十月九日 曇、時雨、行程三里、上ノ町、古松屋(三五・上)
夜の明けないうちに眼がさめる、
雨の音が聞える、朝飯を食べて煙草を吸うて、
ゆつくりしてゐるうちに、雲が切れて四方が明るくなる、
大したこともあるまいといふので出立したが、
降つたり止んだり合羽を出したり入れたりする、
そして二三十戸集つてゐるところを三ヶ所ほど行乞する、
それでやつと今日の必要だけは頂戴した、
何しろ、昨日は朝の別れに例のお遍路さんと飲み、
行乞はあまりやらなかつたし、
それにヤキがなくてリヨカンに泊つたので、
一枚以上の食ひ込みだ
(かういふ世間師のテクニツクを覚えて使ふのも、
かういふ境涯の善し悪しだ)。
二時過ぎには宿についた、
誰もが勧めるほどあつて、気持のよい家と人であつた。
傘を借り足駄を借りて、中ノ町を歩いて見る、
港までは行けなかつた、
福島町といふのは上ノ町、中ノ町、今町の
三つを合せて延長二里に亘る田舎街である。
隣室は世間師坊主の四人組、多分ダフのゴミだらう
真言、神道、男、女、面白い組合だ。
今日の道は山路だからよかつた、萩がうれしかつた、
自動車よ、あまり走るな、萩がこぼれます。
昨夜の女主人公は楽天家だつた、
今夜の女主人公は家政婦らしい、
子を背負うて安来節をうたふのもわるくないし
雑巾で丹念に板座を拭くのもよろしい。
一昨日、書き洩らしてはならない珍問答を書き洩らしてゐた、
大堂津で藷焼酎の生一本をひつかけて、
ほろ/\機嫌で、やつてくると、
妙な中年男がいやに丁寧にお辞儀をした、
そして私が僧侶(?!)であることをたしかめてから、
問うて曰く『道とは何でせうか』
また曰く『心は何処に在りますか』
道は遠きにあらず近きにあり、
趙州曰く、平常心是道、常済大師曰く、
逢茶喫茶、逢飯食飯、親に孝行なさい、子を可愛がりなさい
心は内にあらず外にあらず、さてどこにあるか、
昔、達磨大師は慧可大師に何といはれたか、
あゝあなたは法華宗ですか、
では自我偈を専念に読誦なすつたらいゝでせう
彼はまた丁寧にお辞儀して去つた、
私は歩きつゝ微苦笑する外なかつた。
まゝよ法衣は汗で朽ちた
・ゆつくり歩かう萩がこぼれる
訂正二句
酔うてこほろぎと寝てゐたよ
大地したしう夜を明かしたり波の音
昨夜は榎原神社に参詣し、
今日は束間神社に参詣した、
前者は県社、後者は郷社に過ぎないが、
参拝者はずゐぶんに多いと見えて、
そこには二三十軒の宿屋、飲食店、土産物店が並んでゐた、
かういふ場所には地方的特色が可なり濃厚に出てゐる。
同室三人、箒屋といふむつつり爺さん、
馬具屋といふきよろきよろ兄さん、
彼等にも亦、地方的特色が表現されてゐる。
(青空文庫作成ファイル)より
(続きます)
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今日も命を授けていただきありがとう (^-^)
二度とない人生
だから 今日が大事、今日が大切
今日もいい日でありますように 【合掌】
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