デ・パルマの才能を世界に知らしめた記念碑的作品

1976年 監督/ ブライアン・デ・パルマ

初めてこの作品を観たのは10歳の頃。これが初めてのデ・パルマ体験であり、その鮮烈な映像体験は洗礼と呼べるほどでした。『キャリー』は目眩く映像と音楽の融合。これまでに見た事のないその世界観は、10歳の映画少年の心を掴むにはあまりに容易く、その心に深く大きな爪痕を残してくれたのです。それはいい意味でも、悪い意味でも。

高校生活、いじめ、宗教、そして超能力。どれもが未知の世界であり、あまりにセンセーショナルでした。当時はまだ演出家など意識する筈もなく、唯々凄い映画として記憶されたこの作品。後年、本作の監督ブライアン・デ・パルマの名を知る事になるのですが、本作の記憶だけはトラウマ並みの強烈さを伴って心に焼き付けられたのです。

衝撃的なその作風から、気軽に見返す類いの作品ではないものの、本作は長きに渡りボクの好きな映画トップ5に君臨し続けるマスターピースです!


【この映画の好きなとこ】

◾︎キャリー・ホワイト(シシー・スペイセク)
いじめられっ子 → 恋にときめく少女 → サイキックキラー → 母の元へ還る子ども 。そのシークエンスごとに、全く違う顔を見せるシシーの演技に圧巻!

◾︎オープニングタイトルシークエンス
女子高校生のシャワールームを赤裸々に描いたシークエンスは、同監督作品『殺しのドレス』の先駆け。初潮を迎えるショッキングな展開はデ・パルマならでは。
官能的なスローモーションから一転、鮮血の場面

◾︎ホワイト家
生理が始まったキャリーを罪人とし、祈祷室に閉じ込める母マーガレット。主従関係と狂信的キリスト教信者の性格描写をものの数分で描くデ・パルマの手腕に脱帽。
激しい罵倒の後に描かれる親子愛も絶妙

◾︎スーの"一生のお願い"
これまでのいじめを悔い、恋人トミーにキャリーをプロムに誘うよう促すスー。承諾できないトミーと折れないスーの戦いを、鮮やかなジャンプカットと圧倒的無言で描くデ・パルマ削ぎ落としの美学。
長い沈黙は後の北野武演出を思わせる

◾︎コリンズ先生のアドバイス
トミーからプロムに誘われた事を打ち明けたキャリーは、コリンズ先生からプロムへの参加を勧められ化粧のアドバイスを受ける。過激な作風の本作で、心が和む希有なシーン。
ホラ、かわいいでしょ

◾︎豚小屋
豚を屠殺する凄惨なシーンながら、直接的描写を避けて描く鮮やかさ。しかしもっと凄いのは、『スカーフェイス』のチェーンソー同様、なにも見せていないのに目を背けるような残酷描写に仕上がっていること。
繰り返すクリスの「Do it !!」が効果倍増

◾︎ドレスアップ
プロムを控え、準備に余念が無い高校生たちの一幕をコミカルに描写。野暮なやり取りを突然早回しで見せます!
『ファントム・オブ・パラダイス』と本作で披露されるも、デ・パルマ作品であまり使われない技巧のひとつ

◾︎狼狽するマーガレット
プロムへの参加をよく思わない母マーガレットを超能力で強制抑止するキャリー。悪魔に見染められた娘に殺意を抱く戦慄シーン。
逆転の構図。人参切るとこ怖い

◾︎プロム会場
気後れするキャリーを優しく宥めるトミー。覚悟を決めて開けた車のドアを閉め、トミーのエスコートを待つキャリーに萌えます。

キャリーの幸せを願わずにいられなくなる瞬間

◾︎コリンズ先生との抱擁
キャリーを擁護し続けたコリンズ先生と過ごす束の間の時間。2人を見れば、誰もが思春期のときめきと儚い青春を思い起こすはず。この映画で一番好きなシーン!絶対観て!

ここで毎回泣きます


◾︎"I Never Dreamed Someone Like You Could Love Someone Like Me"
キャリーがトミーと踊った珠玉のバラード。この曲を歌うのは、スー役、エイミー・アーヴィングの姉ケイティー・アーヴィング優しく包む歌声が出色。絶対聴いて!

※2人が踊るシーンにこの曲がつけられていますが、ここは是非本編映像で観てもらいたい為、敢えて楽曲優先の動画を作りました。ご了承ください!

◾︎血のバケツ
豚の血を浴びせる事で、エクスタシーを迎えるかのようなクリスの病的性格を見事に描写。そして、不穏な情緒を奏でるピノ・ドナッジオの絶品スコア!
映画史上最も邪悪なバケツ
病的なクリス。子どもは残酷

◾︎地獄絵図
キャリーの怒りが頂点に達し解き放たれる超能力。画面を分割して様々な角度から見せるデ・パルマの演出と、鬼気迫るシシーの圧巻演技で映画史に残る殺戮シーンが誕生。
目を見開いた無表情演技で、怒りをダイレクトに伝える
必殺技的見せ場で派手な最期を迎えるクリスとビリー

◾︎母のもとへ還るキャリー
自宅へ戻り母に抱かれるキャリー。自分の居場所はここにしかないと再認識。天国から地獄に突き落とすデ・パルマのサディズムがヤバい。
胸が張り裂けそうな終焉

◾︎怯える少女
間も無く死を迎えるであろう母マーガレットの呻き声に怯え、直視できないキャリーの幼さを、見開いた目だけで表現したシシーの演技が素晴らしいです!
完全に子供になり切ってます!凄い

◾︎最後の時間 ※ネタバレ
家屋の崩壊で祈祷室に避難したのではなく、母と共に天に召される覚悟を決め、祈りを捧げに祈祷室に入ったのだと思います。愛する母と迎える最期。
涙で画面が見えなくなるくらいヤバいです

デ・パルマの革新的映像とショッキングなストーリーが大衆の心を掴み、作品は1976年度公開作品興行収入15位(因みに1位は『ロッキー』)という結果を出し、ヒット作として広く認知されました。
本作は小説家スティーヴン・キングの第一回映画化作品であり、このヒットによりキングも大ベストセラー作家へと大飛躍しました。
音楽を担当したピノ・ドナッジオは、これ以降デ・パルマ作品になくてはならないパートナーとなり、デ・パルマのバーナード・ハーマンロスを埋めました。
そして監督のデ・パルマは、またもやアボリアッツ国際ファンタスティック映画祭で、前作『ファントム・オブ・パラダイス』に続き、本作『キャリー』にもグランプリをもたらしました。この実績によりデ・パルマは、ハリウッド超大作をも任されるほどに急成長を遂げたのです。

実験的で革新的なテクニックが幾つも採用されている本作は、初見から何十年経とうとも色褪せるどころか、観るたび新たな輝きを放っているように見えます。人の心をグチャグチャに引っ掻き回す乱暴な構成と、デ・パルマのサディズムに支配されたようなスタイルながら、その陰に潜む親子、師弟、友人の愛に気づいたらもう虜。長きにわたり人の心に根づき愛される理由がそこにあるのです。


※2018年12月16日の投稿記事をリライトしました

ブライアン・デ・パルマ監督作品こちらも