十月十日 曇、福島町行乞、行程四里、志布志町、
鹿児島屋(四〇・上)
八時過ぎてから中町行乞二時間、それから今町行乞三時間、
もう二時近くなつたので志布志へ急ぐ、
三里を二時間あまりで歩いた、それは外でもない、
局留の郵便物を受取るためである、
友はなつかしい、友のたよりはなつかしい。
旅の子供は夕べしく/\泣いてゐる
旅はおかしい朝から夫婦喧嘩だ
・親によう似た仔馬かあいやついてゆく
みんな寝てしまつてよい月夜かな
・月夜の豚がうめきつゞけてゐる
月光あまねくほしいまゝなる虫の夜だ
月の水をくみあげて飲み足つた
明月の戸をかたくとざして
故郷の人とはなしたのも夢か
伸ばした足に触れた隣りは四国の人
秋の白壁を高う/\塗りあげる
松葉ちりしいてゐますお休みなさい
・松風ふいて墓ばかり
踏むまいとしたその蟹は片輪だ
志布志へ一里の秋の風ふく
・こゝまできてこの木にもたれる
・秋風の石を拾ふ
・人里ちかい松風の道となる
泣く子叱つてる夕やみ
飲まずには通れない水がしたゝる
砂がぽこ/\旅はさみしい
ヨタ一句
こんなところにこんなシヤンがゐる波音
安宿の朝はおもしろい、
みんなそれ/″\めい/\の姿をして出てゆく、
保護色といふやうなことを考へざるをえない、
片輪は片輪のやうに、狡いものは狡いやうに、
そして、一は一のやうに!
今日の行乞相はよくもわるくもなかつた、
嫌な事が四つあつた、
同時にうれしい事が四つあつた、
憾むらくは私自身が空の空になれない事だ、
嫌も好きもあるものか。
米価の安くなる事実は私のやうなものをも考へさせる、
飫肥では弐十八銭、油津では二十五銭、
上ノ町では弐十弐銭となつた
(新白米では弐十銭以下だとさへ聞いた)。
今町から志布志まで三里強、日本風の海岸佳景である、
一里ばかり来たところに、
宮崎と鹿児島との県界石標が立つてゐる、
大きなタブの樹も立つてゐる、
石よりも樹により多く心を惹かれるのは
私のセンチメンタリズムか、
夏井の浜といふところは海水浴場としてよいらしかつた、
別荘風の料理屋もあつた、
浅酌低唱味を思ひ出させるに十分だ。
自動車が走る、箱馬車が通る、私が歩く。
途上、道のりを訊ねたり、
此地方の事情を教へてくれた娘さんはいゝ女性だつた、
禅宗――しかも曹洞宗――の寺の秘蔵子と知つて、
一層うれしかつた、彼女にまことの愛人あれ。
草鞋がないのには困つたが、
それでもおせつたいとしていたゞいたり、
明月に供へるのを貰つたりして、
どうやらかうやらあまり草履をべた/\ふまないですんだ、
私も草鞋の句はだいぶ作つたが、
ほんたうの草鞋の名句が出来さうなものだ。
同室三人、
松葉ヱツキス売の若い鮮人は好きだつたが、
もう一人は要領を得ない『山芋掘』で、
うるさいから、街へ出て飲む、
そしてイモシヨウチユウの功徳でぐつすり寝ることが出来た。
(青空文庫作成ファイル)より
(続きます)
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今日も命を授けていただきありがとう (^-^)
二度とない人生
だから 今日が大事、今日が大切
今日もいい日でありますように 【合掌】
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