夏、お台場の恋 | ナンパ奮闘記

ナンパ奮闘記

東京を中心にナンパ活動、その戦績を紹介します。

どーも、オハラです。

 

夏が来れば思い出します、お台場のバイトの日々を。

僕はイギリスに留学していたときに年に2か月だけ日本に帰ってきました、それが夏休みの7月から8月。

 

その間は久しぶりの日本の料理に舌鼓を打ち、快適な環境に浸りながらまた一年間イギリスのタフな生活を生き延びる英気を養います。その間にもちろん、ためられるお金は頑張ってためることにしていたので、夏の期間だけやっているイベントのバイトをほぼ毎日やっていました。

 

留学者の中には夏休みの間は日本でバイトも何もせず日本の実家でごろごろしてますという人もいる。僕は少しでもお金を稼ごうとお台場の某テレビ局の夏のイベントのバイトをほぼ毎日やっていた。結構稼げるバイトで、2か月間みっちり出て30万近くは稼いだ。仕事内容は会場内の案内で、それぞれ持ち場が割り当てられる、今日はA地区を担当みたいに言われたらテレビ局正面入り口の長いエスカレーターの前でスタンバイし、そこで「いらっしゃいませ」みたいなことを言いながらお客さんが何人来たかをカウンターで数える。15分くらいで交代の人がやってきてその人にカウンターを渡す。そして次の持ち場のエスカレーター上の展示場前に移動しそこでまたカウンターをもらい15分後に次の持ち場へとどんどん回っていき、1間おきに15分の休憩ができるような仕組みになっている。つまり1間に一回休憩ができる結構楽な仕事である。というのも灼熱の太陽の下で案内をやっているので、休憩をとって水分を補給しないとマジで倒れるのだ。

 

この案内の仕事かもしくは掃除の仕事かのどちらかに割り振られる、それは日によって変わるのだが僕はほとんど掃除の仕事を任された。園内の決められた地区のごみ箱を空にする作業が主な仕事だ。アイスクリームの売店がやたらごみがたくさん出る器を用意しやがってそのせいですぐにポリバケツが満杯になる。それを何度も替えに行くのが僕の仕事だった。まあこの掃除の仕事も頻繁に休憩が取れて楽な仕事ではある、事務所もあてがわれそこを結構みんなで自由に改造して快適な空間でおひるごはんを食べたり談笑したりしていた。

 

掃除のメンバーだけでなく園内を歩いているinformation係のお姉さんも一緒に事務所で休憩する。目立つような赤いとんがり帽子をかぶっていて胸にはてなマークのTシャツを着ていて、行きたい場所などを訪ねれば丁寧に教えてくれる係でこれに選ばれるのはなぜかバイトの中でも比較的可愛い女の子だった。その中の一人の女性、仮にミキと呼称、に僕は参ってしまった。

 

ミキは僕が入ったばかりのころの研修の面倒を見てくれた。たしか彼女は21歳で大学生だった。夏のバイトの影響で小麦色に日焼けした肌、長いまつげの中に艶やかに蠢くつぶらな瞳、肩のあたりまで伸びた黒くつやのある髪からはいつも甘さの中にさわやかさの漂う香りがして、薄くめくれたその唇から発せられる声はしっかりと芯の入ったとても通る声で女性らしい声の中にもまるで広大な牧場で無邪気に駆け回るはつらつな少年のような声も併せ持つ中性的で魅力のある声だった。

 

アニメが好きな僕は女性の声に弱かった。声優の猛烈につまらないトークをラジオでずっと聞いていられるのもその女性声優の愛らしい声がなせる業。ミキにはその愛らしいルックスに加えてのその心に響く声があった。僕はミキに惚れていた。

 

研修で仕事を丁寧に教えてくれて、その中に軽い冗談も交えたりするたびに僕の心はふるえた。ああ、この蜜月もこの夏の間だけ、夏季限定なのだ。もうすぐで僕はあの暗いイギリスにまた戻って孤独と闘わなければいけない。このお台場で孤独の中に芽生えた淡い光、ミキは僕を照らす一筋の希望なのだ。

 

一度だけ、僕はミキと休憩時間に昼食をコンビニまで買いに行った。コンビニまでの道すがらミキと僕は互いのことを話した。ミキはもう就職先が決まっていて、どうやらハトバスのバスガイドをやるという。ミキは音大の声楽を学んでいたのだ。

 

知れば知るほど、ミキが好きになっていく。このままこの気持ちを伝えなくていいのだろうか?ふと、チケット売り場の方を見るとそこには大きなスピーカーが用意されていて、ちょっとした足場の上にマイクを持って立っているスタッフの男性がいた。「チケット売り場はこちらになります。本日はとても暑いので水分補給を…」などどうでもいいことを大音量で宣っている。

 

あのステージに立ちたい。あそこからミキへの愛のメッセージを伝えるのだ。

「本日はご来場ありがとうございます。いやー、本日は熱いですね。近年どんどん地球温暖化が進んでおります。みなさんはどうして夏が熱いかご存知でしょうか?それは夏は恋の季節だからです。夏の開放的な雰囲気に触発され、若い男女たちがその秘めたる思いのたけを入道雲の下で打ち明けあい燃え上がる。ああ、地球さんごめんなさい、僕たちのこの恋の炎を止めることはできません!そして、この僕にも燃え盛る炎のごとく思いを寄せている好きな人がいます!みんなで一緒に愛を叫びましょう!好きだ、ミッキー!」と高らかに宣言したのちに福山雅治の「Message」を熱唱。マイクパフォーマンスが終わると同時に一小節目の「ねぇ~」に入れるように、「恋の炎を止めることはできません」と言ったあたりからイントロが入るように仕組んでおく。

 

「突然僕の心に君がはじけた~…」歌い終わると気が付くと来場者が僕のステージの前に群をなし、モーゼの十戒のごとくに一本の道を作っている、その道の先にいるのはinformation係の恰好をしたミキがこちらを見て立っている。「…」誰もが無言で見つめる中僕はマイクで再び愛を叫ぶ「恋の京都議定書にサインしてくれないか?」するとミキはくすっと笑い「このいなせなCO2め☆」と返す。

 

そしてどこからともなく集まってきた劇団四季の方々と躍動感あふれるステップを踏み出し、あたりが暗転した後にはピンスポライトが僕に落ちてきて胴上げがスタート。

 

「いっかーい、にかーい」

 

とカウントされている円陣の周りでぴょんぴょん跳ねている人も一応配備。ひとしきりもみくちゃにされた後はホテルに会場を移してビールかけがスタートし、渋谷では号外が配られ、大阪では道頓堀に次々と人がダイブし、その日は国民の休日になり、翌日から全国のデパートがセールを開始して各国の首脳からお祝いのメッセージが多数寄せられ、刑務所にいる人たちの刑期が短くなったり、酒ばっか飲んでろくに仕事をしていないダメ亭主も「俺、明日から仕事探してみるよ!」とかふざけたことをぬかす。

 

途中からわけわからなくなって劇団四季の人とかが胴上げされて、劇団四季の人もその気になって「みんなありがとー」とか言い出す。主役はこっちだっつーの。

 

次回「オハラ、Over the Rainbow」の巻。

 

オハラ