~ 闇 ~ | おはなしてーこのお話

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ふっと生まれたお話や感じたことを書いてます。

這い蹲り、何かにすがろうと右手を必死に伸ばす。
「助けて」言葉にならない声。
必死で、声に出そうとしても声にならない。
声にしようと必死で振り絞っても・・・
心ではこんなに叫んでいるのに・・・

そんな姿を、遠巻きに見ている、たくさんの人の気配を感じる。
冷たい気配。嘲り笑っている者さえいるように感じる。

必死で助けを求めれば、求めるほど
その遠巻きの気配は遠ざかっていく。

闇が、足元から近づく・・・
深く冷たい闇が、彼を飲み込もうとやってくる。

それでも、彼は助けを求め続ける。
そして、ついに右足をもぎ取られてしまう。

彼は、「ぎゃー」という叫びと共に、
絶望と諦めを感じながら、その痛みに耐えられず意識を失う。

少しの間、意識を失っていた彼が目を覚ます。

遠巻きに感じていた気配はなくなっていた。
ついに一人になってしまったんだと思う。
ここはどこなんだろう?
闇に飲み込まれてしまったんだろうか?と
ひとしきり周りの様子を伺う。

今までいたところと同じだと分かる。
ほっとする。闇も今は、姿を消している。

彼は右足をさすりながら、あの恐怖を思い出す。
そして、あの巨大で深い闇を思い出す。

そして、懐かしいような、親しみのようなものを感じている自分に気が付く

あの闇は、自分が創ったもの
斜に構え、嘲り、騙し、妬み、嫉み、奪う。
自分の尺度で裁き、何一つ許そうとしない。
愛されていることを知ろうともせず、
愛されていないと嘆き、悲しみ
何一つ自分でしようともせず、
愛することをやめてしまった自分が創ったもの。

その闇の中は、何一つ許されない世界。
喜びを感じることも、幸せになることはもちろん、
泣くことも、嘆くことも、怒ることも
甘えることも、助けを求めることも息をつくことも許されない。
自分自身の命を絶つことさえも許されない世界。

そんな世界が、重い粘りのある粘土のように
彼のすべての自由を奪っていく。

それを思い出し、彼は身震いする。

そして、また、気が付く。

遠巻きに感じていた気配。
それも自分だったと・・・

こんなに苦しいのに、こんなに叫んでいるのに
誰も、何も助けてくれない。気が付いてくれないと恨み、嘆く自分を
無関心を装い、冷たく笑い、突き放す自分。

それは、今まで、周りに自分がしてきたこと・・・

そう思ったとたん、彼は、
冷たく凍ってしまった自分を感じる。

そして、一言、「苦しい・・・」とつぶやく