*ほじゃさんからお話の紹介です。
25話目は『ロシアの民話』から「霜の大王と雪娘」というお話です。


----------■霜の大王と雪娘(ロシアの民話から)■----------


 ずっと昔、ロシアの北の方に、材木商人の夫婦が住んでおりました。長い間待って最初に生まれたこどもは女の子でした。とてもかわいらしい赤ちゃんだったので、近所の人たちもお祭り騒ぎの大喜び。洗礼の式が終わったら、家のドアを広く開けておいて、蜂蜜入りの麦酒を大きなコップにいっぱい満たして用意しておきなさい、と母親に言いました。なぜなら、そんなかわいい赤ちゃんには、かならず妖精の女王がやってきて、赤ちゃんを祝福してくれるにちがいないと、人々は信じていたからです。そして、人々のいったとおりのことが起こりました。きれいな青と銀色の上着を身にまとい、右手には真珠で飾った杖を持った妖精の女王がやってきて、蜂蜜入りの麦酒をすすり、女の子の眠っているゆりかごに微笑みかけ、その真珠の杖をきっかり七回振って、それから家から出て行きました。隣人達はお互いに言い合いました。
「この子は本当に幸せな子だね。それに肌の白さといったら、まるで雪娘のようだね」


 それから何年か経って、その材木商人の夫婦にもうひとりの女の子が生まれました。このときも、家の扉は広く開かれ、蜂蜜入りの麦酒で満たされた銀のコップが用意され、母親は朝から待って、待って、待ち続けましたが、誰もやってきませんでした。夕食の後、夫は仕事で出かけなければならなかったので、母親は一人で家におりましたが、やがて、もう扉は閉めてしまった方が良いのではないかと思い始めたちょうどその時、ひとりの少女が入ってくるのが目にとまりました。少女は裸足で汚れており、髪の毛もぼさぼさで、物乞いのような身なりでした。
「おまえは一体何がほしいんだね」と、母親はとげとげしい声で言いました。
「奥様、あなたの赤ちゃんをみせてくれませんか?」
「私の赤ちゃんを見せてほしいだって?おことわりだね。出てお行き! あんたは怠け女だねえ。自分の力でパンにありついたらいいじゃないか」と、母親は大声で叫びました。
「赤ちゃんを見せていただけないなら、その蜂蜜入りの麦酒をすこしだけ飲ませていただけませんか。ずっと遠くからやってきたので、とても喉が渇いているのです」
「麦酒の飲ませてくれだって? なんてずうずうしいことをお言いだね。私がつくった一番上等の麦酒を、ボロをまとった物乞いに飲ませてあげるととでも思うのかい? この麦酒は妖精の女王様のためのものなのさ。今すぐにでもやって来るかもしれないじゃないか」と、母親は言いました。
「一口でも二口でもいいのです。どんなに私の喉が渇いているか知っていただけたら・・・」
「おまえさんの喉が渇いていたって、それがどうしたっていうんだね。おまえさんは、馬鹿な女の子だね。村の井戸にはたっぷり水があるんだから、そこでたっぷりのんだらいいのさ。さっさと出ておいき!」 母親はひどく腹を立てていだので、少女が立ち去るやいなや、扉のところに走っていって、それをバタンと閉じてしまいました。
「あらまあ、なんとしたことをしてしまったんでしょう。妖精の女王がやってきて、家の扉が閉じられているのをみたらどうしよう?」と彼女はつぶやいて、かんぬきを引き抜き、錠前も外して、扉を閉じる棒もひっぱりましたが、なかなか扉を開けることができませんでした。でもやっとの思いで扉を開けて、通りの方を見てみましたが、妖精の女王がやってくる気配はないので、とうとう家の中にひっこんでしまいました。


 次の日も、またその次の日も彼女は待ち続けましたが、二番目の娘を真珠の杖で祝福してくれる妖精の女王は姿を見せず、彼女はひどく落胆してしまいましたが、やがて、その落胆は深い悲しみに代わりました。なぜかというと、二番目の娘は大きくなるにつれて顔が浅黒くなり、せなかがせむしのように曲がってしまったからです。近所の人々はその子のことを煤(すす)娘と呼ぶようになりました。彼女あまりに浅黒くて醜い顔をしており、彼女の振る舞いは家族のものも含めて誰に対してでも不機嫌で、不愉快だったのです。


 やがて時間が経つうちに、母親は雪娘のひどく嫌うようになり、年下の娘ばかり甘やかすようになったので、とうとう、最後には誰もがみな、娘の我慢できないほどになりました。肉を焼かせると黒こげにし、家中に水を撒き散らし、流しの食器は壊すわ、針は失くすわ、なにをやらせても、ひどいありさまです。
それでも母親は、猫なで声で言うのです。
「おまえは天使のような娘だよ。可愛いすす娘や。お前は良い子じゃないのかい? 賢くないのかい?」


 一方、あわれな雪娘の方は、なにをやっても母親から小言を言われます。とても美味しいパンを焼いても、「イーストが足りないよ」と怒られるし、床をピカピカに磨いても「なんで私が豚小屋みたいなところで暮らさなければならないのさ」と怒鳴られます。顔拭きや手拭のタオルにも見事な刺繍をするので、近所の人たちはみな彼女の針仕事の腕前をほめそやしましたが、母親ときたら「あんなのは台所のぞうきんに使うのがやっとじゃないか」と言い放つしまつです。


 こんな状態が続いても、材木商人の夫は何も言いませんでした。彼は気の優しい男だったので、妻が塩は甘いと言っても、うなずくぐらいだったのです。そのうちに事態はもっとひどくなり、雪娘の暮らしはみじめな奴隷女のようになってしまいました。そしてすす娘は、姉のことをまるで雇われ人みたいにあつかい始めました。そしてすす娘はある日、母親にいいました。
「あのひとは台所で食事をさせたらいいんだわ。それに、おかあさんはなんであんなひとに革の靴を買ってあげるの? ぼろ布でつくったスリッパで十分じゃないの」
「おまえはなんて賢いんでしょう。たしかにその通りだ。あの子は台所で働く女達と飲み食いすればいいんだねえ」と、母親は答えました。


 でも、何が起きても、雪娘の優しい性格は変わりませんでした。どんなにひどいことをされても、言われても、彼女はなにひとつぐちをこぼしません。毎日汗みずくで働いても、与えられる食事はちょっぴり。スカートがぼろぼろになり、スリッパもかかとのあたりまで擦り切れてしまい、日々の暮らしに楽しみはひとつもありませんでしたが、それでも雪娘はあいかわらず、嫌な顔をされても微笑をかえし、ひどい小言にも優しい言葉で答えました。
「あの子は偽善者なのよ」と、妻は夫に言いました。
「もううんざりだわ。あの子にはこの家にいてもらいたくないわね。あんな姉がうろうろしていては、私のかわいいすす娘に良い夫なんか現れっこないわよ。あなたの部下に命じて橇を用意させて、彼女を北の方の遠いところに連れていってしまいなさいよ。そして、どこかの野原に放り出しておけば、霜の大王がいいようにしてくれるわよ。あの子がいなくなったら、私はすぐ可愛いすす娘のためのお婿さん探しをはじめなくちゃ」


 商人は臆病だったので、彼女に言い返すこともできず、ためらっていると、女は急き立てるように言いました。
「あの子の身の上には何もおこりゃしないよ。妖精の女王はすす娘には微笑みかけてくれなかったけど、あの子は妖精の女王に護られているんだからさ。どこかの妖精の国にあの子を連れていってくれるわよ」


 女はもう妖精の女王への信頼をずっと前に失っていたのですが、夫をせかすためにそんなことを言ったのです。それで男は、とうとう「わかったよ。おまえの言うとおりにするよ」と妻に言いました。


 そして男は部下に命じて橇を用意させ、雪娘を呼び出し、橇に乗せると、か一番暖かい上着とショールを着せてやりました。
「橇すべりに行くの、おおうさん」と、雪娘は微笑みながらたずねました。商人は何と答えていいか分からなかったので、顔をそむけて、思い切ったように中庭から外に走りだしました。


 一方、母親とすす娘は台所の炉のそばに座って、木の実と生姜いりのお菓子を食べていました。
「妖精の女王がきて、あのひとを助けるなんて、私は信じないわ。多分、霜の大王が彼女を殺してしまうのよ。そうしたら、もう私たちは二度とあのひとのことは考えなくてもすむわね」と、すす娘はあざけるように言いました。「そうしたら、おかあさん。私に赤い絹のドレスと、トルコ石の耳飾を買ってね。ずっと前からほしかったのよ」
「おまえのほしいものは何でも買ってあげるよ。可愛い娘や」と、母親は彼女に言い、父親が戻ってくるまで、木の実とお菓子を食べ続けていました。


 父親が戻ってくると、女は家の外に走り出て、彼を迎えました。
「うまくいったの?」と彼女はたずねました。
「あの子を残してきたよ。おお、神様、お許しください」
「馬鹿なことをお言いでないよ。明日またその野原に行ってみればいいじゃないか。あの子は見つかりっこないよ。きっと、妖精の国に向かってるにちがいないさ」


 でも、商人はなにも答えませんでした。


 一方、野原にひとりで置き去りにされた雪娘は、広い雪の野原のなかで、雪の吹きだまりに身をもたせかけて、立っていました。驚きと悲しみで身を震わせながら、もうじき、立ってもいられなくなるかもしれないと考えていました。するとその時、霜の大王の目に彼女の姿がとまりました。頭にはキラキラ光る氷の王冠をかむり、肩に氷のマントをかけた大王は彼女の方にちかづいてきて、吹き溜まりの前にいる彼女の前で立ち止まりました。
「わしが誰かは、知っているだろうね、娘さんや。私になにか言うことがあるかね?」と、霜の大王が言いました。
「おはようございますというほかに、何も言葉はございません。霜の大王様」と雪娘は身を震わせながら答えました。「この世のすべてもものと魂は神様のみこころの下にあります。神様が私をこの世から連れ去るために、あなたの寄こしたに違いありません。ですから、私は朝の挨拶をするほかありません。おはようございます。霜の大王様。そして、お気のすむようになさってください」


 年をとった霜の大王は、もちろん、雪娘を殺すつもりでした。でも、雪娘の言葉が彼を大変なごませ、そして感動させたので、今はためらいを感じました。そして、彼は大きな白いあごひげを引っ張り、雪のような肩をすくめると、森の中に戻っていきました。


 しばらくすると、霜の大王はまた戻ってきましたが、今度は、腕に黒いテンの毛皮でできた上着をかかえていました。
「ふむ。今度はわしになんというのかね、娘さんや」
「こんどもお気にめすように、としかいえませんわ。霜の大王様」
「おまえは、寒くはないのかね?」
「もちろん、寒いです、大王様、でも、今は季節が冬ですし、あなたはその支配者まのですから、寒さと喧嘩してもしかたがありませんわ。神様は、私たちすべての者のために季節を定めてくださっているのです。ええ、まったく、本当に寒くてたまりません。でもそれはどうしようもないことですから、それを悲しんでもしかたありません」
「ここにおまえを暖かくしてくれるものがある」と、霜の大王はぶっきらぼうな口調で言いました。そして、その見事な黒テンの上着を彼女の肩にかけてやりました。彼女は大王に感謝の言葉をいいましたが、その様子がとても可愛かったので、彼の体が雪と氷のかわりに血と肉でできていたら、彼の体は解けてしまっていたかもしれません。
「おまえにはよくにあう。そんな上着をこれまで着たことはなかったのかね」と彼はつぶやきました。
「そんなことは無理ですわ。黒テンの毛皮なんてあまりに高すぎます」
「おなえは貧乏なのかね?」
「わたしにはぐちをこぼすことなんて、ひとつもありません。霜の大王様。塩があれば、野菜スープにいれますが、塩がなければそれでもいいのです。私はいつでも満ち足りています」
「わかった」と霜の大王はうなずいて、荒々しい足音を響かせながら立ち去りました。今度は、何かが彼を当惑させたのに違いありません。というのは、彼がまだ森にたどりつくより前に風が強くなり、雪嵐が野原全体に襲い掛かってきました。でも、雪娘には霜の大王がくれた暖かい毛皮がありましたから、まったく平気でした。


 しかし、霜の大王はまたやってくると、雪嵐やすぐおさまりました。
「雪嵐についてはあやまる」と、霜の大王はあいかわらずぶっきらぼうな口調で言いました。「でも、おまえの言ったことがわしを怒らせたのだ。おなえのような娘は何も不自由してはいかんのだ。夕食に塩だけなんてことがあってはならん」
「でも、私はそれについても何も不平はいいませんでした。大王様。それにあの雪嵐だって気にかけませんでしたわ。きれいな毛皮が私を気持ちよい暖かさで包んでくれました」
「おまえは分別のあるおんなのこじゃな」と霜の大王は言って、彼の右手を上げたり下げたりしました。すると、たちまち頭からつま先までキラキラ光る雪の衣を身に着けた何人かの小人が、野原の向こうからやってきました。
「王様」と、彼らは口をそろえて言い、うやうやしくお辞儀をしましたので、雪がひらひらとあたりに舞い散りました。
「大きなモミの木の下のわしの倉から、一番大きな赤いトランクをもってまいれ」と、霜の大王は小人達に命じました。
「さあ、さっそく仕事にかかるのじゃ」


 小人たちが大きな赤いトランクを担いで戻ってくると、大王はそれを指差して言いました。
「これはおまえの結婚のための持参金じゃ」
「おお、霜の大王様。なんとお心のひろいかたでしょう。でも私にはそんなものを受け取る資格はありません」
「しかし、おまえはもう豊かになったのじゃ。トランクの中には金の塊と、ビロードのドレスが七着はいっておる。さあ、わしはもう行かなきゃならん。おまえは善い娘だから、今後はなにもかもうまくいくことをわしは承知しておるぞ」


 そこで、雪娘はその大きなトランクの上によじ登り、毛皮の上着を肩に引き寄せて、次に起きることをまっていました。やがて、身体があたたまってきて、雪娘がふと野原の向こうに目をやると、ひとりもみすぼらしい身なりの女の子が野原を横切って近づいてくるのが見えました。
「おお、かわいそうに。なんて、寒そうな様子をしているの。こちらにいらっしゃい。私の毛皮の上着であなたも温めてあげるわ」と、雪娘は大声で叫びました。みすぼらしい身なりの女の子はどんどん近づいてきてきました。
「私と一緒に家に帰らない?私のお父さんがいつ連れ戻しにきてくれるかわからないわ。何故って、なんで私をここに置き去りにしたのか、その理由がわからないんだもの。でも、あなたには温かい夕食が必要でしょう?」と、雪娘はおずおずと言いました。
「そのとおりよ。それに喉も渇いているわ。でもあなたのお母さんは私をすぐ追い出してしまったから、わたしは戻ろうとはしなかったの」と、みすぼらしい身なりの女の子が言いました。
「まっすぐ台所に連れて行ってあげるわ。そして温かいスープもね!」と、雪娘は約束しました。


 家では、やや親がまた夫をなじり始めました。
「まったく、おまえさんときたら役立たずね。あの子はもう長い間外なんだよ。あの馬鹿の妖精があの子をどこかに隠していたんだよ、きっと。さもなければ、霜の大王があの子を殺してしまったんだ。橇にのって、あの子を探しておいでよ。葬式の準備をしておいたほうがいいんじゃないかね」


 そして夫が出かけてしまうと、彼女はパンケーキと蜂蜜入りの麦酒をお葬式のための準備し始めました。なぜかといえば、妖精の女王が雪娘をどこかに隠すなんて、ちっとも信じていなかったからです。


 とその時、突然、テーブルの下から一匹の小さな犬が飛び出してきて、
「ワン、ワン、ワン。七着のビロードのドレスと銀の皿、そして金のスプーンをもって戻ってきます。そして、もう一人のわかいご夫人には決して、決してお婿さんはみつかりません。ワン、ワン、ワン」


 母親が犬を蹴ると、犬は部屋から飛び出してゆき、中庭中を駆け回りながら、吠え続けました。


 しばらくして、パンケーキができあがり、蜂蜜入りの麦酒がコップに注がれました。 その時、門が開かれる音が聞こえました。母親とすす娘が外に走り出てみると、信じられないようなことが起きていました。大きな赤いとランクがあり、上王様のように光り輝く雪娘が見事な黒テンのコートを身にまとって立っており、彼女の髪毛はダイアモンドで飾られていました。その後ろにみすぼらしい身なりの女の子が立っていました。その子は前にこの家に来たあの女の子なのです。でも、もちろん、母親にはそれが分かりませんでした。そして、その物乞いのような女の子には一瞥もくれませんでした。
「雪娘」と、母親はあえぐように言いました。でも雪娘は別のことを考えていました。彼女は部屋に入っていくと、温かい麦酒のコップをつまり、それをみすぼらしい身なりの女の子に与えました。
「さあ、これであなたも温かくなるわ」と、彼女は叫びました。


 みすぼらしい身なりの女の子はコップから麦酒を飲みました。飲んでいるうちに、身にまとっていたぼろぼろの着物が方からすべり落ちて、可愛らしい銀のマントが頭から足の先まで、彼女の身体をつつみました。そして、彼女は真珠とダイアモンドで飾られた杖を右手に持って立ち、母親にいいました。
「あなたは私たちのことをちっとも信じていない。私はあなたの二番目のあかちゃんにも微笑をかけるためにここに来たのです。でも、あなたは私が中に入るのを拒絶しました」
「だって、妖精の女王様がみすぼらしい身なりで現れるなんて、知らなかったのです」と母親は叫びました。
「あなたは麦酒を拒んだり、腹立ちまぎれで家の扉をピシャリと閉めたり、私に向かって腹立ちまぎれに叫んだりするべきではなかったのです」。妖精の女王はこう言うと、大きなコップから麦酒の飲み干し、雪娘の頬に口付けをして、そして、姿が消えてしまいました。
「おかあさん。あの人は私を祝福してくれるはずの妖精だったのに、またしても彼女をおこらせてしまったんだわ」と悲しげに言いました。
「気にすることはないよ」と、母親は大声で言いました。「あんな人たちとなんのかかわりがあるものかね。真珠の杖だって何だって、たちまち消えてなくなっちまったじゃないか。それにおまえのお姉さんの着ている黒テンのコートや七着のビロードや、ほかのあれこれをよく見てごらん。妖精の女神がおまえにくれるはずだったものより、ずっと立派じゃないか。でも、雪娘。一体なにが起きたのか、私にはなしてごらん。王子様にでも出会ったのかい?それとも、宝物でも見つけたのかい。それにおまえは、愚かな母親が何を言っても許すといったじゃないか」
「たしかに、許せないことなんてなにもありませんわ、お母様」と雪娘は答えました。「私がこの結婚持参金を持つように望んだのは、霜の大王様なのです」


 母親は夫に向かって叫びました。
「まだ馬から、馬具は外してないだろうね。さあ、すす娘。おまえの毛皮の長靴をおはき。それからできるだけたくさんのショールもだよ。分かったかい。
彼女を同じ場所に置いて来るんだよ。聞こえてるかい。私の可愛い娘がたちまち霜の大王を虜にしてしまうにちがいないよ。それにおまえさん。気をつけて戻って来るんだよ、大きなトランクをひっくりさないように気をおつけよ」


 そこで、商人は若い方の娘を同じ野原に行きました。道々、彼女はひっきりなしに父親に話しかけました。
「霧の大王を虜にしろだって?彼は陰気なおいぼれ男じゃないの。彼と気の利いた話をしたってなんの意味もないわ。お父さん、見た? 雪娘の宝石は全部真珠とダイアモンドだったわよ。じゃあ、私はルビーとサファイアをくれと大王に言うわ。私は色のついたものが好きなの。お姉さんがもらったような白いビロードのドレスなんて、死んでも着たくないわ。私はエメラルドの刺繍をちりばめた金色のドレスがいいな」


 材木商人は黙って聞いているばかりで、何も言いませんでした。彼はすす娘を同じ場所に置いて、広い野原のはしまで走り戻りました。ショールと羊の毛皮の服を身に着けたすす娘がいらいらしながら待っていると、やがて、霜の大王が姿を現しました。
「ふむ。娘さん、何か私に言うことがあるかね?」


 彼はぶっきらぼうな口調で尋ねました。
「何か言えですって?」とすす娘は言い返しました。「わたしを空戻りさせるつもりなの?私にもおおきな赤いトランクをもってきてちょうだい。それに、ドレスはぜんぶ金色のビロードよ」
「そうかね」と、霜の大王は彼の長いあごひげよりもっとずっとこおりのように冷たい声で言いました。「他にほしいものは?」
「ルビーのネックレスと、・・・あれあれ、そんなに私に近づかないでよ。気持ち悪い老いぼれね。寒くてたまらないわ。それに、黒テンのコートもお願いね」
「おまえはもうすっかり冷えただろう?」と霜の大王はとどろくような声で言いました。
「しかし、おまえはもっともっと冷たくなるぞ」と言うと、彼は氷の手を上げて、すす娘の口を塞ぎました。彼女は叫び声を挙げようとしましたが、声をだすことができず、やがて雪の上に倒れこむのを、霜の大王は冷ややかに見つめていました。それから彼は右手をあげ、次に左手をあげると、すざまじい雪嵐が襲ってきて、そのまま娘の体は雪にうずもれ、誰にも分からなくなってしまいました。そして、次の年の春が巡ってくるころには、彼女のことはもうすっかり忘れ去られていました。そして、雪娘はと言えば、世界でもっともハンサムな王子様と結婚して、幸せにくらしました。


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■ほじゃさんから


 このロシア民話は原稿の段階で、ロシアの民話が大好きな語り手さんにお渡ししました。
彼女が語りこむと、テキストはもっと変わるかもしれません。

その語り手さんは、同じ話の他のテキストもあるが、私のテキストの方が語りやすいと言ってくれてます。


*ほじゃさんからお話の紹介です。
24話目は『トルコの民話』から「大きな国の王女をお嫁にもらった小さな国の王子様」というお話です。


--■大きな国の王女をお嫁にもらった小さな国の王子様(トルコの民話から)■---


昔々、ある小さな国に、ひとりの王様がいました。王様にはひとりの王子がありました。王子は毎日偉い先生からいろいろなことを学んでいました。


 ある日のこと、学び舎から帰る途中、王子は肩に水がめを載せて歩いてくる女にいたずらをして水がめを壊してしまいました。その時、女は何も言いませんでした。ところが、次の日、王子はまた、同じいたずらをして水がめを割ってしまいました。すると、女は怒って言いました。
「なんてことをするのさ。そんなに力がありあまっているなら、大きな国の王女様をお前さんがもらいに行ったらどうなの。王様であるあんたのお父様は、大きな国の王女様をお前さんのお嫁にもらうために、もう二年も戦争をしているんだよ」


 王子はこの言葉を聞くと驚いて、母親のところへ走って行きました。そして、そのことが本当かどうか聞きました。すると、
「そうですよ、お前」とお妃は悲しい顔をして言いましたので、王子は、
「そんなら、僕が行って娘をもらってきましょう」と旅支度を始めました。


 王子は振分け袋の両方の袋に金貨を一杯つめて、弓矢と刀を携え白馬にまたがって出発しました。どんどん歩いていくと、やがて、右は険しい岩山、左は切り立つ崖という狭い一本道にやってきました。すると、いきなり、目の前に大きな蛇が現われました。王子は逃げるに逃げられずすばやく弓に矢をつがえ、大蛇を殺してしまいました。すると、驚いたことに、大蛇のお腹の中から、一人の娘が出てきました。
「ありがとうございます。あなたは私の命の恩人です。こうなったからには、私はあなたのもの、あなたは私のものですわ」と娘が言いました。しかし、王子は、
「いいえ、礼を言うにはおよびません。僕にはしなければならない大事なことがあります。あなたはどこへでも好きな所へ行ってください」と言いました。
「それなら、私を父のところへ連れていってくださいませんか。父からあなたに御礼をしてもらいます」
「僕はある国の王子です。お金や宝石などは要りません。もし、なにか記念になるものがあれば、喜んで頂きましょう。とにかく、あなたをお父上のところまでお送りします」
「それでは、父は魔法のクルミを持っておりますので、あなたにそれをさしあげますわ」 


 王子は、助けた娘を馬の後ろに乗せて娘の国へといそぎました。実はこの娘は妖精の国の王様の娘でした。王様は娘の無事を知ってどんなに喜んだことでしょう。王子のために子ひつじをほふり、食べきれないほどの御馳走をふるまい、泊まっていくようにと言いました。そして、別れる時になって、
「願いごとを遠慮なく申し述べるように」と言いましたので、王子は、
「末長く元気でお暮らしになられますように」と答えました。すると、王様は
「わしが元気であろうとなかろうと、そなたになんの得があろう。もっと、他のことを願いなさい」と言いました。
「それでは、あなたのふところにあるクルミをいただきとうございます」
「なんの、こんなクルミをご所望とな。欲のないお方じゃ。もっと高価なものを望んだらどうかね」
「ありがとうございます。私はそれで十分でございます」


 そこで、王様は王子にクルミをあげることにしました。王子がお礼を言ってでかけようとすると、娘が言いました。
「このクルミの使い方をお教えしましょう。お腹がすいたら、いつでも、どこでも『開け、クルミよ、開け。おいしい食事をだしておくれ』と言ってごらんなさい。たちどころに、このクルミの中からテ-ブルの上に食べきれないほどの御馳走が出てきます。そして、食べ終ったら『閉じよ、クルミよ、閉じよ。殻つきクルミにおなり』と言って、あなたのかくしにしまってください」


 さて、王子は妖精の国の人達に別れを告げると、また旅を続けました。どんどん先へ進んでいくうちに、大変お腹がすいてきましたので、王子は馬から降りて道端の木陰に腰をおろし、
「開け、クルミよ、開け。おいしい食事を出しておくれ」と言ってみました。すると娘の言ったとおりテ-ブルが出て、たくさんのおいしい御馳走がその上に並びました。ところが、王子がテ-ブルの中央に座り、食事を始めようとすると、突然デルヴィッシュ(イスラム神秘主義の修道僧)が現われました。二人は挨拶をかわし一緒に食事を始めました。食べたり飲んだりしてお腹が一杯になると、王子は、
「閉じよ、クルミよ、閉じよ。殻つきクルミにおなり」と言ってクルミをかくしにしまいました。これを見ていたデルヴィッシュはこのクルミが欲しくなって言いました。
「そのクルミをわしにくれないかね。その代りに、わしの魔法の杖をあげよう。この杖は、欲しいものを何でもどこからでも、すぐ持ってきてくれる」
「それなら、試しに、僕が家に忘れてきたハンカチをとってくるように言ってください」と王子が言うと、デルヴィッシュは杖に命じました。
「さあ、杖よ。このひとの家からハンカチを持ってきなさい」


 杖は風のようにとんで、あっというまに王子のハンカチをもってきました。王子はデルヴィッシュにクルミをあげ、杖をもらいました。
 デルヴィッシュと別れて、さらに、どんどん進んで行くと昼時になって、王子はまたお腹がすいてきましたので、
「さあ、杖よ。行ってさっきのクルミを取り返して来い」と杖に命じました。杖は風のように飛んで、すぐクルミを持ってきました。王子が、また、
「開け、クルミよ、開け。おいしい食事を出しておくれ」と言って御馳走を食べようとすると、もう一人のデルヴィッシュがやって来て、一緒に食事をすることになりました。食事が終って王子が、
「閉じよ、クルミよ、閉じよ。殻つきクルミにおなり」と言ってかくしにしまうとそれを見ていたデルヴィッシュが言いました。
「そのクルミをわしにくれないかね。その代りに、かぼちゃをあげよう。このかぼちゃの口を開けて、『アラプ!』と叫ぶと、中からアラプ(魔法を使う巨人の黒人)が出てきて兵隊を出してくれる」


 これを聞くと王子は「本当かどうか試してみてください」と言いました。デルヴィッシュはすぐに、かぼちゃの口を開けて「アラプ」と叫ぶと、「御主人様、何の御用で」と言いながら、雲をつくような大きな黒人が目の前に現われました。
「さあ、一個師団の軍団を出しておくれ」とデルヴィッシュが命じると、たちまち将軍、大佐とともに一個師団の軍隊が目の前に現れました。驚いている王子にデルヴィッシュは
「どうかね」と言いました。王子は、かぼちゃとクルミを取り替えることにしました。デルヴィッシュがアラプに兵隊を元にもどすように命じると、アラプはあっというまに、かぼちゃの中に兵隊をしまい自分も消えてしまいました。


 クルミとかぼちゃを取り替えた王子は、また、どんどん先へ進んで行きました。やがて、夕方になって王子は、また、お腹がすいてきました。そこで、
「さあ、杖よ。行ってさっきのクルミを取り返して来い」と命じました。杖は風のように飛んですぐクルミを持ってきました。王子はまた、
「開け、クルミよ、開け。おいしい食事を出しておくれ」と言って食べようとするとまた別のデルヴィッシュがやって来て、一緒に食事をすることになりました。食事が終って王子が、
「閉じよ、クルミよ、閉じよ。殻つきクルミにおなり」と言ってクルミをかくしにしまうと、デルヴィッシュは、
「そのクルミをわしにくれないかね。その代りに、このとんがり帽子をあげよう。これを被ると姿が見えなくなる」と言って、その帽子を被ってみせました。するとあっというまに、デルヴィッシュの姿は見えなくなってしまったので、王子はこの帽子とクルミを取り替えました。


 次の朝、王子はまた、お腹がすいて、
「さあ、杖よ。行ってクルミを取り返して来い」と命じました。杖は風のように飛んですぐクルミを持ってきました。そこで、王子はまた、
「開け、クルミよ、開け。おいしい食事を出しておくれ」と言って食べようとするとまた別のデルヴィッシュがやって来て一緒に食事をすることになりました。食事が終り、王子がいつものようにとなえごとをして、クルミをかくしにしまうのを見ると、デルヴィッシュは言いました。
「そのクルミをわしにくれんかね。その代りに、このじゅうたんをあげよう。これに乗って『空をかけめぐれ』と言うと、空をすいすい飛ぶことができ、『降ろしておくれ』と言うと地面に降りることができる」


 王子はじゅうたんとクルミを取り替え、また旅を続けました。


 昼時になると、若者はまた、お腹がすいてきましたので杖に命じてクルミを取り返してきてもらい、いつものように食事をしましたが、もう誰も来ませんでした。そこで、食事が終るとテ-ブルをクルミにしまい、かくしに入れて、近くにあった木に馬を繋ぎました。そして、魔法のじゅうたんに大きな国のお城へ連れて行ってもらいました。ところが、お城では警備が厳しくて簡単に中へ入ることはできません。そこで王子はとんがり帽子を頭に被り、誰にも見られず、やすやすと王様の部屋へ着きました。


 王様は高い玉座に座り召使いにコ-ヒ-を頼んでいました。召使いがコ-ヒ-を持って来る間、王様は居眠りを始めました。しばらくして、召使いはテ-ブルの上にコ-ヒ-を置いて行ったので、王子はそれをおいしそうに飲んでしまいました。やがて、目を覚ました王様はからっぽのコ-ヒ-カップを見て、召使を呼び、怒って言いました。
「お前はわしをからかっておるのかね。からっぽのコ-ヒ-が飲めるか。馬鹿にするのもほどほどにせい、けしからん。お前は鞭打ちの刑じゃ」


 召使は驚いて、王女に助けを求めました。王女は王様のところへ走って行き、
「お父さま、コップにコ-ヒ-がなかったぐらいで召使を鞭打とうなど、お父さまらしくない。どうなさったのですか」と言って王様をなだめました。それから、王女は自分の部屋に行きましたので、王子も後からついて行きました。


 夕方になり、召使が王女のテ-ブルに夕食を運んできました。王女はスプ-ンを探しましたがみつかりません。いらいらしながら代りのものを持ってきてもらってス-プを飲みはじめました。ところが、王子も一緒に飲みました。ピラフも一緒に食べました。しばらくして、王女は何かおかしいことに気がつきました。そこで、様子をみるために、召使たちに言いました。
「ちょっと気分が悪いの。お前たちはさがってよろしい。ひとりで休みます」


 召使が行ってしまうと、王女は、
「誰なの?さあ、出ていらっしゃい」と叫びました。すると、王子は帽子を脱いで姿を現しました。王女は、目の前に立っているりりしい若者を見て大変驚きましたが、たくましく、やさしそうな王子がすぐ好きになってしまいました。


 次の日、王女は王様にお墓参りをするのでハマム(浴場)へ行くと言って、召使を連れて出掛けて行きました。王子は先まわりをして、イスラムのおぼうさんの格好をして王女たちを待っていました。やがて、王女たちが通りかかると、
「あなたがたにお守りを書いてあげよう」と言って一人一人にお札を書きました。最後に王女に近づくと、すばやく、王女を魔法のじゅうたんに乗せ、馬のところまで飛んでいきました。それから、二人は馬に乗ってどんどん王子の国へ向って走っていきました。


 さて、大きい国の王様は、若い男が王女を連れさったことを聞くと、すぐ軍隊をひきつれて後を追いかけました。二人は逃げる途中、小さな小屋を見付けて眠っていましたが、明け方、王女はふと目を覚ましました。すると、遠くに王様の軍隊がこちらへやってくるのがみえました。もはや、助からないと思った王女はしくしく泣きだしました。王子は眠っていましたが、王女の目から流れた涙が額に落ちて目が醒めました。軍隊が近づいてくるのをみると、
「泣くことはない。僕は決してあなたをお父さんに渡しはしないから」と言って、すぐにかぼちゃの口を開け、アラプに命じました。
「向こうからやってくる軍隊に勝てるくらいの軍隊を出して、敵の兵士を無傷のまま全員、捕虜としてここへ連れてまいれ」


 アラプは大きい国の王様の軍隊より数倍もある軍隊を出して、あっというまに誰一人傷つくこともなく捕虜にして王子のそばへ連れてきました。王子は捕虜になった王様に向って言いました。
「お父上、あなたのお嬢さんとその婿となる私を、後ろから軍隊をさしむけて、情け容赦もなく殺そうとするなんて、恥ずかしいとは思いませんか。どうぞ、お城へ行って、一頭の馬を連れてきてください。そして、その馬にお嬢さんを乗せて旅立たせてください」


 王様は自分のしたことを後悔し、すぐ、王女に立派な一頭の馬を贈りました。王子と王女は馬に乗って軍隊を後ろにしたがえ、小さい国の王様のところへ帰りました。そして、王子は父王に、今迄あったことを全部話しました。王様もお妃様も王子の手柄をほめたたえ、さっそく、二人のために盛大な結婚式をあげることになりました。そして、四十日四十夜お祝いの宴会が続きました。それから、この国には戦争もなく、王様をはじめ人々はいつまでも幸せに暮らしました。
 

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■ほじゃさんから


原話ではさらにお話が続くのですが、語りやすくするために、ここでおしまいにします。

*ほじゃさんからお話の紹介です。
23話目は『トルコの民話』から「金のおんどり」というお話です。


----------■金のおんどり(トルコの民話から)■----------


むかしあるところに、おかみさんと三人の息子をもった男がおりました。男は朝は日の出る前から夜は日が沈むまで畑に出て、おかみさんと三人の息子を養うためにいっしょうけんめい働きました。


 何年かたって、息子たちも大きくなり一人前の若者になりました。惚れ惚れするような姿形、がっしりした体格、健康でたくましい三人の若者には残念ながら怠け者という欠点がありました。親たちがどんなに忙しくしていても手伝うなど考えもしませんでした。男はいつも一人で仕事に出かけ、夕方にはへとへとになって家へ戻りました。


 こうして数年がたち、男もすっかり年をとって働くことも容易ではなくなりました。ある日のこと、男はいつものように畑で働いていましたが、疲れてきたので近くにあった石の上に腰をおろし、
「おっふ、おっふ、」とため息をついていると、とつぜん座っていた石が動き出したので思わず地面に転がってしまいました。動き出した石の下からはもくもくと煙りがあがり、その煙りは高く高たちのぼって、いきなりその煙りの中から一人の妖精が現れました。そして、その妖精は男に、
「私に何をして欲しいのですか」と、言いました。


 男は驚くやら怖いやらで、しばらくぼうっとしていましたが、やっとのおもいで言いました。
「わしは何もして欲しいなんて思っていないが、あんたはいったいどなたさんで?」
「オッフ、オッフと呼んだではありませんか。私の名前はオッフというのですよ。さあ、遠慮はいりません。あなたの望みを言ってください」


 妖精がしつっこく言うので、男は断りきれずに言いました。
「わしはとても長生きをして、すっかり年をとってしまった。いっしょうけんめい働いて、そりゃあ楽しい人生じゃったが息子たちはちっとも働かず、これからどうしてよいのやら」


 すると、妖精は答えて言いました。
「それでは、息子たちに金のおんどりを探してくるようにと伝えなさい」


 妖精はこれだけ言うと、すぐにどこかへ消えてしまいました。男は疲れてはいましたが、妖精の言ったことを何度も何度も考えました。夕方家へ帰ると、男は三人の息子を呼んで言いました。
「息子たちや、頼みがあるんじゃが・・・。明日の朝、日が昇る前に起きて旅支度をしておくれ。わしはすっかり年をとってしまった。おまえたちをこれまで大きく育ててきたのはこのわしじゃ。父さんのたった一つの願いを聞いてもらいたい。というのは、金のおんどりを見つけてもらいたいのじゃ。金のおんどりを見つけてくるまでは家に戻ってはならぬ。よいな」


 息子たちはお昼時まで寝坊するのが常でしたから、そんなに朝早く起きるのはとても難しいことでした。ぶつぶつ文句を言いながらやっとのこと着替えをすませると、母親は息子たちに食べ物、飲み物を袋に入れて持たせました。息子たちは袋を背負って、両親に別れを告げ旅にでました。


 どんどん歩いていくと、道が三つに分かれているところへ来ました。一番上の息子が二人の弟に言いました。
「おれは左の道を行くから、おまえは真中の道を、おまえは右の道を行け」


 兄弟はそれぞれの道を進んで行きました。一番上の兄が左の道をどんどん行くと、やがてお昼近くになって泉のほとりへやって来ました。大きな木の下に腰をおろすと、袋から食べ物を取り出して食べ始めました。すると、ちょうどその時、近くに、耳をたれて毛は抜け落ちやせ細った一匹の犬がいるのに気がつきました。犬は息子に言いました。
「お腹がすいて死にそうだ。おまえさんの食べ物をすこし分けてはくれまいか」


 息子は聞こえないふりをして、一人でむしゃむしゃ食べながら、
「うるさいな。しっ、しっ。あっち行け。こ汚い犬め。おまえなんかにやる食べ物はないよ」と、犬を追い払いました。犬は何も言わず少し離れたところにうずくまって座りました。


 息子はお腹がいっぱいになると眠くなってきたので、横になって眠ることにしました。息子がグーグーいびきをかいて眠っていると、さっきの犬がのっそりやって来て、息子の頭を二度なめました。そのとたん、息子の髪の毛はぜんぶ抜けて頭には一本の毛もなくなってしまいました。


 目を覚ました息子は、そばにうずくまっていた犬を一蹴りすると、
「やい、おれはこれから金のおんどりを探しに行くんだ。見つけなければ親父の家へは戻れない。おまえ、知っていたらそこへ行く道を教えてくれ」と、言いました。すると、犬は閉じていた目をゆっくり開けて、いばらの道を示しました。息子は、
「なんだよ。おれをからかっているのか。あんないばらの道をどうやって行けるというんだね」と言って、犬の示した道とは反対の楽な道を選んで行きました。どんどん行くうちに、やがて夕方になりました。すると、また泉があったのでそこで休みました。袋から食べ物を出して食べ始めると、歯はぼろぼろに欠け、痩せて骨と皮ばかりの老いぼれ馬が近寄ってきました。そして、
「お腹がすいて死にそうだ。おまえさんの食べ物をすこし分けてはくれまいか」と言いました。すると、息子は答えて言いました。
「しっ、あっち行け、かいせん病みめ。どこからのこのこあらわれたんだ。腹が減っているなら草でも食えばいいじゃないか」


 馬は何も言わず息子から離れて行きました。息子はお腹がいっぱいになると、また眠くなったので、そこに横になり眠りました。息子がぐっすり眠り込むと、さっきの馬がやって来て背中から二本の毛を引っこ抜き、一本を息子の片方の目に、もう一本をもう片方の目に置きました。


 しばらくして、息子が目を覚ますと息子の美しい目はやぶにらみになっていました。
「いったい俺の身に何が起こっているのだろう。頭には髪の毛がなくなってしまうし、目はやぶにらみになってしまった。金のおんどりを探すのはなんて大変なのだろう」と、泣き泣きまた旅を続けました。


 日はどんどん暮れてやがてあたりは真っ暗になりました。その時、遠くのほうに明かりがちらちら見えたので、急いで行ってみると、小さい掘建て小屋がありました。ドアを叩くと、中から腰の曲がった白髪のおばあさんがが出てきました。息子は、
「なんだ。前にあった犬や馬とおんなじこ汚くて醜いばばあだ」と心の中で思いながら、大声で言いました。
「ばあさんや。一晩泊めてくれ」


 おばあさんは何も言わず息子を中へ招き入れました。息子は中へ入ると、すぐ袋から食べ物を出して食べ始めました。おばあさんは家の隅に座ってそれをじっと見ていましたが、息子はおばあさんに食べ物を分けてやることはしませんでした。息子はお腹がいっぱいになると眠くなってきたので、横になってすぐ眠ってしまいました。すると、おばあさんは立ち上がって手に棒を持つと、軽く息子にさわりました。そのとたん、息子の背丈はみるみる小さくなり小人になってしまいました。かつての背が高く、金髪で、美しい青年の姿は見る影もなく、髪の毛も無くなって、やぶにらみの、小さい小人になってしまったのです。これではだれも昔の息子だとは気がつきません。


 次の日、息子はおばあさんに金のおんどりのいるところはどこかと尋ねました。すると、おばあさんはけわしい石ころだらけの道を示しました。息子は毎日毎日歩いてやがて小さな村にたどりつきました。そこで、息子は鍛冶屋の弟子になり働くことに決めました。なまけものの息子はもう金のおんどりを探すなんてまっぴらごめんだとあきらめてしまったのです。


 ある日のこと、鍛冶屋で働いていると、自分とそっくりの、やぶにらみではげあたまの、背のひくい小人に会いました。息子は思わず、
「どこかで会ったことがあるような気がするのだが、おまえさんの名前はなんと言うのだね」と話しかけました。すると、男は名前を言ったので、よくよく見ると、なんと真中の兄弟でした。男も気が付いて、
「もしかしたら、あんたはおいらの兄さんかい?」と驚いて答えました。
「ああ、おれの身に起こったと同じことがお前にも起こったんだね」
二人の兄弟は今までのことをみんな話しました。そして、
「こんな苦労をしながら金のおんどりを探すのはもうやめよう」と言って、二人は鍛冶屋でふいごをふきふき、鉄を打つ仕事に精をだしました。


 さて、末っ子の息子はどうなったでしょう。末息子も自分の道をどんどん進んで行きました。すると、泉のあるところへ来たので少し休むことにしました。袋から食べ物を出して食べていると、毛の抜け落ちた一匹の犬が近づいて来て言いました。
「お腹がすいて死にそうだ。おまえさんの食べ物をすこし分けてはくれまいか」


 末息子はやせ細った犬を見てかわいそうに思い、持っていた肉の半分を分けてやりました。食事が終わると、末息子は犬に聞きました。
「おいら、金のおんどりを探しに行くのだけれど、どっちへ行ったらいいんだろうね」


 犬は石ころだらけのいばらの道を示しましたが、末息子は勇気をだしてその道を歩き出しました。すると、そのとたん犬は体を激しくゆすり、みるまに毛並みもつややかで、鋭い歯をもち、力に満ち溢れた狼のような犬に早変わりしました。驚いている末息子に犬は言いました。
「おまえさんは勇敢な若者だ。困難をものともせず立ち向かうりっぱな青年だ。金のおんどりにはおまえさんのような人が出会えるのだ」


 末息子は犬の助けを借りながらいばらや石ころだらけの道を通り過ぎて、やっとのおもいで広い原っぱに出ることができました。末息子は疲れて、お腹もすいてきたので袋から食べ物を出すと、犬にも半分やって食事にすることにしました。すると、ちょうどその時、毛の抜け落ちた骨と皮ばかりに痩せた馬がびっこをひきひき近づいてきて言いました。
「お腹がすいて死にそうだ。おまえさんの食べ物をすこし分けてはくれまいか」


 末息子は哀れに思い、馬にも食べ物を分けてやりました。食事が終わると、末息子は馬に聞きました。
「おいら、金のおんどりを探しに行くのだけれど、どっちへ行ったらいいんだろうね」
馬はごつごつした岩や尖った石のある険しい道を示しましたが、末息子は勇気をだしてその道を歩き出しました。すると、そのとたん馬は白い翼をもった立派な馬に早変わりしました。驚いている末息子に馬は言いました。
「おまえさんは勇敢な若者だ。困難をものともせず立ち向かうりっぱな青年だ。金のおんどりにはおまえさんのような人が出会えるのだ。さあ、余計な苦労をすることはない。犬と一緒に私の背中に乗りなさい」


 あたりはすっかり暗くなっていましたが、馬は末息子と犬を乗せて遠くの明かりをめざしてまっしぐらに飛んで行きました。まもなく一軒の掘建て小屋へ着くと、馬は二人をおろしました。


 末息子はドアを叩きました。すると、腰の曲がった白髪の、みにくい一人のおばあさんがドアを開けてくれたので、息子はすぐに腰をかがめておばあさんの手にうやうやしく口づけをしました。
「すみませんが、今晩一晩だけ泊めていただけませんか?」


 おばあさんはにっこりして、
「さあ、どうぞ。さぞお疲れのことでしょう。犬も馬も遠慮はいりません」と、言いました。そこで、息子と犬と馬は小屋の中へ入れてもらいました。みんなはお腹がすいていたので、息子は犬にも馬にも、そしておばあさんにも食べ物を分けてやりました。おばあさんが、
「おまえさんの分がないではないか」と心配そうに言うと、息子は、
「大丈夫。砂糖がすこし残っているから、これで十分。安心して食べてください」と言ったので、おばあさんは何も言わず息子からもらったパンを食べ始めました。すると、とつぜんおばあさんは体を震わし十五夜のお月様のような美しい娘になりました。娘は、
「私は金のおんどりの国の王女です。父王に敵意をいだいている呪い師が私を醜い老婆の姿に変えてしまいました。長い間、老婆の姿で暮らしておりましたが今まで一人として私の手にやさしい口付けをしてくださる方はいらっしゃいませんでした。もっと早くあなたのような方に出会っていれば、もっと早く元の姿に戻ることができましたのに。ありがとうございました」と、言いました。
息子が、「僕は金のおんどりを探しに来たんだ」と言うと、娘は、
「父の国はここからはとても遠いところにあります」と、答えました。


 次の日の朝、みんなが旅支度をはじめると、馬が言いました。
「さあ、私の背中に乗ってください。そして、私がいいと言うまで目を閉じてください」


 みんなは馬の言う通り、馬の背に乗ると目を閉じました。馬は矢のように空を飛び、あっというまに金のおんどりの国へ着きました。
「さあ、目を開けてください」


 馬の合図で目を開けた娘はすぐにみんなを連れて王様のところへ走りました。死んだものとあきらめていた娘が無事に帰ってきたのですから、王様の喜びようはたとえようもありません。娘は今までのことをなにもかも王様にはなしました。王様はすぐに末息子を呼んで言いました。
「よくぞ娘を救ってくれた。お礼に、そちの望みはなにか、申してみよ」
「王様が健やかであられますように」
「なんの、わしの健康など願っても、そちにはなんの得にもならぬではないか。さあさあ遠慮なくなんでも願いなさい」
「それでは王様、申し上げます。じつは、年老いた父が金のおんどりを欲しがっております。手に入れることができましたら幸せでございます」


 王様はしばらくじっと考えていましたが、やがて重々しく言いました。
「お若いの。それは大変難しいことじゃ。金のおんどりが住んでおるところは非常に高いところなのだ。そこへ行くには七つの頭を持った怪物の住んでいる洞穴を通って行かねばならぬ。それも金のおんどりを手に入れるためにはこの怪物をしとめねばならぬ。ただし怪物の頭は一つだけ切り取るのじゃ。怪物を退治したら、また先へ進んで行くが良い。ほどなく、百メートルほどの高さの城壁が目に入るだろう。この城壁のてっぺんの平たいところに金のおんどりが住んでおる。このおんどりに近づくにはちょうど明け方の日が昇る前、おんどりが夜明けを告げようとするその時、一掴みの金の小麦をぱらぱらとおんどりの前にばらまかなければならない。おんどりがその小麦をついばんでいるすきにすばやくおんどりを捕まえ、金で作られた袋にいれるのだ。どうじゃ、金のおんどりはそんなにたやすく捕まえることは出来ぬのじゃ。もっとほかの願いを申し出よ」


 これを聞いた末息子はひるむことなく、きっぱりと言いました。
「王様、私の願いはこれ一つでございます。父はこれを願っているのですから」


 息子の決心のかたさを知った王様は、家来たちを呼んで命じました。
「この若者に金のおんどりを入れる金の袋と一掴みの金の小麦を用意するように。それから、わしの特別の刀と食べ物をいっぱい入れた袋もあたえるように」


家来たちは王様に言われた通り何もかも準備をして息子に与えたので、息子は犬と馬と一緒に金のおんどりを捕まえに出かけました。息子は犬と馬に助けられながら王様に言われたことを一つ一つやり通し、とうとう金のおんどりを捕まえて無事に王様のところへ戻りました。そして、息子は王女様に言いました。


「金のおんどりを父にとどけたら、もう一度あなたのところへ戻り、王様にあなたとの結婚をお許しくださるように願います」


 それから、息子は馬に乗り犬と一緒にまっすぐ両親のいる家へ走りました。息子の戻ってきたのを見ると、父親も母親も天にも上る喜び様でした。
「息子や。よく戻ったね。お帰り。でも、兄さんたちはどうしたんだね」


 その時、犬と馬が、
「彼らは困っているものを助けず、楽な道をえらびました。あのような怠け者はあんたたちにはふさわしくありません」と言って、彼らに起こったことをなにもかも話しました。


 息子はすぐに家の屋根の一番高いところに金のおんどりを住まわせました。つぎの朝、日の昇る前におんどりが鳴きはじめると、町の人たちは寝床から飛び起き、働き始めました。こうして、人々は金のおんどりの鳴き声を合図によく働いたので、みんな豊かに暮らすことができるようになりました。


 末息子は約束したとおり、王女さまをお嫁にもらいました。王様には息子がいなかったので、末息子はその国の王様になりました。もちろん年老いた父も母もお城へ呼び寄せ一緒に暮らしました。


 怠け者の兄たちはといえば、末息子の噂を聞いて、自分たちのしたことを心から悔やみ、心を入れかえて真面目に働くことを誓ったので、末の弟は犬と馬とお后さまになった王女さまに彼らを許してくれるようにと頼みました。みんなのお許しを得ると、二人はすぐに惚れ惚れするような背の高い、金髪のりっぱな青年に戻りました。


 それからは、家族そろってみんな幸せにくらしましたと。


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■ほじゃさんから
 この話は、トルコ東北部の古都シヴァスで生まれたアイシェ・ベネック・カヤという女性が集めたその地域の昔話を集成した本(題名は『宮殿の庭の薔薇たち』)に掲載されているものです。この本の序文には、1991年に私の妻(児島満子・故人)との出会った思い出なども書かれており、私にとっては貴重な本です。全部で79話の昔話が収められています。