「THE COLOUR IN ANYTHING」 ジェイムス・ブレイク


アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ名義で数々の作品を発表してきたアントニー・ヘガティ。その別名義であるアノーニの「HOPELESSNESS」は、エレクトリック・ミュージック界の雄、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとハドソン・モホークをプロデューサーに起用することで、ポップとエクスペリメンタルが絶妙な配合で融合された作品となった。これまでは生演奏をバックに歌っていたアントニーだが、本作では電子音響に乗せて持ち前の艶やかな歌声を披露している。
しかし、この座りの良さはどうしたことか?過去の作品では退廃的ともいえるヴォーカルを聴かせていたアントニーだが、ここでの歌声は力強さに溢れているし、ポジティブなオーラさえ漂わせている。もちろん、ハドソン・モホークのきらびやかなバックトラックに拠るところも大きいのだが、ヒップホップからベースミュージク、EDMまで、様々なサウンドに貪欲に触手を伸ばしてきたハドソン・モホークのおもちゃ箱的サウンドが、アントニーの官能的なヴォーカルとこれほどまでに相性がいいというのも驚きだ。
このアルバムの心地よさは、ハドソン・モホークとアントニー・ヘガティの双方が持っているロマンチックないかがわしさが、いい具合にシンクロし合った結果といえるだろう。そして、もうひとつ忘れてはならないのはワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの存在だ。彼もまたノイズやドローンで構築されたガジェットに、甘美で感傷的な風景をフラッッシュバックさせることが得意なサウンドクリエーターである。しかし、その作品世界はハドソン・モホークとは異なり、知的に抑制されている印象が強い。ハドソン・モホークの快楽志向とワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのストイシズム。2つのカラーが牽制し合うことで、この大胆でありながらも繊細なサウンドは奇跡的に生まれたのだ。
本作のポップ指向を指して、物足りないと嘆くテクノファンもいるだろう。しかし、ポップミュージックの中に隠し味として巧みに溶かし込まれたノイズやドローン、グリッチもなかなかにオツなものである。
ジェイムス・ブレイクの新作「THE COLOUR IN ANYTHING」にもいえることだが、ヒューマンな歌声とテクノロジーの融合という意味において、本作は80年代のYAZOOやディペッシュモードのアップデイト版といっても過言でははない。しかし、YAZOOやディペッシュモードとは異なり、アノーニにも、ジェイムス・ブレイクにも、ダンスミュージックへの指向性は全くと言っていいほど認められない。アコースティックな手触りの音楽をゴリゴリのデジタルで創り出すことに主眼が置かれているようで、そこが極めて今日的であるといえるだろう。
「HOPELESSNESS」は極めて完成度の高いポップソング集であり、テクノに関心がない層にも是非おすすめしたい作品だ。



