これまでの歴史小説の人物としては、小物であった板垣退助。
「自由は死せず」と嘯いたというのも、本人の口からではなく、岐阜での暗殺事件も未遂で、その後30年以上も生きながらえている。著者も登場人物の1人に「自由は死せず」を「やぼな田舎ぜりふ」と言わせている。
自由民権運動の創始者などではなく、つねに数歩遅れている。植木枝盛から見たら「これほど過去の人もいない」となる。
別の人物は、こう言う。「板垣退助なんて人間は、ほんとうは最初からこの世にいなかったのさ。あたしたちはそのつど討幕の志士の、軍人の、政治家の、理想にもえる演説家の、まぼろしだけを見せられている。」
しかし妙に人気はあった。著者は本書半ばで、中岡慎太郎に「惜しい人だ。高い身分に生まれずご老公の寵も受けなかったら、きっと脱藩して日本中を駆け巡り、わしや坂本龍馬などはるかに及ばぬ仕事をしていただろう」と嘆かせている。


