DAFT PUNK〜70年〜80年代萌えというポストモダン | Future Cafe

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RANDOM ACCESS MEMORIES/DUFT PANK

 イタロディスコ/ミュンヘンディスコの生みの親ジョルジオ・モロダー、マドンナ「ライク・ア・ヴァージン」やデイヴィッド・ボウイ「レッツ・ダンス」のプロデューサーとしても有名な元シックのナイル・ロジャース、「愛のプレリュード」などカーペンターズにも楽曲提供しているシンガーソングライターのポール・ウィリアムズ、ソロ・ピアノで注目のチリー・ゴンザレス、アニマル・コレクティブのパンダ・ベアー、ストロークスのジュリアン・カサブランカ、ザ・ネプチューンズのメンバーでもあるN*E*R*Dのファレル・ウィリアムス、フュージョン・ギタリストのポール・ジャクソン・ジュニア、フュージョンドラマーのオマー・ハキム。世代も、ジャンルも異なるメンバーを、よくもこれだけ集めたものだと感心してしまう。
 ダフト・パンクの4枚目「RANDOM ACCESS MEMORIES」は、すでにあちこちでいわれているように、生演奏を主体としたアルバムで、イタロディスコ、ミュンヘンディスコから、ソウル、R&B、AOR、ソフトロック、フュージョンまで、アルバムタイトルさながらにダフト・パンクが影響を受けた過去の音楽をランダムに引用し、クロスオーバーさせたような内容となっている。トーマ・バンデガルテルとギ=マニュエル・ド・オメン=クリスとの2人で構成されるこのフランスのハウスユニットは、素顔を仮面で隠して隠して見せないなど、ユニークなスタイルでハウスミュージックというジャンルの“無名性”に見合った“匿名性”を強調してみせてきたのだが、今作における“固有名”の氾濫は、たとえそれらがアーティスト本人のものではなく、アルバムのために集まったゲストミュージシャン達のものとはいえ、尋常ならざるレベルといわざるを得ない。まるで70年代以降の音楽史そのものをミュージシャンごとサンプリングしようとでも企んでいるかのようだ。
 「太陽にほえろのテーマ」そっくりのイントロからはじまる1曲目「GIVE LIFE BACK TO MUSIC」に続く、ジョルジオ・モロダー参加の「Giorgio by Molodar」は、いわゆるミュンヘンディスコサウンドなのだが、「サスペリア」などダリオ・アルジェント監督のサウンドトラックを手がけるイタリアのプログレバンド、ゴブリンのクラウディオ・シモネッティを思い出さずにはいられない不穏なシンセと、甘美なフュージョンサウンドがコラボする白眉の1曲だ。8分6秒を過ぎた当たりの展開は、まさにゴブリンチックで鳥肌が立つ。そして、アランパーソンズプロジェクトの「アイ・イン・ザ・スカイ」やガゼボの「アイ・ライク・ショパン(雨音はショパンの調べ)」を彷彿とさせる5曲目「INSTANT CRUSH」。ミュージカル風のポール・ウィリアムスの歌声とホーンがドラマティックな7曲目「TOUCH」。先行シングル曲となったキャッチーな8曲目「GET LUCKY」。11曲目「FRAGMENTS OF TIME」は、ドナルド・フェイゲンを思わせるストレートなAORサウンドだ。70年代後半から80年代前半にかけての音楽の見本市を見せられているかのような印象である。それでも、アルバムを聴き終えて感じるのは、アルバム全体を支配している不思議な統一感だ。
 ダフト・パンクの音楽はハウスミュージックであっても、従来からレトロフューチャーな感覚を売りものにしていたため、懐古趣味満載の本作を聴いても、そこに違和感や驚きはない。むしろ、驚かされるのは、ダフト・パンクの純粋なメロディメイカーとしてのセンスと才能の方だ。20世紀の膨大な音楽アーカイブの中から、琴線に触れるメロディーや音のマテリアルを取り出して、パッチワークのように組み合わせることで、新しいトラックを作り出すという方法論。そこには、ダンスミュージックの新たな可能性も感じるのだが、ダンスミュージックがぶつかっている壁も同時に露呈されてしまっているような気がする。
 東浩紀がその著書「動物化するポストモダン」で、大きな物語の時代から、萌え要素の集合体であるデータベースの時代への変化をポストモダンの流れで論じているが、氏の論に倣うなら、ダフト・パンクの「RANDOM ACCESS MEMORIES」こそが、70~80年代レトロミュージックのデータベースから萌え系要素をサンプリングして再構築したポストモダン音楽といえるのかも知れない。ビデオクリップに松本零士をアニメーターとして起用したり、ロボコップ風仮面を被っていたり、彼らの立ち位置がしばしばオタク的に見えたとしても少しもおかしくはない。何故なら「RANDOM ACCESS MEMORIES」とは、東浩紀の言葉に翻訳すればデータベース消費ということに他ならないからだ。




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