劇場で4回観た!国内ソフト発売前に日本語字幕無しの輸入LDも買った!酔いしれた!

 1993年 監督/ ブライアン・デ・パルマ

当時のブライアン・デ・パルマ監督に「これ以上の作品は作れない」とまで言わしめた傑作ノワール。
過激な描写と凝った映像作品を発表してきたデ・パルマのキャリアに於いては珍しく、品良く正攻法で描かれた作品です。デ・パルマが手がけたもうひとつの傑作ノワール『スカーフェイス』と対局に位置する本作は、デ・パルマファンでも好みが分かれるところ。
デ・パルマフリークを自称するボクも、もちろん『スカーフェイス』大好きですが、純愛と男の美学で描かれた本作には、また別の角度から心酔しましたね。
出獄し更生した麻薬王カリートと、元恋人ゲイルのラブストーリーが丁寧に時間を割いて描かれた事により抑えられたデ・パルマ色。しかし、時折り暴発気味に炸裂するデ・パルマ節。その絶妙なバランスが実に新鮮です!

そんな本作全編を包み込むのは、主演を務めたアル・パチーノのモノローグとヒットナンバーの数々、そしてパトリック・ドイルの名スコア。詩的な雰囲気を醸し出した映像世界は、まさにデ・パルマの新境地です。

それまで映像派という印象が強かったデ・パルマ象を塗り替え、重厚なドラマで見せ切った作品。デ・パルマ作品を語る時、人気作品上位に姿を見せる事は無いものの、見逃しは厳禁!傑作ですから!



【この映画の好きなとこ】

◾︎ベニー・ブランコ (ジョン・レグイザモ)
短い出番ながら強烈な印象を残す。ケチな成り上がり者をレグイザモが怪演!デ・パルマ作品キャラクターの私的ランキングでも上位に入る名キャラ!
Benny Blanco from the Bronxの名台詞と共に!

◾︎デイヴ・クラインフェルド (ショーン・ペン)
ヤク中の悪徳弁護士。主役を食うほどの暴れっぷりで強烈な印象を残す。これがペンだと気づくまで時間がかかる上に、ペンだと気づいた後も本人とは信じ難い。凄い俳優だな。
奇抜なヘアスタイルと、サイズのおかしいスーツ姿は絶対に忘れられない!

◾︎取引き現場
麻薬取引き現場で諍いに巻き込まれるカリート。裏社会に足を突っ込んだ気楽な従兄弟とは真逆に、不穏な空気を察したカリートが応戦の準備を始める緊迫感。
あれ?もしかしてボク殺されちゃう?
突如巻き起こる銃撃戦!

◾︎ベニー登場
店の勘定に難癖つけて支払いを拒否するベニーが、カリートの登場に慌てふためき、子分をなじり支払いさせるお調子者ぶりが最高!ベニーの登場は作品の期待値まで上げる。
こんな赤スーツを着こなせるレグイザモは凄い!

◾︎ゲイルとの再会
元恋人ゲイルを見つめるカリート。美しいバレエの旋律が、住む世界の違いを明確に映し出す。ゲイルに見惚れるカリートは、デ・パルマ他作品の主人公と異なる純粋さを持つ。
このしょぼくれ感もうまい
降り頻る雨も劇的に美しい

◾︎ベニーとの諍い
カリートにとって何かと目障りなベニーとの真向対決。互いに罵り合う気迫に圧倒される。真紅の照明で感情を浮き立たせる手法は『アンタッチャブル』以来。
昔堅気のカリートvs.デタラメヤクザ小僧

◾︎サプライズ
よりを戻したいカリートと、焦らすゲイルのやり取りは映画史に残る名求愛シーン。
「ドアを押し破り、服を脱がせて押し倒すの?」「もうそんな事する歳じゃない」
「そう…じゃ帰って」
自らはだけ、カリートを挑発するゲイル

◾︎デイヴの暴走
いかにもデ・パルマワールドの住人らしいハジケぶりを見せてくれるデイヴ。手を下すシーンを割愛し、死体となったフランキーを引きずり現れる描写が絶品。
デイヴの暴走を見てデ・パルマ作品である事を思い出す

◾︎エレベーター
デ・パルマファンにとって、エレベーターはサプライズを届けてくれる小宇宙。熟練の技で見せてくれる不意打ちに感涙。
"エレベーターマエストロ"デ・パルマの面目躍如

◾︎決別
"出発までの5時間で全てに決着をつかなければならない"。カリートの独白によって始まる怒涛のクライマックス。裏切ったデイヴにカリートが選択した非情な結末とは?
カリートがゴミ箱に捨てたものは…

◾︎グランドセントラル駅へ
追手を振り切り、ゲイルが待つ駅へ駆けつけるカリート。スリルとサスペンスに満ちたクライマックスに、デ・パルマは持てるテクニックとアイディアの全てをぶち込んできた。
『アンタッチャブル』で予算の都合上実現しなかった列車追跡シークエンスが日の目を見た
風船を小道具に使ったヒッチコック風のマジック
大人のかくれんぼ。心臓に悪いね
エスカレーターを使ったトリッキーな銃撃戦で一挙爆発

◾︎You Are So Beautiful
ジョー・コッカーが歌う珠玉のバラードで締める極上エンディング。その後のゲイルを描いた映像はエピローグの役割をも果たす。本編の余韻に浸るには完璧すぎ。



義理人情を重んじ、受けた恩義を絶対に返すカリートの生き方は、ゲイルの言葉を借りると"勝手に自分で借りと思っているだけ"であり、もしかすると古臭い考え方かもしれません。しかし過去の自分や仲間と決別し、真っ当な道を進もうとしているカリートだからこそ、そこは絶対に譲れない拘りだったのだと思います。そんなクリーンな精神論が美しい作品です。

作品冒頭で銃撃されるカリートが描かれていながら、もしかしたらカリートは生き延びれるんじゃないか?と誰もが思うはず。それ故に最後の独白、"許してくれ。これでも努力はしたんだ" は、恋人ゲイルだけにではなく、我々観客にも向けたカリートの言葉であるように感じるのです。
そう考えている自分に気づくと、やっぱりボクはデ・パルマの掌で転がされているなあと改めて思うのです。

※2019年1月24日の投稿記事をリライトしました


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