カイディ・テイタム 〜地球からいちばん遠いジャズ | Future Cafe

Future Cafe

音楽レビューのようなもの〜TECHNO、JAZZ、BREAKBEATS etc

「An Insight To All Minds」KAIDI TATHAM

 

 

 ここ数年のカイディ・テイタムの弾けっぷりは凄い。4ヒーローのディーゴとのユニットやフルアルバム『I'ts About Who You Know』のリリース、Andrew Ashongとのコラボレーションに続いて、またも新作アルバムがリリースされた。メジャーデビューをしてから20年以上というキャリアを思えば、じつに精力的な活動ぶりといえる。こと新作に関して言えば、それが先鋭的な音楽かといえば、真新しいところが何もないといわれても仕方のない音楽だし、未だにブロークンビーツの呪縛から逃れられず、ブロークンビーツに取って代わる新機軸を見い出せてはいないのも事実だ。意地悪く言うなら、時が止まっていると揶揄されても文句はいえないアルバムだろう。それにも関わらず、腰が据わっているというか、迷いがないというか、横綱相撲を見せられているような爽快感は、全盛期以上じゃないかとさえ思うのである。その自信のほどは、これまたベタではあるが、ドラマの始まりを期待させるには十分な宇宙服姿のアメコミ風アルバムジャケットにも現れている。

 真新しいところは何もないと書いたものの、①「Try n Follow」で聴くことのできる鮮烈なビートの若々しさは、一体全体どうしたことか。曲が短すぎるのが玉に瑕だが、歯切れも良く、世が世ならブロークンビーツの傑作として激推ししているところだ。④「Carry It Mongo Man」や⑥「Insight to All Mainds」、⑧「 Dsxswc」はウェザー・リポートやボブ・ジェームス、ジョー・サンプル周辺をバージョンアップさせた感のあるフュージョンナンバー。音響空間に掛け合いのように響くラップが異彩を放つ⑤「 Chungo」といった曲もあるが、全体的にはフュージョン色の強いブレイクビーツアルバムだ。ラテンの哀愁漂うアジムスばりの⑪「Coud It Be」に象徴されるように、メリハリの利いたビートと自身の演奏によるピアノを始めとするメロウなうわものが絶妙なさじ加減でブレンドされたサウンドこそがカイディ・テイタムの真骨頂といえるだろう。 

 すべての音色や音の配列、位相、楽器の構成などがダイレクトに快楽中枢に働きかけてくるように組み立てられている。そこがロバート・グラスパーを筆頭とするUS新世代ジャズプレイヤーによるフュージョンサウンドとの違いだ。西ロンドンのクラブシーンで経験を積んできたカイディ・テイタムにとっては、音楽は体感するものであり、アドレナリンを分泌させるための触媒なのだろう。70年代、80年代の王道フュージョン的な要素も採り入れた本作だが、忘れてはいけない。オリン・ウォルターズ、アレックス・ファウンチと共にカイディ・テイタムが90年代末に結成した西ロンドンを代表するブロークンビーツのオリジネーターユニットの名称がネオン・フュージョンであったことを。