安堂ホセさんのデビュー作で、第59回文藝賞受賞作&第168回芥川賞候補作。こないだ芥川賞が発表されたとき、候補作のなかでいちばん気になったのがこれでした。読んでもないうちから、「あー、私、この小説が書かれるのを待ってた」と思った。


主人公のジャクソンは、ブラックミックスでゲイの日本人。ある日、何者かから送られてきたロンティーを着て会社に行ったジャクソンは、背中のQRコードをスマホで読み取られ、そこにブラックミックスの男が出てくるリベンジポルノと思しき動画が映し出されたもんだから職場が騒然。いったい誰が、何のために…?というストーリー。


この小説にはジャクソン以外にも、3人のブラックミックスの男たちが出てくる。で、謎のロンティーはみんなに送りつけられていて、なんでそんな得体の知れないロンティー着ちゃうんだよ!とツッコミを入れてたんだけど、読み進めていくうちに、あぁ…と思う。あのロンティーは、私たちが彼らに「そういう印象」を押し付けてるってことで、彼らにそれを着る/着ないの選択肢はないってことなのか。アジア人女性が、海外で性的な目で見られる、という話を聞くけど、それと同じといえばわかりやすいか。


ほんで結局、誰がそんなロンティーを彼らに送りつけたのか、ってことなんだけど、小説のなかでは、いちおう犯人は明らかにされる。でも、そいつの、憧れと嫌悪の入り交じったようななんとも哀しい姿は、まるで私たち自身のグロテスクなカリカチュア。ってことは本当の犯人は…。


ジャクソンたちはブラックミックスなうえにどうやら全員ゲイらしく、それってマイノリティ・オブ・マイノリティなんですね。で、さらにそのなかにも微妙なヒエラルキーみたいなのがあって。なんつーか、日本に住んでる「純ジャパ」である時点で、この社会では圧倒的にマジョリティで、そこにあぐらをかいてる限り絶対に見えることのないリアリティがあるってことを見せてくれる小説でした。自分が世界だと思っていた範囲に、ドカンと風穴が開くような。


あと文章にビートがあって、読んでて爽快だった。575みたいな俳句っぽいリズムじゃなくて……445?うまく言えんけど。


ジャクソンたちの視点がピョンピョン跳ぶので、途中からもう誰が誰だがわからなくなって(あえてそういう書き方をしてるのかも)、もう一回読み返さなあかんのだけど、「この小説を待ってた」という直感が当たって嬉しい。安堂さん、これからどんな小説を書いていかれるのか、とても楽しみ。


 

 


 

●文藝賞受賞作(隠居の本棚より)


改良 遠野遥 


かか 宇佐見りん


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