九月廿三日 雨、曇、同前。
八時から二時まで都城の中心地を行乞、
こゝは市街地としてはなか/\よく
報謝して下さるところである。
今日の行乞相はよかつた、
近来にない朗らかさである、この調子で向上してゆきたい。
一杯二杯三杯飲んだ(断つておくが藷焼酎だ)、
いゝ気持になつて一切合切無念無想。
きのふけふのぐうたら句
糸瓜の門に立つた今日は(子規忌)
・旅の宿の胡椒のからいこと
・羽毛むしる鶏はまだ生きてゐるのに
・しんじつ秋空の雲はあそぶ
あかつきの高千穂は雲かげもなくて
お信心のお茶のあつさをよばれる
芋虫あつい道をよこぎる
竹籔の奥にて牛が啼いてるよ
・露でびつしより汗でびつしより
夜は教会まで出かけて、
本間俊平氏の講演を聴く喜びにあつたが、
しかし幻滅でないとはいへなかつた、
予期したよりも世間並過ぎ上手過ぎてゐはしないだらうか、
私は失礼とは思つたが中座した。
やつぱり飲み過ぎた、そして饒舌り過ぎた、
どうして酒のうまさと沈黙の尊さと、
そして孤独のよろしさとに徹しえないのだ。
同宿の坊さんはなか/\の物知りである、
世間坊主としては珍らしい、
たゞ物を知つてゐて物を味はつてゐない、
酒好きで女好きで、よく稼ぎもするがよく費ひもする、
もう一人の同宿老人は気の毒な身の上らしい、
小学校長で敏腕家の弟にすがりつくべくあせつてゐる
煙草銭もないらしい一服二服おせつたいしてあげた。
酔ふた気分は、
といふよりも酔うて醒めるときの気分は
たまらなく嫌だけれど、酔ふたゝめに睡れるのはうれしい、
アルコールをカルモチンやアダリンの代用とするのは
バツカスに対して申訳ないが。
九月廿四日 晴、宿は同前。
藷焼酎のたゝりで出かけたくないのを無理に草鞋を穿く、
何といふウソの生活だ、
こんなウソをくりかへすために行乞してゐるのか、
行乞してゐて、この程度のウソからさへ脱離しえないのか。
昼食の代りにお豆腐をいたゞく、
そして幾度も水を飲んだ、
そのおかげで、だいぶ身心が軽くなつた。
今日は彼岸の中日、
願蔵寺といふかなり大きな寺院の境内には
善男善女がたくさん参詣してゐた、
露店も五六あつた、
私はそこでまたしても少年時代を思ひ起して、
センチになつたことを白状する。
・投げ与へられた一銭のひかりだ
・馬がふみにじる草は花ざかり
朝一杯、昼一杯、晩一杯、
一杯一杯また一杯で一杯になつてしまふのだらう。
心境はうつりかはつてゆく、しかしなか/\ひらけない、
水は流れるまゝに流れてゆけ。
けふも旅のヱピソード――
行乞漫談の材料が二つあつた、
或るカフヱーに立つ、女給二三人ふざけてゐてとりあはない、
いつもならばすぐ去るのだけれど、
こゝで一つ根くらべをやるつもりで
まあユーモラスな気分で観音経を読誦しつゞけた、
半分ばかり読誦したとき、
彼女の一人が出て来て一銭銅貨を鉄鉢に入れやうとするのを
『ありがたう』といつて受けないで
『もういたゞいたもおなじですから、
それは君にチツプとしてあげませう』といつたら、
笑つてくれた、
私も笑つた、少々嫌味だけれど
ナンセンスの一シーンとしてはどうだらうか、
もう一つの話は、
お寺詣りのおばあさんが、行きずりに二銭下さつた、
見るとその一つは黒つぽくなつた五銭の旧白銅貨である、
呼びとめてお返しすると
おばあさん喜んで外の一銭銅貨を二つ下さつた、
彼女も嬉しさうだつたが、私も嬉しかつた。
今晩は特別の下好物として鰯と茗荷とを買つた、
焼鰯五尾で弐銭、茗荷三つで一銭、
そして醤油代が一銭、合計四銭の御馳走也。
(青空文庫作成ファイル)より
(続きます)
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今日も命を授けていただきありがとう (^-^)
二度とない人生
だから 今日が大事、今日が大切
今日もいい日でありますように 【合掌】
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