安堂ホセさんの小説。文芸賞受賞後第一作。前作『ジャクソンひとり』がよかったので、超たのしみにしてたやつ!


あらすじは、ゲイが集まる都内のクルージングスポットで、一人の男が暴行される。容疑者の男は迷彩色に溶け込んで逃げ、それを主人公は追いかける…。


またとんでもねー小説書いてきましたね、安堂さん。これ、どう感想書けばいいのかわかんない(笑)だってどう読んでも誤読っていう気がするんだもん!もう、とにかく安易な理解や共感なんか断固拒否!!


前作にも出てきた、いぶきっていう人物が今回も登場するんだけど、彼がクルージングスポットの入口で提示するIDが日本のパスポートなんですよ。その理由が、「日本のパスポートがあれば世界中どこでも安心、っていう神話を一番実感するのは、俺にとってはここの受付」ここよかった。だって、それって、いぶきにとっては日本国内がすでに安心じゃない、ってことでしょう。


そういう世界があるって知ったときに、まかり間違っても安易に「わかる」とか言えないの。想像はできても、本当には、絶対にわからない。で、この小説は、「あ、そうですか。わかりませんか。で、それはどの立場から?」っていうことを、絶えず突きつけてくるんです。


大部分のわかる側から世界を作っていこうとすると、少数派のわからない側が見えなくなっちゃう。だから、この小説を読むことは、わからないってところを起点に、単一じゃない世界をはじめる練習。主人公の心情の要になるところが、周到に排除されているので、それを想像しながら読む練習…っていうか、だってそもそも、向こうからしたら、なんで懇切丁寧にそこまで説明しなきゃいけないの?ってなもんだよ。


セクシュアリティと人種に対する、二重のヘイトクライムの潜在的被害者として生きること。でも加害者はいつも迷彩色に擬態してつかまらないこと。だったら擬態を逆に利用して、そういう男と、そういう社会に復讐しちゃうぜっていうラスト、痛快だったわ~。


…いや痛快とか言ってる場合じゃないの!だってさ、これが海外文学だったら、「わかんない」で済ませられるけど、この小説はまぎれもなく日本社会で、日本語で書かれたものだから!その迷彩色のなかに、ぜったい私も含まれてるんだから!!つまり本当の犯人はね…いやみなまで言うな。今この時代を生きる日本人、全員読むべき傑作。



 

 

●安堂ホセさんの本(隠居の本棚より)


ジャクソンひとり 


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