映画少年の夢が現実に
2003年 監督/ クエンティン・タランティーノ
レンタルビデオショップで働く映画マニアの青年が、監督デビュー作品『レザボア・ドッグス』で世界に名を轟かせ、監督作品第2作の『パルプ・フィクション』ではカンヌ映画祭でグランプリを受賞。時代の寵児とまで呼ばれたその人はクエンティン・タランティーノ。今日までスター監督の座におり、いずれの作品も商業映画として成功しているのだからその実力とセンスは本物。映画の天才です!

監督作品第4作の『キル・ビル Vol.1』は、映画マニアであるタランティーノの完全な趣味嗜好で作られた作品であり、言うなればタランティーノ主催の映画オタフェス。二部構成となったこの前編は、主に日本映画へのオマージュで構成されており、時に"なにコレ描写"を交えながら最高に魅力的な世界を構築しています。

主演に大好きなユマ・サーマンを迎え、憧れのスター俳優千葉真一をゲスト出演させ(しかもタランティーノが大好きな『影の軍団』の服部半蔵役)、大好きな日本アニメの制作会社にアポなし訪問でアニメパートを依頼する。
それまでの作風と異なる破天荒なスタイルの本作は、『修羅雪姫』『子連れ狼 三途の川の乳母車』『柳生一族の陰謀』『片腕カンフー対空とぶギロチン』など、タランティーノが愛してやまない作品のオマージュで埋め尽くされています。
衣装はブルース・リー作品からのオマージュが多く、主人公のザ・ブライドには『死亡遊戯』、オーレン石井の取り巻きクレイジー88には『グリーンホーネット』からの引用が為されています。
音楽はタランティーノ作品の通例で、お気に入りの楽曲とお気に入り映画の既存スコアを採用。邦楽からは『新・仁義なき戦い』のテーマ曲として布袋寅泰が作曲・演奏した"BATTLE WITHOUT HONER OR HUMANITY"や、エンディングテーマとしてタランティーノのミューズ梶芽衣子が歌う"怨み節"が採用されました。

映画ファンなら誰もが知っているようなネタを、なぜ長々晒したのかというと…つまり、ひとりの映画マニアがここまで好きな事を出来るなんてうらやましいって事です!コレはタランティーノと、すべての映画少年の夢の作品です!


【この映画の好きなとこ】

◾︎目撃者ニッキー
毒蛇暗殺団かつての仲間ヴァニータ殺しの場面を幼娘のニッキーに目撃されたザ・ブライド。「いつか大人になって、それでもまだ許せなかったら、私を殺しに来なさい」。次のドラマを夢想させる素晴らしいセリフ!
成長したニッキーのドラマも見たかった

◾︎スプリットスクリーン
タランティーノが敬愛するブライアン・デ・パルマ監督の得意技巧。初挑戦ながら上手く処理しています。タラ器用だなあ。
エル・ドライバーの眼帯凄いね

◾︎バック
昏睡中の身体を弄んだ看護士バックに、ザ・ブライドが復讐する場面。緊迫感溢れるスローモーションはタラ作品群でもずば抜けた完成度を誇っています。
動きのない場面をスローで撮る事が多いタラ作品に於いては珍しいカメラ移動

◾︎オーレン石井の復讐
「私の目を見て。私の鼻を見て。私の口を見て。誰かに似ていると思わない?」ゾクゾクするセリフと、ヤクザの親分マツモトの腹を掻っ捌いた後に見せる恍惚の表情が絶品。
タラが惚れ込んだジャパニメーションの実力!

◾︎GOGO夕張(栗山千明)
タランティーノが敬愛する深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』に出演していた栗山千明を採用。栗山は死んだ魚の目で女子高生殺し屋を好演。タランティーノの脚フェチは本作でも顕在で、栗山の太ももを撮りまくっています(ありがとう!)
栗山の役名はタラの大好きな日本アニメ『マッハGoGoGo』から
GOGOが使う武器は『片腕カンフー対空とぶギロチン』からインスパイアされた。そして太もも

◾︎日本刀
バイク搭載の日本刀がカッコいい!日本人は拳銃なんか使わないでこうあるべきでしょ。飛行機搭乗時も手放さないとかいいなあ。
なんか日本刀を身近に感じる素敵な場面
機内に持ち込んじゃいかんよ。真っ赤な空は『吸血鬼ゴケミドロ』へのオマージュなんですって


◾︎BATTLE WITHOUT HONER OR HUMANITY
本作のメインテーマとすら認識されている程のカッコよさとインパクト!布袋寅泰の才能が迸っています!

タランティーノ初期作品トレードマークの黒ネクタイ黒スーツを日本人が着る!

◾︎子どもヤクザ
クレイジー88に紛れた子どもメンバー。絶妙なタイミングで登場し場をさらいます。"ユーモアはあるけどギャグはない"というタランティーノ作品の不文律を破った珍しいシーン。
子どもを見逃してやる場面は黒澤明監督作品『用心棒』のオマージュ?タラは黒澤ファンではないよね?

◾︎オーレン石井との対決
青葉屋での血みどろ地獄絵図から一転、雪降る日本庭園での静かなる決闘。ルーシー・リューの「うそつけー!」に吹きますが、サンタ・エスメラルダの"Don’t Let Me Be Misunderstood"がめっちゃ雰囲気です!

石井を演じるルーシー・リューの殺陣も美しい

◾︎トランクショット
タランティーノトレードマークのひとつ、車のトランクに詰められた人物主観ショット。ヘルメット姿で淡々と喋るザ・ブライドが最高にカッコいい!
チラつく雪とのコントラストまで完璧な計算

◾︎覚悟
ザ・ブライドが生きている事を知った毒蛇暗殺団メンバー。Vol.2への期待を余儀なくさせるセリフ!第一章としては最高の締め括り!
復讐して当然だし俺たちは殺されて当然だ
あの女!苦しめて殺してやる!

◾︎衝撃のエンディング 
Vol.1では姿を見せない毒蛇暗殺団ボスのビル。最後に手と声だけで登場し衝撃のセリフを放ちます。その衝撃度は『スター・ウォーズ / 帝国の逆襲』の"I am your father"に匹敵?
本来一本の作品として製作されたが、ここを1のラストシーンにした事で絶大なインパクトが生まれた

タランティーノの映画愛が炸裂したトンデモ映画。名作の風格漂う前作『ジャッキー・ブラウン』からの、この進化は誰もが予想出来なかったのでは?
『キル・ビル Vol.1』には、誰も止めることの出来ないタラの勢いとパワー(暴走?)が全編に漲っており、この作品をボクはタランティーノ映画作家人生の第二章"オタ気質解放期"と捉えております。もう"いい映画作ろう"とか、そんな事まったく考えていなくて、ホントに好きなもの、自分が観たいものを作ろうという想いがフィルムに焼き付けられているのです。それはもう気持ちがいいほどに。


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