~化学者~ | おはなしてーこのお話

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ふっと生まれたお話や感じたことを書いてます。

ある小さな国に

ちょっと偏屈でごく普通の化学者がいた。

一日のほとんどを家の中で自分の好きな研究をして過ごしていた。


ある日、そんな彼のところに王から呼び出しの手紙が届けられる。

様々の分野の専門家の代表が集まり、王の提案するものに

それぞれの立場から意見を言うという、会議に参加するようにとの内容だった。


彼は、あまり興味がなかった。

できれば、研究をしていたかった。

でも、断ることもできず、参加することにした。

小さなこの国で化学者は、彼一人だった。


彼は、初めて王の顔を間近で見た。

今まで、王の顔すら覚えていなかった。


王からこの会議の内容を聞き

これから、王の呼び出しがあったらこうして集まるようにと言われる。


そうして、彼は何度か城に出かけるようになる。

そして、いつしか王に昔からの大切な友人のような親しみを感じるようになる。


王は特別、人を引き付ける何かを感じさせる風でもない。

けれど、なぜか彼は惹かれてしまう。


王は、仕方ないからと王をしている風でもない

ただ、不幸せでもなければ、幸せそうでもないように彼には見えた。

そんな王のために何かをしたかった。


そうして、彼は王の呼び出しがあるたびに城に出かけた。

自分の知識の中で、できる限りの意見を言った。


そんな日々にが続き、十数年がたった。

王も年をとり、息子の王子が国のほとんどを動かすようになっていた。

王は、王子の決めたことに承諾するだけになっていた。

そうなってから、王から呼び出しの手紙が来なくなった。


城に行かなくなって数年たった

化学者も年をとり、ベットの中で一日を過ごすことが多くなっていた。


そんなある朝、ベットの上で目が覚め

ふっと、王のことを思った。

王が幸せだと思えるような、日々を送っていてほしいと願った。

彼は城に行かなくなってからも、王のことをずっと大切な友人のように思っていた。

そして、王の幸せを願っていた。


そんな彼の気持ちは王は知らない。

そんなことは関係なく、王が幸せであってほしいと思った。

ずっとその気持ちは変わらなかった。


彼は、自分のことなのに

なぜ、こんな気持ちになるのかわからないことが、少し、おかしかった。

そんなことを想いながら、少し笑みを浮かべ

窓から差す日差しを感じながら、静かに最後の眠りについた。