*ほじゃさんからお話の紹介です。
27話目は『イギリスの民話』から「飼い猫のトム」というお話です。


----------■飼い猫のトム(イギリスの民話から)■----------


ある冬の日の夕方のことです。墓掘り男のおかみさんが、暖炉のかたわらで、飼い猫のトムと一緒に座って、夫の帰宅を待っていました。猫は年をとった、大きな黒猫です。うつらうつらしながら待っているのに、なかなか墓掘り男は帰ってきません。ずいぶん長い間まっていると、男が家のなかに駆け込んできて、やにわに

「トミー・ティルドラムっていったい誰かね」と大声をでおかみさんに聞きました。あまりにあわただしい様子なので、おかみさんも猫もびっくりして、いったい何事がおきたのかと、彼をじっと見つめました。


「どうしたのさ。トミー・ティルドラムなんて知らないよ。どうして、そんな人のことを知りたいのさ」と、おかみさんはたずねました。
「いや、おどろいたことがあったんだ。あのフォーダイスさんの墓を掘っているときに眠くなって、ねちまったらしい。そして猫がニャオというなきごえで目を覚ましたのさ。」


「ニャオ」と、トムが男にこたえるようになきました。


「そうだ、そんな声だ。で、墓のふちに目をやったんだが、何が見えたと思う?」
「そんなこと、わかるわけないわ」と墓掘り人のかみさんは言いました。
「トムそっくりの黒猫が九匹いたんだ。みんな胸のところに白のぶちがついたやつだ。猫たちが何を担いでいたと思う? 黒のビロードのかけ布で覆われた小さな棺だ。そして、そのかけ布の上に、全部金でできた小さな王冠が置かれているんだ。そして、猫たちは三歩あゆむ度にニャオを鳴き声をあげるんだ」


「ニャオ」と、またトムがなきました。


「そうだ、まったく、その通りのなきごえだ」と、墓掘り人はトムをちらりと見て言いました。
「彼らがどんどん近づいてきたので、様子がはっきりわかったよ。彼らの目が緑色の光でひかっていたからね。猫たちはわしの方にやってきたのだが、そのうちの八匹の猫が棺をかついていて、一番大きな一匹だけが先頭を歩いているのだ。おや、ちょっとトムをみてごらん。わしをみつめているな。まさか、わしが何を話しているのか分かっているんじゃないだろうな」
「かまわないから、話をつづけなさいな。トムのことなんかほっときなさい」
「そうそう、猫たちはゆっくりと厳粛な様子でわしの方にちかづいてきて、三歩あるく度にニャオとなくのさ」


「ニャオ」と、トムはまた鳴きました。


「そうだ、そんな風にだ。最後に猫たちはフォーダイスさんの墓ところにやてくると、わしの方をじっと見るんだ。わしはけげんにつつまれた感じだった。ほら、トムをみてごらん。その猫たちは、今のトムとまったく同じ様子でわしを見つめたんだ」
「それで、それで。トムのことなんていいから、放っておきなさいよ」と、おかみさんが言いました。
「どこまで話したっけ?ああそうだ。ああ、猫たちがわしを見つめたんだ。そして、棺をかついでなやつがわしのまん前にやってきて、わしをじっと見つめてから、トム・ティルドラムにティム・トルドラムが死んだと言えと、かなきり声でいったんだ。だから、トム・ティルドラムは誰かとお前にたずねたのさ。トム・ティルドラムがだれだかわからなければ、トム・ティルドラムにティム・トルドラムが死んだとつたえることなんか、できないじゃないか」
「あら、トムをみて、トムをみて」とおかみさんは叫び声をあげました。


 トムは体をゆすり、それから、墓掘り人とおかみさんをじっと見つめ、最後に大声で言いました。
「なんだって? ティムが死んだ? それじゃあ、わしが猫の王様になる番だ」


 トムは煙突のなかを駆けのぼり、それからと言うもの、二度と姿を見せませんでした。


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■ほじゃさんから


この話はジョセフ・ジェイコブという人が編集して1942年に初版が出版された『イギリスの昔話』(フレデリック・ミュラー社)の中で見つけた話です。よく構成されていて、不思議な感じがする話なので、自分で訳してみたのでが、後で知人から聞いたら、この話はすでに翻訳されて、日本語で出版されているそうです。でも、語りに向いた話なので、自分の訳を紹介します。


*ほじゃさんからお話の紹介です。
26話目は『トルコの民話』から「ヤルムホロズ」というお話です。


----------■ヤルムホロズ(トルコの民話から)■----------


 昔むかし、ある村にヤルムホロズという貧しい男がおりました。


 ある日のこと、ヤルムホロズには食べるものが何もなくなってしまいました。困り果てたヤルムホロズは、ずっと以前に地主に金貨を三枚貨してあるのを思い出して、それを返してもらおうと思いました。ところが、その地主はヤルムホロズの村からは大変遠いところに住んでいました。そこで、ヤルムホロズは朝早く起きて、地主の村へと出かけて行きました。山越え谷越えどんどん歩いて行くと、途中でお化けに会いました。
「ヤルムホロズのおじさん、どこへ行くの? 一緒に行ったらいけませんか?」と、お化けが言いました。ヤルムホロズが
「一緒に行くのはいいが、とても遠くへ行くんだよ。そんなに長い間歩けるかい」と言うと、
「歩けるとも、おじさんのお荷物にはならないよ」と、お化けがしきりに頼むので、連れて行くことにしました。
山越え谷越えどんどん歩いて行くと、お化けはだんだん疲れてきて、びっこをひき始めました。
「もう歩けない」とお化けは愚痴をこぼし始めました。
「それなら、おれのお尻に入れ」と言って、ヤルムホロズはお化けを自分の尻に突っ込んで、また歩き始めました。


 しばらく行くと、狐に会いました。
「ヤルムホロズのおじさん、どこへ行くの? 一緒に行ったらいけない?」と、狐は言いました。ヤルムホロズが
「一緒に行くのはいいが、とても遠くへ行くんだよ。そんなに長い間歩けるかい」と言うと、
「歩けるとも、おじさんのお荷物にはならないよ」と、狐がしきりに頼むので、狐も連れて行くことにしました。山越え谷越えどんどん歩いて行くと、やがてお昼になりました。狐はとても疲れて、よろよろしながら、
「もう歩けない」とお化けは愚痴をこぼし始めました。
「それなら、おれのお尻に入れ」と言って、ヤルムホロズは狐を自分の尻に突っ込んで、また歩き始めました。

 そして、しばらく歩いて行くと、小川のほとりに着きました。
「ヤルムホロズのおじさん、どこへ行くの? 一緒に行ったらいけない?」と、小川が言いました。ヤルムホロズが
「一緒に行くのはいいが、とても遠くへ行くんだよ。そんなに長い間歩けるかい」と言うと、
「歩けるとも、おじさんのお荷物にはならないよ」と、小川がしきりに頼むので、小川も連れて行くことにしました。また、どんどん歩いて行くと、山のふもとに着きました。すると小川は、
「わたしは登れない」と言って、立ち止まってしまいました。ヤルムホロズは小川もお尻に突っ込み、また歩き始めました。山を登り、山を下って、昼下がりに、地主の家に着きました。門の扉をたたくと、召使がやってきて、
「何の用かね」と言いました。ヤルムホロズが
「地主に貸してあるお金を返してもらいに来たのさ」と言いました。召使が地主に取り次ぐと、地主は怒って、
「そのヤルムホロズとやらをがちょう小屋に閉じ込めろ。がちょうに突っつかせて、そやつを殺してしまえ」と、召使に命じました。


 召使はヤルムホロズをがちょう小屋に閉じ込めてしまいました。がちょうたちはとがったくちばしで、ヤルムホロズに襲いかかって来ました。そこで、ヤルムホロズがすぐにお尻から狐を出すと、狐はがちょうたちを一羽残らず食い殺してしまいました。


 夕方、召使が様子を見に来ると、がちょうたちはみんな殺されており、ヤルムホロズは何事もなかったような顔をしていました。召使はあわてて地主のところに走って行って、このことを知らせました。これを聞くと、地主はカンカンに怒って、
「そうし、それなら、今度は家畜小屋に閉じ込めてしまえ。牛が角で突っつき、馬は蹴っ飛ばして、奴を殺してしまうだろう」と、召使に言いました。


 召使は、さっそく、ヤルムホロズを家畜小屋に閉じ込めました。ヤルムホロズは夜になるまで、小屋の隅にじっとうずくまっていましたが、暗くなると、すぐにお尻からお化けを出して、家畜たちのところに放ちました。牛も馬も綱につながれているので、お化けは一頭残らずたいらげてしまいました。お腹いっぱいになったお化けは、もう一度ヤルムホロズのお尻にもぐりこみました。


 次の朝、家畜たちの様子を見に行った召使は、家畜が皆殺しにされているのを見て、びっくり仰天しました。すぐに地主のところに走って行って、このことを伝えました。これには地主もすっかり腹を立てて、
「わしの大事な家畜を殺してしまうとは、これはいったいどういうことだ。ヤルムホロズのような奴にこんな目に会わせられるなんて、わしは我慢ならん。こうなったら、奴を裏の焚き木小屋に閉じ込めて、火をつけて、あいつを焼き殺してしまえ」と、召使たちに命じました。


 召使たちはヤルムホロズを焚き木小屋にぶちこんで、火をつけました。ヤルムホロズは小屋中に火が広がるのを待ってから、お尻から小川をだして水をかけたので、 火はまたたくまに消えてしまいました。そして、ヤルムホロズは焼けた焚き木小屋から、すずしい顔をして出てきました。


 これを知った地主は気も狂わんばかりに怒って、
「わしの大切な財産がめちゃくちゃにされてしまった。ようし、今度は、金貨の蔵に閉じ込めてしまえ。これ以上奴に長居されては、なにもかも台無しにされてしまう」と、わめきちらしました。


 召使たちは、さっそく、ヤルムホロズを金貨の蔵に押し込めました。ヤルムホロズは蔵に入ると、お尻に金貨を入るだけつめ、口の中にも金貨を三枚突っ込みました。そして、幸いにも抜け穴を見つけたので、蔵から抜け出すと、地主に向かって
「お前に貸した三枚の金貨を返してもらったぞ」と大声で叫び、それから自分の村に向かいました。途中で、お尻の中のお化けと狐と小川も、それぞれ元いた場所に戻って行きました。村に帰ったヤルムホロズはたいへんなお金持ちになり、村人たちから重んじられる人になりましたとさ。


 ヤルムホロズは、今でも元気に暮らしているそうですよ。きのうもここを通って、みんなによろしくと言っていましたよ。


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■ほじゃさんから

* これも『ふっくら』一号に紹介しました。ヤルムホロズは、トルコ語で「半分にわとり」という意味です。トルコの昔話では、小川も山も公園も人間のように動き出します。日本の昔話にはこうした場面が出てくるのかどうか、よく知りません。それでも、猿かに合戦では臼が動き出しますから、こうしたことは昔話の世界では珍しくないのかもしれませんね。

■ほじゃさんから


「今日(3月31日)から、茨城県で発行されている常陽新聞で連載が始まりました。題して『トルコ民話紀行』。
週一回の連載です。満子のペン画に解説を添えながら、ホジャ話などのトルコ民話や、トルコの歴史と文化、イスラーム社会のことなどについて少しづつ紹介していく予定です。現代社会で民話を語り継ぐことの意味とか、語り手群像についても触れようと思ってます。」



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常陽新聞を読まれている方、是非、お読みくださいませ。


また、掲載済みのお話を後追いでこちらのブログでも紹介していく予定です、

少々お待ちください。