11月も後半に入り、今年もまた樋口一葉の命日(11月23日 享年24歳)が近づいてきました。
今年は樋口一葉生誕150年
そうした節目の年の一葉忌を前に、このたび大切に大切にあたためてきた一葉の作品をようやく形にすることができ、本日発売の運びとなりました。
その朗読作品とは、
「樋口一葉日記」
です。
ああ、本当に、ようやく、です。
私にとっては念願の「樋口一葉日記」の記念すべき第一歩となりました。
樋口一葉の日記は、かねて評価が高く、一葉の作品・人物像を語るときに日記の存在は欠かせません。
ですが、とにかくその日記の量が膨大ですし、発表する作品として書かれたものではないので、タイトルがあったりなかったり、裏紙に書き散らしたものもあったり・・・なんせ一葉は若くして亡くなったので、自身で日記の整理はしていません。紆余曲折の末、妹のくにが一葉の死後、なんとか日記をまとめ、出版に至ったようです。
ということで、「樋口一葉日記」というのは、その存在と内容は(部分的に)よく取り上げられているのだけれど、日記の本文そのものは案外知られていないのです。
だからこそ、今回、樋口一葉の全作品を朗読するにあたり、樋口一葉の日記こそぜひ朗読したい、と私は思いました。樋口一葉が思うままに書き綴ったさまざまなこと、その原文にじかに触れ、樋口一葉という人間に迫りたいと、願いました。
しかし、やはりそれはそう簡単なことではありませんでした。
先ほどいったように、もともと一葉の日記は整備されていないものなので、散佚された部分もあれば、似たようなことが何度も書かれていたり、日記なのか随筆なのか…小説の試し書きもメモ書きもあり、分類がしにくく、今は絶版になってしまっている『樋口一葉日記』の書籍をいろいろあたっても、その収録の形や内容はひとつとして同じものはありません。
私は、朗読の底本となる一葉日記の形式や内容を決めていくことから始めなくてなりませんでした。
樋口一葉日記――掘れば掘るほどあらたな問題に突き当たるという感じでしたが、パンローリング株式会社の担当のMさんが根気強く資料を集めてくれたり、台東区一葉記念館にご協力をいただいたりして、ようやく一葉日記の全容を私なりにつかみ、収録形態や内容を決めていくことができたのでした。
ちょうどというか、たまたまコロナで自粛を余儀なくされたので、約2年間、樋口一葉日記はじめその全作品や資料を存分に読み込む時間をまとめて得ることができたことも、今にしてみればとてもありがたかったと思います。
最終的に、この『樋口一葉日記』は文章のジャンル(たとえば日記、随筆、雑感など)をこまかく区分けせず、すべて一律に年代順に並べ、収録する形をとりました。
そうして、できあがった
『樋口一葉日記 その一』。
聞いていただけたら、うれしいです
「樋口一葉日記 その一」概要
一葉が数え16歳(満15歳)のときに書いたとされる貴重な最初の日記「身のふる衣 まきのいち」から当時の日常生活が書かれた「わか草」まで。
貧しい出自ながらも歌会で最高得点を取ったこと、女性であることの生きづらさ、父の葬儀のときの様子、父や兄を早くに亡くしたことの回顧、筆一本で家計を支える決意をし、半井桃水(なからい・とうすい)に小説指導を頼み、深い思慕を寄せていくさま、歌塾・萩の舎(はぎのや)や図書館に通う日々など、一葉が小説を書いていくようになるまでの日常の暮らしぶりや内なる心情が綿密に記されている。
【収録内容】
※樋口一葉の日記は膨大なため、抜粋して収録しております。各日記の*収録箇所に、このオーディオブックに収録されている一葉日記の箇所(日付)を明記しています。なお、樋口一葉の年齢は数え年ではなく満年齢で記しています。
01 身のふる衣 まきのいち〈明治20(1887)年1~2月〉15歳
*収録箇所[1月15、22、29日、2月5、19、21日]
一葉が十五歳で書いた現存する最初の日記。良家の子女が通う歌塾「萩の舎(はぎのや)」に入った一葉の日常が綴られ、2月21日には初めて萩の舎の発会(ほっかい)にのぞみ、貧しい身なりでありながらもその歌会で最高点を取る。早くも一葉の矜持や高い志がうかがえる貴重な日記である。
02 無題〈明治22(1889)年7月、明治23(1890)年〉17~18歳
*収録箇所[明治22年日付不明、7月12~19日、明治23年日付不明]
女性として生きることの難しさを新聞記事などに触発されながら書いている。明治22年7月12日に父・樋口則義(のりよし)が亡くなり、その葬儀・通夜などの手配がつまびらかに記される。このあと、一葉に戸主としての責任が重くのしかかっていくことになる。明治23年には兄・泉太郎(せんたろう)が病死したときの回想や、ままならない世の中についての嘆きも綴られている。
03 しのぶぐさ〈明治23(1890)年〉18歳
*収録箇所[はつ秋風・朝がほ いずれも明治23年日付不明]
具体的な日付は記されていない。メモ書きのような雑多な書きつけや和歌、随筆のような文章にタイトルが記されているものもある。その中から父や兄が生きていたころに思いを馳せている「はつ秋風」と「朝がほ」を収録。
04 若葉かげ〈明治24(1891)年4~6月〉19歳
*収録箇所[4月11、15、21、22、24~26日、5月8、12、15、27、30日、6月2、3、15~17、20~24日]
4月11日、「萩の舎(はぎのや)」の面々と花見の宴を楽しんだ様子が記される。
小説で生計を立てる決意をした一葉は、4月15日に朝日新聞の小説記者・半井桃水(なからい・とうすい)を初めて訪ね、以来小説の指導を受けるようになる。こまやかに桃水とのやりとりが書かれ、交情が深まっていく様子がうかがえるが、一葉の心情は複雑で、6月に入ると思いつめた様子もみられる。その他、小説執筆や小石川(萩の舎)への稽古、手紙の投函や受取、図書館通い、当時の髪形の覚え書などが綴られている。
05 わか草〈明治24(1891)年7~8月〉19歳
*収録箇所[7月17、20~25、30、31日、8月1~8日]
「萩の舎」の友人たちとの歌会や稽古、親戚の来訪、浴衣の仕立ての請け負い、天候のことなど、日々の暮らしぶりが綴られている。8月8日、図書館で調べものなどをするも、館内は男性ばかりで女性はほとんどおらず、肩身のせまい思いをしていること、その帰路には男子学生にからかわれた様子などが記されている。図書館から帰った一葉を母と妹の邦子が優しく出迎え、洗濯や夕食のしたくをしてくれたとの記述がある。
樋口一葉の作品
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(発売順次、更新していきます。
全作品収録予定です)
→ 樋口一葉