落ち着かなかったのは、何も、楽器を手にした興奮と、格納場所の確保に対する不安感だけではなかった。
予め計算して土曜に楽器が届くように手配をしていたが、時間帯が昼間だった為に、社内の人間が通りかかるのを気にしてビクビクしていたのである。
幸い、2、3人の人がさして興味もなさそうに通り過ぎて行っただけで、特に何を言われる事もなかった。
キラキラのバイオリンベースを確認すると、すぐダンボールに戻し、格納を予定した場所に持ち込もうと箱を抱えて移動を始めた。
その場所は、ベースを受け取った会社の出入り口付近と目と鼻の先にあった。
2階へ上がる階段の下が小部屋のような作りになっていて、清掃用具などが置かれている。独特の匂いがした。
道具置き場なので照明が暗く、コンクリート壁のため若干湿気った感じはするものの、背に腹は変えられない、むしろ楽器を格納し、練習をするには充分すぎる場所だった。
丈の低い鉄扉を開けて無事にその部屋へ楽器を持ち込み、改めて箱を開けると、再びキラキラのバイオリンベースが僕を迎えてくれた。