*ほじゃさんからお話の紹介です。
25話目は『ロシアの民話』から「霜の大王と雪娘」というお話です。
----------■霜の大王と雪娘(ロシアの民話から)■----------
ずっと昔、ロシアの北の方に、材木商人の夫婦が住んでおりました。長い間待って最初に生まれたこどもは女の子でした。とてもかわいらしい赤ちゃんだったので、近所の人たちもお祭り騒ぎの大喜び。洗礼の式が終わったら、家のドアを広く開けておいて、蜂蜜入りの麦酒を大きなコップにいっぱい満たして用意しておきなさい、と母親に言いました。なぜなら、そんなかわいい赤ちゃんには、かならず妖精の女王がやってきて、赤ちゃんを祝福してくれるにちがいないと、人々は信じていたからです。そして、人々のいったとおりのことが起こりました。きれいな青と銀色の上着を身にまとい、右手には真珠で飾った杖を持った妖精の女王がやってきて、蜂蜜入りの麦酒をすすり、女の子の眠っているゆりかごに微笑みかけ、その真珠の杖をきっかり七回振って、それから家から出て行きました。隣人達はお互いに言い合いました。
「この子は本当に幸せな子だね。それに肌の白さといったら、まるで雪娘のようだね」
それから何年か経って、その材木商人の夫婦にもうひとりの女の子が生まれました。このときも、家の扉は広く開かれ、蜂蜜入りの麦酒で満たされた銀のコップが用意され、母親は朝から待って、待って、待ち続けましたが、誰もやってきませんでした。夕食の後、夫は仕事で出かけなければならなかったので、母親は一人で家におりましたが、やがて、もう扉は閉めてしまった方が良いのではないかと思い始めたちょうどその時、ひとりの少女が入ってくるのが目にとまりました。少女は裸足で汚れており、髪の毛もぼさぼさで、物乞いのような身なりでした。
「おまえは一体何がほしいんだね」と、母親はとげとげしい声で言いました。
「奥様、あなたの赤ちゃんをみせてくれませんか?」
「私の赤ちゃんを見せてほしいだって?おことわりだね。出てお行き! あんたは怠け女だねえ。自分の力でパンにありついたらいいじゃないか」と、母親は大声で叫びました。
「赤ちゃんを見せていただけないなら、その蜂蜜入りの麦酒をすこしだけ飲ませていただけませんか。ずっと遠くからやってきたので、とても喉が渇いているのです」
「麦酒の飲ませてくれだって? なんてずうずうしいことをお言いだね。私がつくった一番上等の麦酒を、ボロをまとった物乞いに飲ませてあげるととでも思うのかい? この麦酒は妖精の女王様のためのものなのさ。今すぐにでもやって来るかもしれないじゃないか」と、母親は言いました。
「一口でも二口でもいいのです。どんなに私の喉が渇いているか知っていただけたら・・・」
「おまえさんの喉が渇いていたって、それがどうしたっていうんだね。おまえさんは、馬鹿な女の子だね。村の井戸にはたっぷり水があるんだから、そこでたっぷりのんだらいいのさ。さっさと出ておいき!」 母親はひどく腹を立てていだので、少女が立ち去るやいなや、扉のところに走っていって、それをバタンと閉じてしまいました。
「あらまあ、なんとしたことをしてしまったんでしょう。妖精の女王がやってきて、家の扉が閉じられているのをみたらどうしよう?」と彼女はつぶやいて、かんぬきを引き抜き、錠前も外して、扉を閉じる棒もひっぱりましたが、なかなか扉を開けることができませんでした。でもやっとの思いで扉を開けて、通りの方を見てみましたが、妖精の女王がやってくる気配はないので、とうとう家の中にひっこんでしまいました。
次の日も、またその次の日も彼女は待ち続けましたが、二番目の娘を真珠の杖で祝福してくれる妖精の女王は姿を見せず、彼女はひどく落胆してしまいましたが、やがて、その落胆は深い悲しみに代わりました。なぜかというと、二番目の娘は大きくなるにつれて顔が浅黒くなり、せなかがせむしのように曲がってしまったからです。近所の人々はその子のことを煤(すす)娘と呼ぶようになりました。彼女あまりに浅黒くて醜い顔をしており、彼女の振る舞いは家族のものも含めて誰に対してでも不機嫌で、不愉快だったのです。
やがて時間が経つうちに、母親は雪娘のひどく嫌うようになり、年下の娘ばかり甘やかすようになったので、とうとう、最後には誰もがみな、娘の我慢できないほどになりました。肉を焼かせると黒こげにし、家中に水を撒き散らし、流しの食器は壊すわ、針は失くすわ、なにをやらせても、ひどいありさまです。
それでも母親は、猫なで声で言うのです。
「おまえは天使のような娘だよ。可愛いすす娘や。お前は良い子じゃないのかい? 賢くないのかい?」
一方、あわれな雪娘の方は、なにをやっても母親から小言を言われます。とても美味しいパンを焼いても、「イーストが足りないよ」と怒られるし、床をピカピカに磨いても「なんで私が豚小屋みたいなところで暮らさなければならないのさ」と怒鳴られます。顔拭きや手拭のタオルにも見事な刺繍をするので、近所の人たちはみな彼女の針仕事の腕前をほめそやしましたが、母親ときたら「あんなのは台所のぞうきんに使うのがやっとじゃないか」と言い放つしまつです。
こんな状態が続いても、材木商人の夫は何も言いませんでした。彼は気の優しい男だったので、妻が塩は甘いと言っても、うなずくぐらいだったのです。そのうちに事態はもっとひどくなり、雪娘の暮らしはみじめな奴隷女のようになってしまいました。そしてすす娘は、姉のことをまるで雇われ人みたいにあつかい始めました。そしてすす娘はある日、母親にいいました。
「あのひとは台所で食事をさせたらいいんだわ。それに、おかあさんはなんであんなひとに革の靴を買ってあげるの? ぼろ布でつくったスリッパで十分じゃないの」
「おまえはなんて賢いんでしょう。たしかにその通りだ。あの子は台所で働く女達と飲み食いすればいいんだねえ」と、母親は答えました。
でも、何が起きても、雪娘の優しい性格は変わりませんでした。どんなにひどいことをされても、言われても、彼女はなにひとつぐちをこぼしません。毎日汗みずくで働いても、与えられる食事はちょっぴり。スカートがぼろぼろになり、スリッパもかかとのあたりまで擦り切れてしまい、日々の暮らしに楽しみはひとつもありませんでしたが、それでも雪娘はあいかわらず、嫌な顔をされても微笑をかえし、ひどい小言にも優しい言葉で答えました。
「あの子は偽善者なのよ」と、妻は夫に言いました。
「もううんざりだわ。あの子にはこの家にいてもらいたくないわね。あんな姉がうろうろしていては、私のかわいいすす娘に良い夫なんか現れっこないわよ。あなたの部下に命じて橇を用意させて、彼女を北の方の遠いところに連れていってしまいなさいよ。そして、どこかの野原に放り出しておけば、霜の大王がいいようにしてくれるわよ。あの子がいなくなったら、私はすぐ可愛いすす娘のためのお婿さん探しをはじめなくちゃ」
商人は臆病だったので、彼女に言い返すこともできず、ためらっていると、女は急き立てるように言いました。
「あの子の身の上には何もおこりゃしないよ。妖精の女王はすす娘には微笑みかけてくれなかったけど、あの子は妖精の女王に護られているんだからさ。どこかの妖精の国にあの子を連れていってくれるわよ」
女はもう妖精の女王への信頼をずっと前に失っていたのですが、夫をせかすためにそんなことを言ったのです。それで男は、とうとう「わかったよ。おまえの言うとおりにするよ」と妻に言いました。
そして男は部下に命じて橇を用意させ、雪娘を呼び出し、橇に乗せると、か一番暖かい上着とショールを着せてやりました。
「橇すべりに行くの、おおうさん」と、雪娘は微笑みながらたずねました。商人は何と答えていいか分からなかったので、顔をそむけて、思い切ったように中庭から外に走りだしました。
一方、母親とすす娘は台所の炉のそばに座って、木の実と生姜いりのお菓子を食べていました。
「妖精の女王がきて、あのひとを助けるなんて、私は信じないわ。多分、霜の大王が彼女を殺してしまうのよ。そうしたら、もう私たちは二度とあのひとのことは考えなくてもすむわね」と、すす娘はあざけるように言いました。「そうしたら、おかあさん。私に赤い絹のドレスと、トルコ石の耳飾を買ってね。ずっと前からほしかったのよ」
「おまえのほしいものは何でも買ってあげるよ。可愛い娘や」と、母親は彼女に言い、父親が戻ってくるまで、木の実とお菓子を食べ続けていました。
父親が戻ってくると、女は家の外に走り出て、彼を迎えました。
「うまくいったの?」と彼女はたずねました。
「あの子を残してきたよ。おお、神様、お許しください」
「馬鹿なことをお言いでないよ。明日またその野原に行ってみればいいじゃないか。あの子は見つかりっこないよ。きっと、妖精の国に向かってるにちがいないさ」
でも、商人はなにも答えませんでした。
一方、野原にひとりで置き去りにされた雪娘は、広い雪の野原のなかで、雪の吹きだまりに身をもたせかけて、立っていました。驚きと悲しみで身を震わせながら、もうじき、立ってもいられなくなるかもしれないと考えていました。するとその時、霜の大王の目に彼女の姿がとまりました。頭にはキラキラ光る氷の王冠をかむり、肩に氷のマントをかけた大王は彼女の方にちかづいてきて、吹き溜まりの前にいる彼女の前で立ち止まりました。
「わしが誰かは、知っているだろうね、娘さんや。私になにか言うことがあるかね?」と、霜の大王が言いました。
「おはようございますというほかに、何も言葉はございません。霜の大王様」と雪娘は身を震わせながら答えました。「この世のすべてもものと魂は神様のみこころの下にあります。神様が私をこの世から連れ去るために、あなたの寄こしたに違いありません。ですから、私は朝の挨拶をするほかありません。おはようございます。霜の大王様。そして、お気のすむようになさってください」
年をとった霜の大王は、もちろん、雪娘を殺すつもりでした。でも、雪娘の言葉が彼を大変なごませ、そして感動させたので、今はためらいを感じました。そして、彼は大きな白いあごひげを引っ張り、雪のような肩をすくめると、森の中に戻っていきました。
しばらくすると、霜の大王はまた戻ってきましたが、今度は、腕に黒いテンの毛皮でできた上着をかかえていました。
「ふむ。今度はわしになんというのかね、娘さんや」
「こんどもお気にめすように、としかいえませんわ。霜の大王様」
「おまえは、寒くはないのかね?」
「もちろん、寒いです、大王様、でも、今は季節が冬ですし、あなたはその支配者まのですから、寒さと喧嘩してもしかたがありませんわ。神様は、私たちすべての者のために季節を定めてくださっているのです。ええ、まったく、本当に寒くてたまりません。でもそれはどうしようもないことですから、それを悲しんでもしかたありません」
「ここにおまえを暖かくしてくれるものがある」と、霜の大王はぶっきらぼうな口調で言いました。そして、その見事な黒テンの上着を彼女の肩にかけてやりました。彼女は大王に感謝の言葉をいいましたが、その様子がとても可愛かったので、彼の体が雪と氷のかわりに血と肉でできていたら、彼の体は解けてしまっていたかもしれません。
「おまえにはよくにあう。そんな上着をこれまで着たことはなかったのかね」と彼はつぶやきました。
「そんなことは無理ですわ。黒テンの毛皮なんてあまりに高すぎます」
「おなえは貧乏なのかね?」
「わたしにはぐちをこぼすことなんて、ひとつもありません。霜の大王様。塩があれば、野菜スープにいれますが、塩がなければそれでもいいのです。私はいつでも満ち足りています」
「わかった」と霜の大王はうなずいて、荒々しい足音を響かせながら立ち去りました。今度は、何かが彼を当惑させたのに違いありません。というのは、彼がまだ森にたどりつくより前に風が強くなり、雪嵐が野原全体に襲い掛かってきました。でも、雪娘には霜の大王がくれた暖かい毛皮がありましたから、まったく平気でした。
しかし、霜の大王はまたやってくると、雪嵐やすぐおさまりました。
「雪嵐についてはあやまる」と、霜の大王はあいかわらずぶっきらぼうな口調で言いました。「でも、おまえの言ったことがわしを怒らせたのだ。おなえのような娘は何も不自由してはいかんのだ。夕食に塩だけなんてことがあってはならん」
「でも、私はそれについても何も不平はいいませんでした。大王様。それにあの雪嵐だって気にかけませんでしたわ。きれいな毛皮が私を気持ちよい暖かさで包んでくれました」
「おまえは分別のあるおんなのこじゃな」と霜の大王は言って、彼の右手を上げたり下げたりしました。すると、たちまち頭からつま先までキラキラ光る雪の衣を身に着けた何人かの小人が、野原の向こうからやってきました。
「王様」と、彼らは口をそろえて言い、うやうやしくお辞儀をしましたので、雪がひらひらとあたりに舞い散りました。
「大きなモミの木の下のわしの倉から、一番大きな赤いトランクをもってまいれ」と、霜の大王は小人達に命じました。
「さあ、さっそく仕事にかかるのじゃ」
小人たちが大きな赤いトランクを担いで戻ってくると、大王はそれを指差して言いました。
「これはおまえの結婚のための持参金じゃ」
「おお、霜の大王様。なんとお心のひろいかたでしょう。でも私にはそんなものを受け取る資格はありません」
「しかし、おまえはもう豊かになったのじゃ。トランクの中には金の塊と、ビロードのドレスが七着はいっておる。さあ、わしはもう行かなきゃならん。おまえは善い娘だから、今後はなにもかもうまくいくことをわしは承知しておるぞ」
そこで、雪娘はその大きなトランクの上によじ登り、毛皮の上着を肩に引き寄せて、次に起きることをまっていました。やがて、身体があたたまってきて、雪娘がふと野原の向こうに目をやると、ひとりもみすぼらしい身なりの女の子が野原を横切って近づいてくるのが見えました。
「おお、かわいそうに。なんて、寒そうな様子をしているの。こちらにいらっしゃい。私の毛皮の上着であなたも温めてあげるわ」と、雪娘は大声で叫びました。みすぼらしい身なりの女の子はどんどん近づいてきてきました。
「私と一緒に家に帰らない?私のお父さんがいつ連れ戻しにきてくれるかわからないわ。何故って、なんで私をここに置き去りにしたのか、その理由がわからないんだもの。でも、あなたには温かい夕食が必要でしょう?」と、雪娘はおずおずと言いました。
「そのとおりよ。それに喉も渇いているわ。でもあなたのお母さんは私をすぐ追い出してしまったから、わたしは戻ろうとはしなかったの」と、みすぼらしい身なりの女の子が言いました。
「まっすぐ台所に連れて行ってあげるわ。そして温かいスープもね!」と、雪娘は約束しました。
家では、やや親がまた夫をなじり始めました。
「まったく、おまえさんときたら役立たずね。あの子はもう長い間外なんだよ。あの馬鹿の妖精があの子をどこかに隠していたんだよ、きっと。さもなければ、霜の大王があの子を殺してしまったんだ。橇にのって、あの子を探しておいでよ。葬式の準備をしておいたほうがいいんじゃないかね」
そして夫が出かけてしまうと、彼女はパンケーキと蜂蜜入りの麦酒をお葬式のための準備し始めました。なぜかといえば、妖精の女王が雪娘をどこかに隠すなんて、ちっとも信じていなかったからです。
とその時、突然、テーブルの下から一匹の小さな犬が飛び出してきて、
「ワン、ワン、ワン。七着のビロードのドレスと銀の皿、そして金のスプーンをもって戻ってきます。そして、もう一人のわかいご夫人には決して、決してお婿さんはみつかりません。ワン、ワン、ワン」
母親が犬を蹴ると、犬は部屋から飛び出してゆき、中庭中を駆け回りながら、吠え続けました。
しばらくして、パンケーキができあがり、蜂蜜入りの麦酒がコップに注がれました。 その時、門が開かれる音が聞こえました。母親とすす娘が外に走り出てみると、信じられないようなことが起きていました。大きな赤いとランクがあり、上王様のように光り輝く雪娘が見事な黒テンのコートを身にまとって立っており、彼女の髪毛はダイアモンドで飾られていました。その後ろにみすぼらしい身なりの女の子が立っていました。その子は前にこの家に来たあの女の子なのです。でも、もちろん、母親にはそれが分かりませんでした。そして、その物乞いのような女の子には一瞥もくれませんでした。
「雪娘」と、母親はあえぐように言いました。でも雪娘は別のことを考えていました。彼女は部屋に入っていくと、温かい麦酒のコップをつまり、それをみすぼらしい身なりの女の子に与えました。
「さあ、これであなたも温かくなるわ」と、彼女は叫びました。
みすぼらしい身なりの女の子はコップから麦酒を飲みました。飲んでいるうちに、身にまとっていたぼろぼろの着物が方からすべり落ちて、可愛らしい銀のマントが頭から足の先まで、彼女の身体をつつみました。そして、彼女は真珠とダイアモンドで飾られた杖を右手に持って立ち、母親にいいました。
「あなたは私たちのことをちっとも信じていない。私はあなたの二番目のあかちゃんにも微笑をかけるためにここに来たのです。でも、あなたは私が中に入るのを拒絶しました」
「だって、妖精の女王様がみすぼらしい身なりで現れるなんて、知らなかったのです」と母親は叫びました。
「あなたは麦酒を拒んだり、腹立ちまぎれで家の扉をピシャリと閉めたり、私に向かって腹立ちまぎれに叫んだりするべきではなかったのです」。妖精の女王はこう言うと、大きなコップから麦酒の飲み干し、雪娘の頬に口付けをして、そして、姿が消えてしまいました。
「おかあさん。あの人は私を祝福してくれるはずの妖精だったのに、またしても彼女をおこらせてしまったんだわ」と悲しげに言いました。
「気にすることはないよ」と、母親は大声で言いました。「あんな人たちとなんのかかわりがあるものかね。真珠の杖だって何だって、たちまち消えてなくなっちまったじゃないか。それにおまえのお姉さんの着ている黒テンのコートや七着のビロードや、ほかのあれこれをよく見てごらん。妖精の女神がおまえにくれるはずだったものより、ずっと立派じゃないか。でも、雪娘。一体なにが起きたのか、私にはなしてごらん。王子様にでも出会ったのかい?それとも、宝物でも見つけたのかい。それにおまえは、愚かな母親が何を言っても許すといったじゃないか」
「たしかに、許せないことなんてなにもありませんわ、お母様」と雪娘は答えました。「私がこの結婚持参金を持つように望んだのは、霜の大王様なのです」
母親は夫に向かって叫びました。
「まだ馬から、馬具は外してないだろうね。さあ、すす娘。おまえの毛皮の長靴をおはき。それからできるだけたくさんのショールもだよ。分かったかい。
彼女を同じ場所に置いて来るんだよ。聞こえてるかい。私の可愛い娘がたちまち霜の大王を虜にしてしまうにちがいないよ。それにおまえさん。気をつけて戻って来るんだよ、大きなトランクをひっくりさないように気をおつけよ」
そこで、商人は若い方の娘を同じ野原に行きました。道々、彼女はひっきりなしに父親に話しかけました。
「霧の大王を虜にしろだって?彼は陰気なおいぼれ男じゃないの。彼と気の利いた話をしたってなんの意味もないわ。お父さん、見た? 雪娘の宝石は全部真珠とダイアモンドだったわよ。じゃあ、私はルビーとサファイアをくれと大王に言うわ。私は色のついたものが好きなの。お姉さんがもらったような白いビロードのドレスなんて、死んでも着たくないわ。私はエメラルドの刺繍をちりばめた金色のドレスがいいな」
材木商人は黙って聞いているばかりで、何も言いませんでした。彼はすす娘を同じ場所に置いて、広い野原のはしまで走り戻りました。ショールと羊の毛皮の服を身に着けたすす娘がいらいらしながら待っていると、やがて、霜の大王が姿を現しました。
「ふむ。娘さん、何か私に言うことがあるかね?」
彼はぶっきらぼうな口調で尋ねました。
「何か言えですって?」とすす娘は言い返しました。「わたしを空戻りさせるつもりなの?私にもおおきな赤いトランクをもってきてちょうだい。それに、ドレスはぜんぶ金色のビロードよ」
「そうかね」と、霜の大王は彼の長いあごひげよりもっとずっとこおりのように冷たい声で言いました。「他にほしいものは?」
「ルビーのネックレスと、・・・あれあれ、そんなに私に近づかないでよ。気持ち悪い老いぼれね。寒くてたまらないわ。それに、黒テンのコートもお願いね」
「おまえはもうすっかり冷えただろう?」と霜の大王はとどろくような声で言いました。
「しかし、おまえはもっともっと冷たくなるぞ」と言うと、彼は氷の手を上げて、すす娘の口を塞ぎました。彼女は叫び声を挙げようとしましたが、声をだすことができず、やがて雪の上に倒れこむのを、霜の大王は冷ややかに見つめていました。それから彼は右手をあげ、次に左手をあげると、すざまじい雪嵐が襲ってきて、そのまま娘の体は雪にうずもれ、誰にも分からなくなってしまいました。そして、次の年の春が巡ってくるころには、彼女のことはもうすっかり忘れ去られていました。そして、雪娘はと言えば、世界でもっともハンサムな王子様と結婚して、幸せにくらしました。
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■ほじゃさんから
このロシア民話は原稿の段階で、ロシアの民話が大好きな語り手さんにお渡ししました。
彼女が語りこむと、テキストはもっと変わるかもしれません。
その語り手さんは、同じ話の他のテキストもあるが、私のテキストの方が語りやすいと言ってくれてます。