今日はついに「平家物語」最終巻の灌頂巻(かんじょうのまき)についてですビックリマーク

 

平家の子孫は巻第十二で途絶えてしまいましたが、「平家物語」は最後に、生き残った建礼門院を通して、平家の栄枯盛衰を見つめていくのです。

 

 

《灌頂巻のあらすじ》

 壇の浦合戦で捕えられた建礼門院(けんれいもんいん)は帰京し、出家する。大原の寂光院へと移り住んだ建礼門院は粗末な庵で仏道に専心し、平家一門の菩提を弔う。そこへ後白河(ごしらかわ)法皇が訪ねてくると、建礼門院は自らの一生を六道輪廻(ろくどうりんね)にたとえて語るのだった。のちに建礼門院は、この地で極楽往生を遂げた。

 

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灌頂巻は、隠遁した建礼門院に焦点をあてた章が順に5つ並び、全体としては短いです。

ここでは、大原の寂光院に移った建礼門院のところに、後白河法皇がおしのびで訪ねてくる「大原御幸(おおはらごこう)」「六道之沙汰(ろくどうのさた)」に着目します。

 

 

・・・法皇夜をこめて大原の奥へぞ御幸なる。しのびの御幸なりけれども、供奉の人々、徳大寺、花山院、土御門以下公卿六人、殿上人八人、北面少々候ひけり。

 

おしのびといっても後白河法皇ですから、おつきの人々は結構な人数です。

 

寒い時期が過ぎるのを待って、夏の初め(旧暦4月の下旬、今でいえば5月ごろ)のよき季節に後白河法皇の一行は大原の奥へと足を運んでいきます。ここの描写は、人里離れているがゆえに自然の美しさが引き立ち、それを新鮮に受け止めている後白河法皇たちの姿も浮かんできます。

 

遠山にかかる白雲は、散りにし花の形見なり。青葉に見ゆる梢には、春の名残ぞ惜しまるる。頃は卯月二十日あまりのことなれば、夏草のしげみが末を分けいらせ給ふに、初めたる御幸なれば、ご覧じなれたるかたもなし。人跡たえたる程も、おぼしめし知られてあはれなり。

 

 

 

さて、寂光院に着きますが、建礼門院の姿は見えません。

 

 法皇、「人やある、人やある」と召されけれども、御答へ申す者もなし。はるかにあッて、老い衰へたる尼一人参りたり。

 

 

山で花摘みをしていた建礼門院は、のちに戻ってきて後白河法皇の姿をみとめると、ただ呆然としてしまいます・・・。

 

 

と、ここまでが「大原御幸」

続く「六道之沙汰」で、建礼門院は自分の辿った激動の生涯を後白河法皇に語っていきます。

 

 

 

六道とは、天・人間・修羅・畜生・餓鬼・地獄 のこと。

 

平清盛の娘で、天皇の母となった全盛期から源平合戦に巻き込まれ、ついには壇の浦で安徳天皇が入水する姿を目の当たりにすることになった建礼門院は、わが人生を六道にたとえ、天から地獄を辿った生涯を振り返ります。

 

建礼門院のこの独白は

「かかる身になる事は・・・・・・これ皆、六道にたがはじとこそ覚えさぶらふ。」

まで、なんと6ページ半、続きます。

 

この中で、巻第十一で登場した「先帝身投」の場面が、ここで改めて建礼門院の視点から語られることになります。このシーンの朗読は印象に深く残っています。記憶をフラッシュバックさせつつ、今度は建礼門院の目で、わが子である安徳天皇を見つめながら、朗読させていただきました。(試聴サンプルの「六道之沙汰」の箇所です)

 

 

この建礼門院の長い長い独白を、後白河法皇たちとともに、読者である私たちもしかと聴き、平家一門のめくるめく栄枯盛衰をいま一度味わうことになるのです。

 

 

のちに、建礼門院はこの寂光院でしずかに往生を遂げます。

 

 

こうして、「平家物語」もしずかに幕を閉じるのでした。

 

 

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試聴サンプル(約5分)【大原御幸~六道之沙汰~女院死去】
(↑サンプルの部分をクリックすると試聴できます)
 

灌頂巻 5章それぞれのあらすじ 

01 女院出家(にょういんしゅっけ)
壇の浦で入水したが源氏に引き上げられた建礼門院(けんれいもんいん)は帰京し、出家した。平清盛(きよもり)の娘であり、安徳(あんとく)天皇の生母として仰がれたかつての暮らしぶりとかけ離れた侘び住まいの中で、建礼門院は先帝や平家一門の面影をしのび、嘆き悲しんだ。

 

02 大原入(おおはらいり)
建礼門院はさらに人目を憚り、大原の寂光院へ移った。お堂の傍らに庵室を結び、一間を御寝所に、一間を仏間に定め、朝夕の念仏を怠りなく月日を送る。庭を通る足音は人ではなく鹿であり、寂しさがいっそうまさる暮らしであった。

 

03 大原御幸(おおはらごこう)
後白河法皇はわずかの供を従えて、大原の寂光院へ御幸された。出迎えた老尼は後白河法皇の乳母の娘・阿波内侍(あわのないし)であった。後白河法皇は庵室を見回し、建礼門院の暮らしぶりを哀れに思う。やがて山から下りて来た建礼門院は後白河法皇の訪問に驚き、呆然と立ちすくむ。

 

04 六道之沙汰(ろくどうのさた)
建礼門院は後白河法皇と対面し、平家一門の後生安楽を祈っている日々であることを告げる。そして、栄華から滅亡に至るまでの自分の生涯を、六道にたとえて切々と語るのであった。

 

05 女院死去(にょういんしきょ)
日暮れとなり、後白河法皇は還御された。建礼門院は亡き人々の冥福を祈り続ける。平家一門の悲劇は、平清盛が思いのままに権力をふるった報いとされる。年月が過ぎ、建礼門院は寂光院で静かに往生を遂げた。

 

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