~行っておいで~ | おはなしてーこのお話

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ふっと生まれたお話や感じたことを書いてます。

その国の王の専属のマッサージをしていた彼が、久しぶりに家に帰ってきた。

王が亡くなり、王が変わったのでお役を解かれたのだ。


彼は、最初7歳の時にお城に下働きとして入った。

その国では、毎年数人の子供たちを城の下働きに雇っていた。


彼は7人兄弟の5番目のその家の3人目の男の子として生まれた。

下に妹と弟がいた。

豊かでない家に生まれた子供たちのとってお城の行けることは幸せなことだった。


下働きとはいえ、読み書きは教えてもらえる。

僅かばかりでも賃金がもらえる。


そんな彼が、王の専属のマッサージを担当し、

その担当の数人の人たちをまとめる人の目に止まり

技術を教えてもらうことになり、王のマッサージをすることになり

王が亡くなるまで、そこに仕えていた。


王が変われば、王の気に入った者たちにその仕事がゆだねられる。

そして、彼も彼に技術を教えてくれた人も

同じにマッサージをしていた仲間たちもお役御免になり、お城を離れた。


彼は、家に帰り、学校に行けない子供たちに読み書きを教えていた。

内緒で近くのお年寄りにマッサージをしていた。


本当は、この技術は、この国では使ってはいけないと言われていた。

王への特別な技術でもあり、それをすることで受けた者たちに

王のことを漏らす機会が出来てしまうことを考え、

お城から禁じられていた。誓約書も欠かされて帰されていた。


ただ、彼は、身近な人の役に立つのにそれを使えないことに

少し、イラ立っていた。自分自身にイラ立っていた。

そして、膝を痛めて歩けない顔見知りのおばあさんに出会った。

その姿を見てどうしても、痛いところをさすってあげたかった。

それが、最初だった。

それから、子供たちに教える部屋の奥で、

空いている時はマッサージをするようになっていた。


最初は、見つからないようにと心配りをしていた。

出来るだけ数少なくしようとしていた。

でも、やってほしいと言ってくる人を断ることができなかった。

そうして、毎日のように一人二人とやるようになっていた。


でも、彼は決してお城で教えてもらった技術をそのまま使わなかった。

少し、自分なりに変えてやっていた。

お城で教えてもらったことも言わなかった。


ただ、お城での技術は、本当にいいものだと知っていた。

それがそのまま使えたらと思っていた。

でも、それは許されないんだとやり切れない気持ちだった。


そんな時に、お城で彼にマッサージを教えてくれた人が彼を訪ねてきた。

そして、いろいろと話をしていた時に、彼の手を見て

「君は、今も人の体に触れ続けているね。」と言った。

彼は、その言葉に驚き返事が出来なかった。


その人は、「その気持ちはわかるよ」と言った。

そして、「君はこの国を出てお城での技術を使ってみたいとは思わないのかい?

     私が聞いているだけも数人の者がそうして、この国を出ている。

     この国の中でなければ、王に仕えていたことさえ言わなければ

     その技術は使うことができる。君はそうしたくはないのか?

     私も若ければそうしたかったよ。」と言う。


彼は、その言葉に困惑した、同戸答えればいいのかわからなかった。

そんな、彼の肩をたたきその人は、「まぁ、君の人生だからね」と言った。


その人が帰った後、彼の心は揺れ始めた。

彼は、自分の周りの人たちの体が楽にできたらいいと思っていた。

その一番が母親への施術だった。


けれど、教えてもらった技術をそのまま使えないことが

彼を不安にしていた。今やっている技術が本当にいいのだろうかと思っていた。

元の技術を忘れてしまうのではないのかという不安がいつもあった。


それから数日して、彼の母が、「何を悩んでいるんだい?」と彼に聞いてきた。

彼は、迷いながら心配そうな母の顔を見て、素直に自分の気持ちを話した。


それを聞いた母、「行きたいのかい?」と彼に聞いた。

それに答えられない彼に、「行きたいんだね。」と言い「行っておいで」と言った。


彼はその言葉に驚いた。「でも、僕は身近な人たちの役に立ちたいんだ・・・」と言った。

それを聞いて「また、帰ってきて、今以上に喜んでもらえるようになればいいんじゃない?」と言う母の顔が

それでいいじゃないと言っているように感じられた。


そして、彼はこの国を離れてやってみようかと思っていた。