~ 欲しいというだけ ~ | おはなしてーこのお話

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ふっと生まれたお話や感じたことを書いてます。

塀の向こうの大きな木の枝が

塀を越え一つの実をつけなっていた。


その枝の下で、その実をじっと見上げている女性がいた。


彼女は長い間、ずっとずっとその実を探して旅をして来ていた。


やっと、ずっと手に入れたいそれを目の前にして

彼女は、どうしたらいいのかわからなかった。


どうやって、それを手に入れたらいいのかわからなかった。


取ろうと思えば取れない高さではないのに・・・

彼女は、どうやって手に入れたらいいのかわからなかった。


「欲しいっ!!」と言えばいい。と後ろから大きな声がした。


そうか!!そう言えばいいのかと思った。

・・・けど、なかなか言えなかった。


彼女は今まで、一番欲しいものを欲しいと言ったことがない。

いつもみんなの残りを手にするだけ、

そんな最後のものですら、「もらっていいの?」と周りの人に聞いていた。

一番に選べる権利をもらっても、

自分の欲しいものが他の人の欲しいのだったらどうしようと

できるだけ、みんなの欲しがらなさそうなものを選んでいた。


そんな、彼女が、誰にも言わず、ずっと欲しいと思っていたもの

探し続けていたものが、

やっと、見つかった。


彼女は、恐る恐る「欲しい」と口にした。小さな声だった。

その実は、少し揺れただけだった。

彼女は、もう一度今度は大きなはっきりした声で


「欲しいっ!!」と言った。


その実は、木から落ち、彼女が受け取ろうと両の手を出して待っている

その手の上で跳ね。彼女の懐にすっぽりと入った。


彼女は、これでいんだろうかと思いながら、あっけにとられていた。