随分、間が空いてしまいましたが、北陸・関西 美術&温泉&お花見紀行の続き。

4/13(土)  京都の四条烏丸の東横インで迎えた旅行最終日。

前日は西陣を中心に京都のお花見を楽しみましたが、最後は美術鑑賞で締めます。

ホテルをチェックアウトし、京都国立博物館 へ向かいました。

この旅行における美術鑑賞のメインイベント 『雪舟伝説展 』の観覧です。

 

大英博物館から里帰りの《雪舟坐像》 三輪在栄作(江戸時代)

 

今年の美術品展示の展覧会の中では、恐らく最大の目玉になるのではと思っている必見の特別展。東京への巡回はないので、京都まで観覧に行くことは昨年から決めていました。

雪舟の画業を辿りながら、画風が確立していく様を検証していくといった視点はなく、むしろ雪舟の影響を受けた後世の絵師の作品に焦点を当てるのが主旨であり、「雪舟展ではない」と主催者側は強調しています。

しかし、国宝指定されている雪舟真筆6点を筆頭に、主だった作品が勢揃いしています。客の大半も雪舟作品が目当てでしょう。紛れもなく『雪舟展』です!

 

訪れたのは展覧会初日(土曜日)の開館直後でした。
恐れていたほどの混雑ではなく、しっかりと観覧できました♪

館内撮影不可なので、以下の作品画像は購入した図録等からの複写です。

 

圧巻は3F展示室の「第1章 雪舟精髄」

選りすぐりの雪舟真筆作品9点(国宝6点・重文3点)のみが並んでいる贅沢な空間になっていました。二番目の展示室なんか3点しか展示していません。雪舟へのリスペクトが感じられる破格の待遇です。

 

東博所蔵の雪舟の代名詞的傑作からスタート!

[国宝] 《秋冬山水図》 (東京国立博物館蔵)

 

楷書的な王道山水図。筆の大胆さ・勢い、墨の濃淡のコントラストといった雪舟の特徴がよく表れています。左(冬景)の中央辺りに見える天に向かって伸びる太い垂直線(岩山の崖)は雪舟でなければ描かないような個性で面白い。ここで使われている

遠近法とは違った奥行表現も雪舟独特のものであるそうです。

 

 

 

[国宝] 《破墨山水図》 (東京国立博物館蔵)

 

こちらは草書的で抽象画のような山水図。雪舟、硬軟自在といった感じです。

鎌倉からやって来て入門した弟子が帰る時の餞別として描き、与えた水墨画とされ、上部には雪舟自筆の文が書かれています。↑右の赤□部分は「余曽入大宋国(オレはあの宋の国へ行った)」と書かれていて、一際太字の「入」に雪舟の自慢する気持ちが表れていると 山下裕二(明治学院大学教授、美術史家)が指摘しています。雪舟の人間臭さも感じさせる作品です。

 

 

↓は雪舟の絶筆とされる山水図。山口にある雪舟の庵(雲谷庵)に置かれてあったそうです。中景に没骨で描かれた山、手前に配置された45度の山への墨の重ね塗りといった雪舟の晩年の放逸さが見られるとのこと。室町時代の80代ですから、流石に根気は薄くなり、気の趣くままに描きたくなったのでしょう。

 

[国宝] 《山水図》 

昨秋訪れた山口の雲谷庵

 

 

今回、私が最も観たかったのが↓ 初見でした。

[国宝] 《天橋立図》 (京都国立博物館蔵)

 

雪舟が描いた実景図の中で、唯一、私も眺めたことがある天橋立

[2021年に撮影]

 

雪舟画と同じ角度からの眺望は見ることができませんでした。雪舟画は上空から一望した景であり、雪舟自身も実際にはこの角度では見ていないはずです。複数地点での写生を元に構成したと考えられています。

遠景の山々は中国山水画的な理想郷のように描かれていますが、中央の社寺や家屋敷はリアルに詳細に描かれいます(知恩寺の多宝塔やお地蔵さんまで克明に描かれている)。雪舟は写実力も優れていたことを実感できるという意味でも貴重な作品。

 

 

そして、雪舟畢生の16mに及ぶ大作であり、最高傑作だろうと思われる『山水長巻』も来ていました。これも通期展示でしたが、期間中1/3ずつの巻替であったのが残念・・・私は毛利博物館で2回、丸ごと独り占め鑑賞しているのでいいですけどね。

[国宝] 《四季山水図巻(山水長巻》 (毛利博物館蔵)

 

以下、図録解説文の引用。

「雪舟67歳の渾身の大作で、桃山から江戸時代にかけて「天下無双」と称されるなど、数ある雪舟画の中でも特別な存在であった。季節、天候、時間という自然の変化が、多種多様なモチーフを用いて表されており、山水に関する彼の造形手段の大半をここに見ることができる。荒らしい筆致ながら稠密な描き込み、ほどよい墨の濃淡の変化と透明感のある彩色、そして日本の画巻としては大きな縦寸を生かしたダイナミックな構図と、長大で複雑な視点誘導が展開し、画風と画面構成の両面で雪舟様式の一つの到達点を示す。」

まさに日本絵画の至宝といっていい作品で、これは全編をゆったりと時間の流れに乗るように鑑賞するのが醍醐味であり、1/3で切られてしまっては魅力半減です。

5~10年に一度ぐらいは毛利博物館で全編鑑賞したい作品です。

秋の賑わい・冬景

 

毛利博物館では毎年、庭園の紅葉が美しい秋に公開されます。

秋の毛利庭園(2023年11月に撮影)

 

 

国宝6点目は人物画

[国宝] 《慧可断臂》 (愛知 斎年寺蔵)

 

以下、図録解説文の引用。

「雪舟による人物画の代表作で、後の禅宗二祖慧可が初祖達磨に入門を乞食い、肘を切り落として覚悟を示したという凄まじい逸話を描く。舞台である岩窟の重厚さ、二人の表情や切断された腕の生々しい肉感に対し、硬い横顔のシルエットや極端に水平な地面、均一で無機質な達磨の衣文線といった抽象性の対比が鮮烈で、求道の緊迫感が異形の造形として表れている。」

達磨の柔らかな衣文線と厳しい横顔が特に印象的でした。

 

 

雪舟真筆とされる唯一の花鳥画も

[重文] 《四季花鳥図》 (東京国立博物館蔵)

 

蠢くような樹木と複雑に伸びる枝、荒々しく硬い岩石、滝、といった重厚な景を背にして凛と立つ鶴。後の等伯・狩野派・若冲等の作品にも見える図のオリジナルがこれなのでしょう。一転して静寂感のある左隻の雪景との対比も素晴らしい。

 

 

この3F展示室「第1章 雪舟精髄」だけでも東京から観に来た甲斐がありました。

このレベルの”雪舟精髄”を観覧できる機会はもう暫くはないでしょうし、私にはこれが最後の機会であったかもしれません。

この後も見応え十分な展示が控えていました。