「Echo Echo」WAAN
90年代後半からテクノ寄りのクロスオーバージャズを手掛けてきたドイツのレーベル〈ソナー・コレクティブ〉から、オランダ人ユニットによる傑作アルバムがリリースされた。
〈ソナー・コレクティブ〉といえば、レーベルを主宰するジャザノヴァはもとより、クララ・ヒル、スロープ、ミカ・トーン、ディムライトなどのアーチストが綺羅星のごとく在籍していたピーク時には、シーンをけん引するパワーにあふれたレーベルとしてクラブジャズファンの間では広く認知されていた。
その後、レーベルは指向性の変化により、次第にレゲエサウンドやフォーキーな音楽へと傾倒していく。その結果、輝きは失われ、筆者は追いかけることをやめてしまったのだが、購入コストを考えず、気軽に聴けるサブスク時代になって「あのレーベルは今」的なスタンスで耳にしてみたというわけだ。
WAAN(ワーン)のユニットを構成するのは、サックス奏者のバート・ヴィルツと鍵盤奏者のエミール・ファン・ライホーフェンの2名。ドラマーさえ加われば立派なジャズトリオだが、むしろドラマーの欠如により、彼らの音楽は幅を広げ、豊かな音楽性を獲得することに成功している。
機械的なブレイクビーツがインダストリアルな音響とともにサックスやピアノを駆動させる②「Open」や途中からアップテンポに変わるメロウナンバー③「Chivat」、エレクトリックビートとスピリチュアルな展開が絶妙な④「Lost」など、あくまでもクラブジャズとは異なり、よりジャズの手触りに近く、音楽的にも奥が深い。シンフォニックな⓺「1974」やエレクリックマイルスっぽくなくもない⑦「The Cricketer」、⑧「fFrequence」など、フローティング・ポインツ(音響系ハウスミュージック)、バッド・バッド・ノット・グッド(ジャジーヒップホップ)、エディ・ハリス(エレクトリックジャズなど、多彩なアーティストから影響を受けたといわれる本作。ジャズの向かうべき方向性を周回遅れで示唆するシン(!)・ソナーコレクティブには大いに期待したい。