Zara McFarlane〜2020年のジャズ・シンガー | Future Cafe

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「Songs of an Unknown Tongue」ZARA MCFARLANE

 

 

  UKジャズ新世代を代表するシンガー、ザラ・マクファーレンの最新アルバム『Songs of an Unknown Tongue』がジャイルス・ピーターソンが主宰する〈BROWNSWOOD〉からリリースされた。UKジャズ新世代とは言っても彼女にとっては4枚目のフルアルバム(ファーストアルバムは2011年リリース)であり、キャリアも、経験も申し分ない。しかし、予想外とも言える電子音の大胆な導入により鮮やかにバージョンアップされた本作を聴いて、まさに新世代ジャズと呼ぶにふさわしい音楽だと思った。前作には残っていたジャズ・シンガーらしい技巧やライブ感は大幅に抑えられてはいるが、そのせいでザラ・マクファーレンというアーティストの個性が逆に光る作品となっている。

 サウスロンドンのニーナ・シモンとも称される彼女を他のジャズ・シンガーと隔てるもの。それは彼女のルーツであるカリブ音楽へのこだわりだ。レゲエやクミナをはじめカリブ音楽からの影響は前作でも聞きどころの一つだが、今作は過去作においてジャズへと翻訳したカリブ/アフリカ音楽を、さらにエレクトロニクスにより再構築するという高度な試みが為されており、どこからどこまでが民族音楽の引用で、どこからどこまでが純粋にエレクトリックな発想から生まれたサウンドであるかが分からないほどにシームレスに融合している。

 サウンドの鍵を握るのは太古の祝祭的ポリリズム(あるいは呪術的ポリリズム)を想起させるドラムだ。プリミティブでありながらもフューチャリスティックな響きを持つドラムプログラミングはモーゼス・ボイドを意識しているように思えてならない。前作『Arize』でドラマーにモーゼス・ボイドを起用しているだけに、穿った見方でもないだろう。ドラムマシーンはKwake Bassgaが担当しているが、サウンドの構想はザラ本人の手になるものと思われる。ヌバイア・ガルシアの新作もそうだったが、これからはモーゼス・ボイド風のドラムがサウスロンドンの基調音となっていくのだろうか。

 まず、①「Everything Is Connected」のイントロからしてぞくぞくするのだが、ローレル・ヘイローやアルカとビョークのコラボのような⑤「Saltwater」、艶やかなエレクトロの⑦「State Of Mind」、ア・トライブ・コールドクエストの初期作を思い出さずにはいられない湿り気を帯びたビートが印象的な⑧「Native Nomad」など、民族音楽からの影響のみならず、UKならではの多様な音楽のアマルガムとなっており、聴く度に新たな発見がある。要所要所でフェンダーローズやフルート、サックス、トランペットがジャズバンドとは違ったかたちで隠し味的に使われているのも効果的だ。それでいて、ビックバンドの大作を聞き終えたような不思議な充実感もある。ザラ・マクファーレンは、このアルバムによって、サウスロンドンのシーンを着実に前へと推し進め、さらに自らのジャズに地球規模のスケール感を与えることにも成功している。