマンスは否が応でも燃え上がるのです。


今回は『リビング・デイライツ』を世界一のラブストーリー作品として紹介しました。「一体どこまで本気なんだコイツは」と思ったみなさん、普段からラブストーリーものは殆ど観ないボクですが、"『シザーハンズ』や『ゴースト/ニューヨークの幻』を超えるラブストーリー作品である"と言えばこの気持ち伝わりますか??



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