またしても、随分と間が空いてしまいましたが、北陸・関西 美術&温泉&お花見紀行の続き。4/13(土)  京都国立博物館で鑑賞した【雪舟伝説展】の後編。

 

選りすぐりの雪舟真筆作品9点(国宝6点・重文3点)で構成された「雪舟精髄」の観覧を終えた後、2F展示室へ下りました。ここからは雪舟真筆・伝雪舟筆の作品を挟みながら、雪舟をリスペクトする後世の絵師達の作品が並ぶ「雪舟受容」 

雲谷派・長谷川派・狩野派等を筆頭に、曽我蕭白・光琳・応挙・若冲等の錚々たるビッグネームの作品を観ることができました。その中で強く印象に残った作品をピックアップします。

 

↓は江戸時代、雪舟の真筆とされましたが、現在では雪舟の古模本とされる有名作

伝雪舟 《富士三保清見寺図》 (永青文庫蔵)

 

バランスがとれた富士山・三保松原・清見寺の画面構成の卓抜さから、数多くの絵師達が模写したり、範とした作品になりました。”雪舟受容”という点では最も影響力があった代表的な作品でしょう。

 

↓伝雪舟の硬質でゴツイ岩・山・樹木と異なり、探幽らしい柔らかな線で描かれ、

 全体として端麗な風景に仕上がっている

狩野探幽 《富士山図》

 

↓江戸で活躍した探幽らに対し、永徳様式の継承を目指した京狩野の山雪

   江戸狩野とは一線を画していましたが、同じく雪舟をフォローしていた様子

狩野山雪 《富士三保清見寺図屏風》

 

↓”奇想の絵師”の代表格と言ってもいい曽我蕭白は虹まで描きこんだ!

  蕭白は狩野山雪の孫に学んだとされているので、京狩野の系譜とも言える

曽我蕭白 《富士三保図屏風》

 

↓”西洋かぶれ”も雪舟をリスペクトしていた!

司馬江漢 《駿河湾富士遠望図》

 

真筆ではない 伝雪舟《富士三保清見寺図》でさえ名だたる絵師達に多大な影響を及ぼした事実を知り、日本絵画史において雪舟が別格の存在であったことを再認識しました。

 

前日、本法寺にて 長谷川等伯 「雪舟五代」を名乗り始めた《佛涅槃図》を鑑賞しましたが、本展でも「雪舟五代」の署名入りの作品がありました。太い墨線で人物を象る表現は雪舟の作品に習ったのではないか?と推測されます。

長谷川等伯  《竹林七賢図屏風》 (京都 両足院所蔵)

 

 

長谷川派も狩野派も雪舟を範としたわけですが、琳派も多大な影響を受けました。

↓は雪舟の山水図そのまま。光琳は江戸滞在時、毎日のように雪舟の絵を見て、模写もしていたと書き記しているそうです。本作は以前、所蔵館で観たことがあり、今回が二度目。私のお気に入りの作品。

尾形光琳画 尾形乾山作  《錆絵山水楼閣図四方火入屏風》 (大和文華館所蔵)

 

↓明治時代に活躍した芳崖にも”雪舟受容”が見られる

 

[重文] 伝雪舟 《梅潜寿老図》    狩野芳崖 《寿老人図》

 

《梅潜寿老図》は阿波蜂須賀家伝来の品で、江戸時代は雪舟真筆とされ、狩野派も雪舟模範品と位置付けていたようです。現在では「雪舟真筆の決め手に欠ける」という理由から”伝”とされていますが、真筆の可能性も十分にあると見なされているようです。複雑な梅の木の枝などは雪舟らしいと私は思います。 


 

雪舟受容作品が並ぶ中、1Fと2Fの展示室にも雪舟作品は混ざっていました。

雪舟が宋や明の絵師に倣って描いた現存作品も5点展示されていました。

[重文] 雪舟 《倣李唐牧牛図 渡河・牧童》 (山口県立美術館蔵)

 

雪舟 《倣夏珪山水図》

 

 

私が最も注目したのは、完存する雪舟の画巻として《山水長巻》に次ぐものとされる《四季山水図巻》。雪舟が晩年に夏珪の山水図の中から定型的な描写を選んで再構成した絵手本的な画巻のようです。《山水長巻》と比べると雑な部分があり、完成度では劣るとされます。

江戸時代、《山水長巻》は門外不出(毛利家所蔵)でした。狩野派でも見ることができなかったので、この夏珪様式の《四季山水図巻》を範としていたそうです。巻末には狩野安信による『神品』との極書が付属しています。

[重文] 雪舟  《四季山水図巻》 (京都国立博物館蔵)

 

ちなみに、徳川吉宗の時代に幕府が長州から《山水長巻》を江戸に持ってこさせて狩野古信に模写させた《雪舟筆四季山水図巻模本》も本展で展示されています。模本ですが国宝です。この時の運搬や模写作業は、徹底したリスク管理の下に実施されたとのことです。
本展では毛利博物館所蔵の
雲谷等益による模本(重文)も展示されていましたが、やはり狩野派による模写の方が正確です。模写ですが筆者の気迫を感じました。

[重文]《倣高克恭四季山水図巻》という変わり種もありました。前半は雪舟の真筆、後半は長谷川某(等伯の孫という説もあり)が描いたという複雑な来歴を持つ画巻です。

↑前半  ↓後半



また、狩野常信による雪舟倣古図の模写もあり、現存しない雪舟筆の図柄も含まれています。狩野派はこのような形でも美術史に貢献しています。
狩野常信は
《雪舟筆鎮田瀑布図巻模本》も残していて、失われた雪舟作品(関東大震災で焼失)を想像することもできます。大分県にある滝の豪快な水流が描かれているのですが、焼失してしまったのが本当に残念です。

 

雪舟が描いた滝図を観ることはできませんが、その滝は現存しているので、機会があれば見物に行ってみようと思います。

 


他にも見所が豊富にありましたが、キリがないのでこの辺りで締めることにします。私は本展が『雪舟展の決定版』と感じたし、今年の美術展のハイライトでもあったとも思っています。東京巡回がなかったので、遠征して観ておいて本当によかった。美術展も一期一会。迷ったら、行っておくのが正解です。

前編で触れた、選りすぐりの雪舟真筆作品9点(国宝6点・重文3点)で構成された「雪舟精髄」は壮観でした ニコニコ