中途半端な情報しか持ち合わせず、ベースをやっている知り合いもなかった僕は、ベース弦は、太ければかっこいい音がするに決まっている。そう思い込んでいたので、このバイオリンベースをより太い弦に張り替えようと目論んでいた。
だからこそ、アーニーボールのゲージ50−105の弦を一緒に注文したのだ。
しかし、その弦が入っていない。
普通なら、すぐに電話をするなりして送ってもらうのが本当なのだが、ここで余分なプライドが邪魔をして泣き寝入る事になる。
向こうは楽器のプロだ。こちらが初心者だと見抜いて、バカにして弦を同梱しなかったのではないか。
つまり、そんなベースにこんな太い弦は張れないのだから必要ないだろう。これだから素人は困る。
そう思われているのではないだろうか。そんな得体の知れない被害妄想にとらわれ、ここで電話をすれば、会話の内容からこちらが素人だという事がバレて、バカにされ、説教をされるのではないだろうか。
よって、ここで電話をする事は敗北を意味する。俺はここで負けるわけにはいかないのだ。
何と戦っているのかはわからないが、とにかく奴との戦いに、どうしても勝たなければならないという頑なな思いだけが俺を支配していた。