ある週末。美容院で髪をカットし、帰路はバスを利用することにした。
私の住む地域では、鉄道路線から外れている代わりに、割とバス路線が充実している。時間が合えば利用することが多い。発車時刻より少し早く停留所に着くと、小柄な女性が一人待っていた。美しい白髪のショートカット。耳元にはピアスが揺れている。薄化粧をされていて、薄手のサマーニットと相まって涼やかな印象だ。あまりにもおしゃれな雰囲気だったので、思わず声をかけた。
「お髪が素敵ですね。どこでカットされているのですか?」
女性は、あら?という表情を一瞬されたが、直ぐに柔らかな笑顔でこう答えられた。
「ありがとう。これはね。美容院じゃなくて床屋さんで切ってもらってるのよ。もう高齢だからね。あまり色々気にしなくなったのよ」(高齢?いや、どう見ても60代くらいにしか見えないけれど)
女性は続けてこうおっしゃった。
「もう80超えているからね。汚いおばあちゃんにはなりたくなくて、それだけは気をつけているの。でも、困ったこともあるのよ」
聞けば、女性の悩みは、年寄り扱いされないことなんだそう。バスや電車で優先席に座っていると、高齢者が前に立つことが多い。気にし過ぎかもしれないけれど、無言の圧力を感じる。自身もバスや電車で立ったままの移動が大変な時もある。優先席を利用したい。でも、前に立たれてしまう。そして、ご自身が席を譲られることはほぼないのだそう。
世の中には色々な悩みがあるものだ。私の周りには、逆の悩みを持つ方が多い。還暦を超えて70代、80代になっても、身体を鍛えたり、若い世代と交流して知見を広めたりされる。そういう方々にとっては年寄り扱いなんてもっての外なのである。
さて、加齢に抗うのか受け入れるのか。それは自分の心持ち次第。
「バスが来ましたね。お話できて楽しかったわ」
幸いバス待ちは私も含めて3人。女性が先にバスに乗り込まれ、優先席に座られたのを確認し、私も着席。帰路についた。
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