*ほじゃさんからお話の紹介です。
29話目は『トルコの民話』から「泥棒たちとケローラン」というお話です。


----------■泥棒たちとケローラン(トルコの民話から)■----------


 昔ある国に、眠ることが大好きな王様がおりました。王様は朝も眠り、昼も眠り、夜はもちろん眠りました。王様の仕事といえば、ただひたすら眠ることだったのです。こういうわけで、王様に仕える役人や大臣たちも当然王様と一緒に眠りこけていました。王様はじめこの国のお偉いさんたちがこのような有様であれば、その家来たちももちろん居眠りばかりしておりました。


 こうなると、お城の立派な家具調度、金銀財宝などを守る番兵も眠っているわけですから、泥棒はやりたい放題、何でも盗みまくりました。この噂は次第によその国まで広まり、世界中の国から泥棒たちがやってきました。まさにこの国は泥棒たちにとって天国でした。そのうちに、王様や役人たちをさしおいて、抜け目のない泥棒たちが国を治めようとし始めましたから、とうとう人々は王様や大臣たちにぶつくさ文句を言うようになりました。民衆がなんとかしてくれと騒ぎだしたので、眠い目をこすりながら王様はしぶしぶ腰をあげ、大臣たちを集めて会議を開きました。そして、
「こういうことになったのは、すべてお前たちが怠けていたからだ。お前たちがしっかりしないから、わしはゆっくり眠ることもできないではないか。何か良い考えがあったら申してみよ」と、言いました。大臣たちはワイワイガヤガヤいろいろなことをいいましたが、王様は、
「どんなことをしても、泥棒たちのわるさをやめさせてくれ。それが出来なければ、お前たちは即座にクビだ。よいな」と、命じました。


 大臣たちは、
「仕事らしい仕事もしないでたんまりお金をいただいていたのに、ここを追い出されてはたまらない。それに、王様が眠っている間に働いた悪事がばれたらどうしよう」と恐れおののき、目をパッチリ開けて額を寄せ合い相談しました。そして、国中にお触れを出してはどうかということになりました。


 次の朝、触れ人の呼ばわる声に人々が群がっているところを、ケローランという若者が通りかかりました。ケローランが何事かと耳をすまして聞いてみると、
「みなの者、ようく聞くが良い。この世を荒らしまわる憎っくき泥棒たちを捕えよ。捕らえし者には褒美をとらせる。我こそはと思う者は名乗り出よ」と、叫んでいました。人々はお互いにささやきました。
「泥棒たちを捕まえたら、王様はどんなご褒美をくださるのだろう」
「なんとかして、わしが捕まえてみせる」
「いいや、俺が捕まえる」と、意気込みました。宝物の蔵を守る番兵たちも、王様の軍隊も手にあまるならず者たちを、いったいどうやって捕まえるというのでしょう。ケローランはすぐにお城へ走りました。そして、門番に王様に会わせてくれるように頼みました。門番は頭に毛のないみずぼらしい小男ケローランを見て、
「何しに来たんだ。お前みたいな奴に何が出来る。王様に会う資格などないわ。とっとと帰れ」と、あざ笑いました。ケローランはこんなことで引き下がったりする男ではありません。何とか門番を説得して、王様に会うことになりました。
「王様、おいらが泥棒たちを捕まえてみせます。やらせてください」


 はじめは王様も門番と同じように、ケローランを頭の先から足の先まで眺めて、
「頭に毛もないこんな小男に何が出来るというのか」と、馬鹿にしました。けれども、溺れる者藁をも掴むです。急場をしのぐにはだれでもいい、早くなんとかしなくてはなりません。王様はケローランに言いました。
「ふむ、そちが泥棒たちを退治してくれるとな。して、褒美として何がほしいのか申してみよ」
「王様、泥棒たちを捕まえることが出来ても、ご褒美なんていりません。でも、一日だけ、おいらを王様にしてくれませんか」
「なに? いや、よしよし。お前の望みはかなえてやる。だが、もし出来なかったら、お前の首はないものと思え。わかったな」


 ケローランは一日王様になるか、首が飛ぶか、どっちにしろやってみることにしました。王様からもらったお金で泥棒にふさわしい服をととのえ、大きな口ひげをつけ、腰には短剣をさして、真夜中に町の中をこっそり歩きまわりました。街角で指笛を聞いたので、ケローランも同じように指笛をならしました。すると、そばに一人の男が現れました。男はケローランも同じ仲間だと思って一緒に先へ進みました。通りをこそりこそり指笛を鳴らしながら歩いていると、さらに二人の男が現れました。男たちはケローランをほかの国からやってきた、自分たちと同じ腕利きの泥棒仲間だと思いました。


 さて、指笛を合図にあちこちから集まった泥棒たちは、めいめい自己紹介を始めました。そして、競って自分の得意の技を述べました。
「おれは犬の鳴き声から、どこで何が起こっているかを知ることができる」と、一人が言えば、もう一人は、
「おれは錠前をはずすことが出来るんだ。世界中のどんな錠前だってわしの手にかかっちゃ無いも同じ。一分もしないうちにすぐ開けることが出来る」と言い、次々に、
「いやいや、おれなんか、どんな真っ暗闇のなかでもまるでまっ昼間のようになんでもみえる」
「おれは一度見たものは決して忘れない」と自慢しあいました。泥棒たちのはなしを聞き終わると、ケローランも自分の特技について言いました。
「おいらの自慢はこのひげなんだ。ひとなですりゃ、なんでも思い通りになるんだぜ。もし、おまえさんたちの誰かが捕らえられて縛り首になったとしても、このひげをさっとひとなですりゃ、助けることも出来るってわけだ」


 それから泥棒たちは、次の日の夜、お城へ忍び込んで王様の一番大切にしている宝物を盗むことに決めました。


 次の朝早く、ケローランはお城へ行って王様に泥棒たちの計画を話しました。そして、泥棒たちに宝物が盗まれないようにするにはどうしたらよいか、一人残らず泥棒たちを捕まえるもっとも良い方法は何かを教えました。


 やがて真夜中になると、ケローランは泥棒たちと示しあい、お城の裏門へ行きました。この時、遠くから犬の声が聞こえてきてその声はだんだん大きくなってきました。犬の吠える意味がわかる泥棒はしばらくじっと耳をすましていましたが、やがて仲間に言いました。
「おい、お城じゃ、われわれに入られないようにしっかり警備しているそうだ。犬たちがそう言って吠えているぜ」


 これを聞いたほかの泥棒たちはみんな笑いました。門の前で見張りをしている兵隊たちは、グーグーいびきをかいてだらしなく眠りこけていたからです。
「おまえ、聞き違えたんじゃねえのかい。このありさまを見ろよ。門番だってこんなじゃ、知れたことよ。お城中、みんなおねんねさ」
 ケローランも、
「そうともさ。さあさ、ぐずぐずしないでやっちまおうぜ」と、けしかけました。錠前破りの名人が数秒のうちに門の扉を開けてしまいましたから、泥棒たちはお城の中へやすやすと忍び込み、長い廊下を通ってお城の奥へ入って行きました。あちこちにいる見張り番はみんな居眠りをしているようでした。ところが、本当は眠っているように見せかけているだけで、実は目をさましていたのです。そして、薄めを開けて泥棒たちのすることをしっかり見張っていました。これこそケローランが仕組んだわなでした。


 錠前破りの名人は宝の蔵の錠前も簡単に開けてしまいました。それっとばかりみんなはどやどやと中へ入り、めいめい背負えるだけの宝物を背中の袋に詰め込みました。そして、意気揚揚と出口にむかいました。ところが、ちょうど外へ出ようとしたその時です。蔵の前で待ち構えていた見張りの兵隊たちが、いっせいに泥棒たちに飛びかかりましたから、泥棒たちはまたたく間に取り押さえられ、縄で縛り上げられ、牢屋へぶちこまれてしまいました。


 約束通り一日王様になることが出来たケローランは、すぐに大臣や役人たちを全員呼び出して、王様が眠っているあいだにした悪事をひとつひとつ明らかにしました。そして、命だけは助けてやりましたが、大臣職や役人職から追放し、島流しの刑にしました。新しい大臣や役人には正直で働き者で、てきぱきと仕事をこなす立派な人たちを選びました。


 さて、いよいよ捕まえた泥棒たちの問題になりました。泥棒たちは手や腕を縄で縛られ、どんなお裁きを受けるのかと恐れながら一日王様、ケローランの前に召し出されました。泥棒の一人は、
「仲間のひげ撫で名人がきっと助けてくれるにちがいない」と思って、まわりを見回しましたが、捕らえられた泥棒の中にはひげ撫で名人の姿はありませんでした。ところが、ひげ撫で名人は玉座にすわっていたので、
「やあ、おまえさん。そのひげを撫でてここから俺たちを助けてくれ。王様が見えたら、すぐに俺たちは縛り首だ。頼む」と、懇願しました。ケローランは泥棒たちに、
「約束は約束だ。お前たちを助けてやろう。その代わり、お前たちもおいらに約束をしておくれ。いままでのことはよくよく悔い改めて、これからは二度と泥棒はしないとな。おまえたちの特技はもっと世の中に役に立つことに使うように」と、言いました。泥棒たちは、
「これからは決して泥棒などいたしません。正直に、人々の助けになる良い仕事に精を出します」と、誓いをたてました。ケローランはひげをひと撫でしました。前に役人たちと示し合わせておいたので、すぐ縄ははずされました。


 ケローランの賢い裁きを見ていた王様はすっかりケローランが気に入りました。そこで、王様はケローランをこの国で一番偉い大臣にしました。そして、大事な一人娘、王女様と結婚させました。それからというもの、この国は平和になり居眠りなどをして怠けることなく、力を合わせてよく働いたのでみんな幸せになりました。

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■ほじゃさんから


ケローランとは、ケリ(禿げの)オーラン(息子)という意味で、貧乏な家の一人っ子は末の子の場合が多く、名前の通り風采もあがらないのですが、何かの運命で冒険に出かけると、断然勇気と知恵を発揮して、目的を成就し、幸福な結末を迎えます。トルコ民話の代表的なキャラクターのひとりです。

*ほじゃさんからお話の紹介です。
28話目は『トルコの民話』から「とんまな大男とケローラン」というお話です。


----------■とんまな大男とケローラン(トルコの民話から)■----------


 むかし、あるところにケローランという若者がおりました。ケローランは仕事らしい仕事もせず、食っちゃ寝、食っちゃ寝しておりましたから、母親はいつも困っておりました。とうとうある日のこと、母親は堪忍袋の緒が切れて、
「やい、ケローラン。いい年をして、いつまでも親のすねをかじっているんじゃないよ。さあ、どこへなりとも出てお行き。自分のパン代は自分で稼ぐんだよ、いいね」と、有無を言わせず家から追い出してしまいました。


 ケローランはパン一切れと少しばかりの小麦粉と卵を二、三個入れた袋を背負ってとぼとぼ家を出て行きました。山超え野を越えどんどん歩いて行くと、やがて大きな農場が見えてきました。垣根をくぐって農場へ入ると、農場の真ん中に大きなお屋敷がありました。あたりを見回しましたが人っ子ひとりいません。ドアというドアはどこも開けっ放しで、中へ入ると、居間のテーブルにはご馳走がたくさん並べられ、おいしそうなにおいがプンプンただよっていました。ケローランは飲まず食わず長い間歩いてきたので、我慢できずに思わずどの皿からも一口ずつスプーンですくって食べました。お腹がいっぱいになると、今までの疲れがどっと出てそばにあった椅子の上に倒れこむように眠り込んでしまいました。
それから間もなく、とつぜん雷のような音がして、ケローランは目をさましました。いったい何が起こったというのでしょう。見ると、ケローランのすぐそばにとてつもなく大きな男がにゅうっと立っているではありませんか。驚いたの何の心臓がとまるほどでした。でも、わざと平気なふりをして大男に大きな声で言いました。
「うるさい。いったいなんの騒ぎだ」


 大男もケローランを見て驚きましたが、ケローランをしげしげ眺めて、
「やい、おれの家になにしに来たんだ。俺様がどんなに強力(ごうりき)かわかっておるんだろうな。石だって握りつぶして、あられのようにできるんだぜ」


 ケローランは大男の力の強さに内心どきっとしましたが、できるだけなんでもない顔をして言いました。
「なんだ、それしきのこと。お前はおいらと力比べをしようってんだな。ようし、やってやる。おいらは石を粉みたいにしちまうぞ」


 そんなことができるものかと、大男は、
「なにをぬかす。やれるならやってみろ、ちび助め」と、ケローランを馬鹿にしました。ケローランも負けずに言いました。
「おいらがやる前に、お前がやってみせろ。本当かどうか見てやろうじゃないか」


 大男はすぐ手に石を持つと、ぎゅっと握ってあられのようにばらばらにしてしまいました。ケローランは袋から小麦粉をこっそり一掴み手に持つと、すばやく地面から石を拾ったように見せかけて、ぎゅっと握りました。それから手を広げて小麦粉を大男の顔にぷっと吹きかけました。
「どうだい。ごらんの通りさ」


 さすがの大男もこれには驚きましたが、こんなことで参ってはいられないと、
「なに、これしきのこと。俺様は石をしぼって三度しずくをたらしてみせる」と、言いました。これを聞くと、ケローランは袋からこっそり卵を取り出して自分の番を待ちました。さっそく、大男は石をぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっとしぼって本当に三滴のしずくをたらしました。ケローランの番になって、ケローランは卵をぎゅっとしぼりましたから三滴どころか、とろーり、とろーりと卵の中身がしたたり落ちました。これを見た大男はすっかり感心して、
「なあるほど。お前様にはかなわねえ。こうなったからには、なにもかもお前様の言うとおりにいたしやす。なんでも言いつけてくだせえ」と、降参しました。


 こういうわけで、なんとケローランは大男の農場に居座ることになりました。ところで、大男には弱みがありました。体はとてつもなく大きいのですが、片方の足がもう片方の足より少し短いのでバランスよく歩くことが出来ないのです。これをよいことに、ケローランは大男にわざと用事を言いつけて走り回らせました。毎日ケローランにこきつかわれて、大男はだんだんうんざりしてきました。なんとかこのちび助をやっつけて追い出したいのですが、一人では太刀打ちできません。そこである日のこと、大男はケローランに言いました。
「ここからふた山越えると、おれの二人の兄弟が住んでいる村があるんだが、しばらく会っていないので訪ねたい。お前様も一緒に、どうだね」


 ケローランも大男との暮らしに少しうんざりしていたところだったので、気晴らしにちょっと遠くへ出かけるのも悪くないと思いました。
「よろしい。だが、ちょっと問題がある。おいらはものすごい速さで歩くんだが、おまえさんは足が悪いからおいらに追いつけないにちがいない。一番良いのは、おまえさんの背中においらをのせていくことだと思うんだがね。どうだね」


 まぬけな大男はたやすくケローランの罠にひっかかって、喜んでケローランを背中にのせて出かけることにしました。夜も昼も休みなくどんどん歩いて、ちょうど一週間ほどたつと、ついに大男の兄弟たちの家に着きました。大男はさっそく兄弟たちにケローランがどれほど力持ちかを話しました。おそれをなした兄弟たちはケローランを丁寧にもてなし、一番良い部屋にあんないしました。


 ある日のこと、三人の大男はひたいを寄せ合ってひそひそ相談をしました。
「こんな恐ろしいちび助をいつまでも生かしてはおけねえ。なんとかしてこやつをやっつけちまうか、追い出すことを考えようぜ」


 とうとうある晩のこと、大男たちはケローランを殺すことに決めました。
「今夜こそ、あいつをやっちまおう。ぐらぐら煮えたぎったお湯をやつの部屋の天井からベッドめがけてぶちまけるんだ。そうしたら、やつはたちまちゆでだこになってお陀仏まちがいなしだ」


 ところが、大男たちのひそひそ話をケローランはこっそり盗み聞きしていました。夜になると、ふとんの下に枕をしのばせて自分は部屋の隅にかくれてじっとしていました。真夜中、三人の大男たちはめいめいぐらぐら煮えたぎったお湯を大なべに入れて運んでくると、ケローランの部屋の天井からケローランのベッドめがけて思い切りぶっかけました。
「やれやれ、これで安心だわい。もうあんなやつに悩まされることはない」


 大男たちはほっとして引き上げて行きました。


 次の朝、大男たちはケローランの茹で上がった姿を見に、ケローランの部屋へやってきました。きっと死んだにちがいないと思いながらドアを開けようとしたその時、中からケローランの声が聞こえてきました。
「ドアの前でなにをごちゃごちゃ騒いでいるんだね」


 大男たちの驚いたのなんの、それでも勇気を出しておそるおそるドアを開けると、
「ゆんべは良くお休みになれましたですかいの?」と、聞きました。すると、ケローランは朗らかに言いました。
「ああ、ぐっすり休んだとも。だが、夕べはいつもより暑かったみたいで汗をかいちまった。ベッド中びしょびしょだよ」


 これを聞いた大男たちはお互いに顔を見合わせて、開いた口がふさがりませんでした。
「なんというやつだ。煮えたぎった湯を汗だとぬかしやがる。これじゃ、とうていわしらのたちうち出来る相手じゃないわい」

 ある朝のこと、大男たちのところへ王様から使いの者がやてきました。
「わが国に恐ろしい竜王がやってきて、流れの大元に座り込んで水をせきとめてしまった。
やつは、“毎朝、娘を一人いけにえとして捧げなければ、おまえらには一口の水も与えるわけにはいかぬ”と言っておる。なんとかおまえたちの強力(ごうりき)で我々を助けてはくれまいか」


 大男たちは自分たちの力に自信をなくしていたので、
「よろしいと言いたいところだが、我々だけではどうも心細い。ちびの大将にお伺いをたてて、大将がうんと言ったら行ってやってもいいんだが、、、」と、返事をしました。そして、使いの者をケローランのところへ連れていきました。使いの者は自分と同じ人間が大男たちの大将だと知って驚きましたが、すぐ用件を話しました。これを聞くと、ケローランは心の中で、
「しめた。大男たちから逃れるチャンスがやってきた」と、喜びました。そこで、使いの者に、
「承知しました。かならずその恐ろしい竜王を打ち負かしてみせましょう。さっそく、大男たちと一緒にでかけます」と、誓いました。


 そこですぐ旅の支度をして、いつものようにケローランは大男の背中に乗ってゆうゆうと出かけて行きました。山越え野越え川越えて長い間歩いたすえに、やっと王様の国へ着きました。ケローランは毎日のように町へ攻めてきてはだれかれかまわず殺して行く恐ろしい竜王がいったいどこから来てどこへ行くのかをまず詳しく調べ、要所要所に一人ずつ大男を見張りに立たせました。そして、自分は竜王に出くわして危険なめに会わないようにこっそり町を抜け出しました。どんどん逃げて行くと、濃い緑の牧草地が目にとまりました。
「やれやれ、これで大男からも逃れることが出来た。ちょっとあそこで一休みしよう」


 ケローランは緑の草地に腰をおろし、持ってきたパンを取り出して食べ始めました。ところが、しばらくするとどうしたことか草地と思って座っていたところがかすかに動いたような気がしました。驚いてあたりをみまわすと、なんと、牧草地だと思って座っていたところは恐ろしい竜王の背中だったじゃありませんか。目をさました竜の耳を見てケローランはあわてて地面に落とされないようにその耳にしがみつきました。なにが起こったのかわからない竜は耳をふりふりまっすぐ町へ走り出しました。ケローランが竜の背中に乗っているのを見た大男たちは、
「やあ、やあ。みろよ、我らが大将様が竜王をとっつかまえてしょっ引いて来るぞ」と、大喜びで手に持っていた大刀で一打ちばっさり竜の頭を切り落としてしまいました。


 大男たちの一行が町へ来て幾日もしないうちに、竜王をやっつけてしまったという知らせはまたたくまに町中に広まりました。特に長い間人々を苦しめていた竜をケローランという若者が退治したということで、その英雄の姿を一目でも見たいと通りは町中の人々であふれかえりました。王様はケローランを褒め称え、振り分け袋につめきれないほどの金貨をくださいました。


 ケローランはこのへんで母親の待っている家へ帰りたいと思いました。そこで、このことを大男たちに伝えると、大男たちはみんな大喜びでした。王様の国を出て、途中で、まぬけな大男は兄弟たちと別れ金貨の入った振り分け袋とケローランを背中に乗せてケローランのふるさとへ急ぎました。


 やがて家に着くと、ケローランはドアのところへ走って行ってドアをたたきました。すると、母親は長いあいだ便りもなく、案じていたケローランが突然元気な姿で戻ってきたので大喜びでした。ところが、ケローランの後ろに立っているとてつもなくでかい大男を見ると、恐ろしさのあまり気を失って倒れてしまいました。ケローランはあわてて母親を正気にかえらせて、大男といっしょに家の中へ入りました。


 ところで、ケローランが留守をしている間に、ケローランの家には男の赤ん坊が生まれていました。赤ん坊はゆりかごに寝かされていましたが、大男がぶふぁー、ぶふぁーとあまりに大きく息を吸ったり吐いたりするものですから、その勢いであかん坊はゆりかごから空中に舞い上がって天井へ飛んでいきました。大男はあれよあれよと赤ん坊をみていましたが、
「この赤ん坊はいったいなにをしているんだね」と、ケローランに聞きました。ケローランが真面目な顔をして、
「じい様から受け継いだ剣(つるぎ)をもってきて、おまえさんの首をちょんぎろうとしているのさ」と言うやいなや、大男はその場から飛び上がると矢のような速さでかけだし、後ろも見ずに逃げて行ってしまいました。
 
 こうして、ばか力はあってもまぬけな大男はケローランにころっと騙されて、ケローランとその家族は恐ろしい大男から逃れることができたのでした。それからというもの、みんなはケローランが王様からもらったたくさんの金貨でなに不自由なく楽しく幸せにくらしたということです。

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■ほじゃさんから


つくばで、「ふっくらお話勉強会」と近く、「牧園文庫 歴史雑談会」も発足する予定です。
その節はこのブログにて別途ご案内いたします。

*ほじゃさんが常陽新聞に掲載しているトルコ民話紀行をこちらのブログでも紹介して行きます。


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はじめに


 トルコに、ナスレッディン・ホジャと言う名前の愉快な人物が活躍する笑い話が語り伝えられている。私と妻は今から三十年ほど前にこのホジャ話と出会い、その魅力に惹かれて、それ以来ずっとトルコの民話と向き合ってきた。ホジャ話について夫婦で毎日語り合っているうちに、「現代のトルコ人の間で、ホジャ話はどのように語り継がれているのだろう」という興味がつのり、二人でトルコ語の学習を始め、次いで、妻はアンカラ大学の外国人向けトルコ語講座に三年連続して参加し、三年目の秋にはアンカラ大学の修士課程に入学してトルコ民族学を専攻し、ホジャ話に関するフィールド・ワークと取り組んだ。その間、彼女はトルコのさまざまな町や村を訪ね、一千人以上の人々とホジャ話について話し合い、ホジャが今でもトルコ人の心の中に生きていることを実感して帰国した。


 その後、私達はトルコの民話を紹介するための季刊誌『ふっくら』を十五年間に五十九号まで発行したが、残念なことに妻が五年半ほど前に心臓病の発作で急逝してしまった。しばらく私も失意のどん底をさまよったが、やっぱりホジャ話の深い含蓄と大らかなユーモア精神が忘れられず、妻の語りの活動の仲間のみなさんにも支えられて、また、ホジャ話に向き合うようになった。そして、今年の二月に『ふっくら』挿絵原画展を開催したところ、思いがけず多数の来場者があった。挿絵も、絵が上手だった妻が描いたもので、フィールド・ワーク中に訪ねた町や村の風景と人々の暮らしぶりが生き生きと描き出されている。その絵を紹介しつつ、ホジャ話やトルコの歴史と文化、イスラーム社会のことなどを少しずつ紹介してみたい。どんなピンチにもへこたれず、ロバに乗って悠々と人生を闊歩するホジャの心を少しでも伝えることが出来れば幸い。題して『トルコ民話紀行』。
(児島和男: 翻訳家・トルコ民話研究者、つくば市在住)



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シビリヒサールの入口にあるホジャの像