~ 枯れ果てたおばあさん ~ | おはなしてーこのお話

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ふっと生まれたお話や感じたことを書いてます。

あるとき、グレーの衣の上にブルーの着物のような服をまとい、白いズボンをはいた少年が

広い広い高原の上で、この世のすべてのものに

「僕はここにいるよ。見つけてー」という思いで叫びを上げていた。


そんな、彼の姿を見て、少ししか日が差さない、

周りの木々は死んだようにベージュ色になっている森に住むおばあさんが、

少年に話しかける。


「そんなことをしたら、何かの役割を背負わされ、いらなくなったら捨てられるんだ。

 だから、ひっそりと見つからないように暮らすほうが利口者なんだよ。」と

しわだらけに枯れたようになった体の背を曲げて、意地悪そうな顔で言うおばあさん。


少年は、戸惑う。そうなのかと思う。悲しくなってくる。


そんな少年の姿を見て、おばあさんは自分の昔を思い出していた。

生き生きと輝き、歌を奏でていた頃の自分を思い出していた。


おばあさんは、昔、青々と茂る大きな木の幹の中に出来た家に住んでいた。

その家の大きな出窓で、白の衣の上に

桃色の着物のような大きな袖をした、裾の長い服を着て

この世の良い出来事、悪い出来事のすべてを歌に乗せ、周りの人々に知らせ伝えていた。


それが、おばあさんの皆の中での役割になっていた。

でも、おばあさんにとっては、ただ、歌うことが幸せなだけだった。


そんな毎日を過ごしていたとき、

少しずつ、周りの人々から歌うことをやめるように言われ始める。

おばあさんは、分からなかった。

何で、そんなことを言われるのか・・・

「お前の歌は人を不幸にする。」「お前は人を傷つけている」とまで言う人が現れる。

「皆が、そう言っている」と言う。


おばあさんは、悲しかった。どうしてだか分からない・・・

それが、余計に彼女を悲しませた。


そして、人に聞こえないように、周りの鳥や動物、植物達と

たわいもない歌を、毎朝、少しだけ歌い、後は家の中だけで過ごすようになった。

誰にも会わず、尋ねてくる人もいない毎日


彼女は、だんだんと歌うことをやめていった。

毎朝歌うことも、少しずつ間が開くようになっていた。


そして、ついに歌うことをやめた。


天から見放されたと思った。

そして、大地からの力までを絶たれたように感じていた。


歌うことは、おばあさんにとって大地からの力をもらい

その力で歌い、天に歌の力で投げかけ、大地にまた力をもらうという

天と地とのつながりを感じるものだった。幸せを感じられるものだった。


そうして、ずっと、天に向かい嘆き続けていた。

「どうして、大地からの力までも奪ってしまうのか」と


「ただ、ただ、天に向かい歌を奏で

 少しでも、いい声を聞いてもらいたいと思っていただけなのに」と


そんなある日、

「大地からの力を断ったのは、あなたが、歌うことをやめ

 その力をあなたの中にだけでとどめてしまうことで

 あなたが、破裂してしまうことになってしまうから・・・

 本当の歌を奏でなさい。あなたが幸せだと感じる歌を、

 それだけで、天にいる私達はうれしいのです」と

そんな言葉を語りかけられる。


おばあさんは、何が悪かったのか、何がいけなかったのか

何もかも本当に分からなくなってしまった。


そして、一瞬のうちに枯れ果てたおばあさんになってしまった。


そうして、死んだようになった森に住み

すべてのものを恨み、悲しみ、口から出る言葉は意地の悪いことばかりなってしまった。


そんなことを、輝きたいと願っている少年を見て思い出し

ふっと、あることに気が付く


彼女は、歌をやめる前

高く柔らかい歌声で歌う天女の歌を耳にし

低い声で歌うことしか出来なかったから

その天女のように歌いたい、負けたくないと思うようになっていた。


そして、ただ歌うだけでなく、歌の技術を磨くことに気をとられ始めた。

そうして、そこにばかりにこだわりるようになっていった。


そんな彼女の歌からは、聞く者達への思いやりや、優しさがなくなっていた。

彼女自身の歌を大切にするという想いまでもなくなっていった。


そんなことに気が付いたとき


それがなくなった歌は、悪い出来事を聞き、悲しむ人々を

また、傷つけるものになっていったんだと

そして、良き出来事の歌は喜びを伝えてなかったんだと


彼女が、歌うことに喜びを感じ、幸せを感じながら歌うとき

悪い出来事の歌は、聴く人の悲しみを和らげ

良き出来事の歌は、喜びを大きくするものなのだと


ただ、それだけで良かったんだと


そのことに気が付いた彼女は、

いつの間にか、顔のしわもなくなり、枯れ果てた印象もなくなり

張りのある丸い感じのおばあさんの姿へと変わっていた。