『Welecome to the Hills』Yussef Dayes Trio
近年、ジャズドラマーの手がけた作品に傑作が多い気がする。一昔前は、ジャズドラマーであり、ジャズ・メッセンジャーズのバンドリーダーでもあるアート・ブレイキーがポピュラーなアルバムを量産していたものの、そのようなケースはむしろ例外的であり、マックス・ローチにしても、エルヴィン・ジョーンズにしても、フィリー・ジョー・ジョーンズにしても、ジャック・ディジョネットにしても、トニー・ウィリアムスにしても、名ドラマーと呼ばれる人たちのリーダー作には、問題作はあっても、定番といえるアルバムが驚くほど少ない。それは野球やサッカーに喩えるなら、キャッチャーやゴールキーパーが主役の試合が玄人好みはしても、エンターテインメントとしては退屈であるのと似ているのかも知れない。しかし、クラブ・ジャズを通過することでドラマーを取り巻く環境は様変わりした。ヒップホップやブロークンビーツが巻き起こしたビートの革命の流れの中で、ジャズにおいてもドラマーがサウンドクリエーターとしての役割を期待されるようになったのだ。モーゼス・ボイドも、マカヤ・マクレイヴンも、リチャード・スペイヴンも、マーク・ジュリアナも、そうした時代背景のもとに生まれてきた。UKにおける新進気鋭のドラマー、ユセフ・デイズもそんな時代の申し子の一人だ。
ユセフ・デイスは、これまでにUK新世代を代表するカマール・ウィリアムズをはじめ、ポップスシーンで注目されるトム・ミッシュ、ロバート・グラスパー以降を体現するピアニストとして活躍するアルファ・ミストなど、それぞれに音楽性の異なる、きら星の如き才能とタッグを組むことで、アルバムごとに異なるカラーを打ち出してきた。今回は、ロッコ・パラディーノ(ベース)とチャーリー・ステーシー(キーボード)とのセッションだが、テクニックはさておき、2人の知名度は今ひとつだ。そのためかアルバムの名義はユセフの名を冠したユセフ・デイズ・トリオになっているのだが、トリオと呼ぶにふさわしく、バンドとしての一体感やインタープレイの緊張感がダイレクトに伝わってくる興味深いセッション内容になっている。、
さらに本作はこれまでのようなスタジオ制作盤ではなく、コロナ禍前の2019年7月にコペンハーゲンで録音されたライブ盤であり、長めの曲が多いが、どの曲も展開がダイナミックで長さを感じさせない。まるで70年代〜80年代フュージョンを2000年以降の感覚でバージョンアップさせたようなアルバムだが、ドラムが当時とはまるで違う。変幻自在のテンポといい、正確無比なドラムロールといい、ブロークンビーツ並のきれの良さといい、全盛期のスティーヴ・ガットが21世紀仕様にアップデイトされて帰ってきたかの如き凄味がある。ロッコ・パラディーノのスラップ奏法やチャーリー・ステーシーのメロウなシンセサイザーとの相性も良く、プログレッシブでコズミックな世界を創り上げていて圧巻だ。とりわけ④「Gully Side」は12分以上に及ぶ大作だが、複雑な展開の中にもトリオの息のあったプレイが堪能できる本作屈指のトラックだ。アルバム表題曲の⑦「Welcome to the Hill」は間違いなくブロークンビーツの成果無くして実現し得なかった異次元のマーチング・ジャズといえるだろう。その一方で⑤「For My Ladies」のような叙情的なメロウチューンもあったりして、緩急の妙味が楽しめる。
コペンハーゲンといえば、1960年代に“モンマルトル・ジャズハウス”というライブハウスが存在し、デクスター・ゴードンやケニー・ドーハム、ベント・アクセン、ニルス・オルステッド・ペデルセン、テテ・モントリュー等、国籍や人種を超えた面々が夜ごと集い、信じられないほどスリリングでホットな演奏を繰り広げ、何枚ものライブ盤をリリースしている。パリと北欧をつなぐ交通の結節点であり、自由な風が吹く場所であることが、そんな奇跡を呼び寄せたのだろうが、半世紀以上を経た今も、その記憶は生きているのかも知れない。UKジャズの枠に収まらない素晴らしい作品だ。





